第22回 北海道新幹線の魅力

未来パイロット・北海道

第22回 北海道新幹線の魅力

 2009年秋の政権交代以降、政府の公共事業予算は減少一方であり、多数の公共事業が凍結されてきたが、昨年12月、東京外殻環状道路などとともに北海道新幹線も復活する方向で民主党内の検討が開始され、平成24年度予算に費用が計上される見込である。
 財政赤字の国内総生産比がギリシャと同等、長期債務残高の国内総生産比は世界最大という国家財政状況のなか、採算が危惧される北海道新幹線の建設には賛否両論があるが、地域にとっては数十年来の悲願の実現へ一歩前進であり、新年早々、未来を期待させる朗報である。
 その期待は北海道新幹線の路線が建設される渡島半島だけへの効果ではなく、札幌以遠の道内全域への効果であることは当然であるが、これまで建設された高速鉄道は地域にとって功罪が相半ばする側面があり、これがマイナスにならない準備が必要である。
 反面教師は東海道新幹線の開通以降の関西の地盤低下である。工業生産の金額で比較すると、新幹線開通前の1950年には関東と関西の比率は1.0対1.05と関西優位であったが、開通から10年経過した1975年には1.0対0.67と一気の逆転である。
 万有引力の法則では両者の質量の掛算を距離の二乗で割算した数値が引力となる。高速鉄道は分母である時間距離を大幅に縮小するから引力は大幅に増大するが、どちらが綱引きで有利になるかが勝負であり、それは両者の質量の大小で決着する。
 人口、経済などを質量とすれば、全道は首都圏域に対抗できないが、勝目がある質量が登場してきた。「魅力」である。ハーバード大学教授ジョセフ・ナイは、国力は「武力」から「財力」へと移行してきたが、情報時代には「魅力」が国力になると提言している。
 「魅力」は英語で「アトラクティブネス」、すなわちヒトやカネを誘引する「魅力」こそが、情報時代の国力になるという理屈である。この魅力理論を地域に応用すれば、沿線地域には札幌に、全道には首都地域に十分に対抗できる魅力が潜在する。
 課題は全道各地に潜在する魅力の原石を加工して宝石に変貌させ、その存在を国内そして世界に周知する戦略である。北海道新幹線の実現までには時間がある。この時間に魅力創造・発信戦略を推進し、巨額の投資をヒトやカネを誘引する資産とする準備が必要である。

(2012年1月)

プロフィール

月尾 嘉男(つきお よしお)

1942年愛知県生まれ。1965年東京大学工学部卒業。1971年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。1978年工学博士。名古屋大学工学部教授、東京大学工学部教授、総務省総務審議官などを経て、2003年より東京大学名誉教授。2004年2月ケープホーンをカヌーで周回する。専門はメディア政策。著書は『IT革命のカラクリ』『縮小文明の展望』など。趣味はカヌー、クロスカントリースキー。
月尾嘉男の洞窟(http://www.tsukio.com/)

月尾 嘉男(つきお よしお)

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