第21回 淡水王国・北海道の戦略

未来パイロット・北海道

第21回 淡水王国・北海道の戦略

 人間をはじめとする地球の生物の大半にとって、必須の物質は酸素、淡水、食料の順番である。人間の意図した呼吸停止時間の記録は20分弱であり、淡水を摂取せずに生存できる時間は数日であり、絶食記録は50日間という数字が必須の順番を証明している。
 地球は表面の70%が水面という宇宙では希有な存在であるが、残念なことに97.5%は海水で淡水は2.5%でしかない。しかも淡水の69.5%は南極の氷床や高山の氷河に固定され、30.1%は地下に存在し、湖沼や河川に存在する淡水は、わずか0.3%という微量である。
 この微量の淡水に依存して地球の膨大な生物が生息しているが、人類も同様である。いまや70億人を突破した人間は、当然のように貴重な資源を争奪するようになり、20世紀を石油争奪の世紀とすれば、21世紀は淡水争奪の世紀になるという意見は多数存在する。
 かつて、日本は安全と淡水を無料と理解している希有な民族といわれたことがあるが、現在では、玄関にガードマンが常駐する建物が増加し、安全は有料になりつつあるし、ミネラルウォーターも年間50億本が販売される淡水有料社会になりつつある。
 そして意外にも、日本は淡水の豊富な国家ではないのである。国土への総降水量のうち、蒸発する部分を引算した水量を水資源量と定義し、年間1人当たりに換算すると、世界平均は7000立方メートル程度であるが、日本は半分以下の3340立方メートルでしかない。
 ところが北海道は平年で年間1人当たり10140立方メートルもあり、全国平均の3倍に相当する水資源量を保有している。しかも「羊蹄のふきだし湧水」、利尻の「甘露泉水」、千歳の「ナイベツ湧水」が日本の名水百選に選定されているように、水質も優良である。
 この良質の淡水が豊富に賦存するということは、水源地域の自然環境が適切に保全されていることを意味している。この環境を維持しながら日本最大の自然資源を有効に利用していくことは北海道にとって重要な戦略であるが、現状では明確な計画は提示されていない。
 フランスの「エヴィアン」や「ヴィッテル」のように広大な地域を保全して、世界有数のミネラルウォーター王国を創設することや、自然環境を改変しない小型水力発電王国を目指すことも可能である。21世紀の最大の資源を保有する地域としての構想を期待したい。

(2011年12月)

プロフィール

月尾 嘉男(つきお よしお)

1942年愛知県生まれ。1965年東京大学工学部卒業。1971年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。1978年工学博士。名古屋大学工学部教授、東京大学工学部教授、総務省総務審議官などを経て、2003年より東京大学名誉教授。2004年2月ケープホーンをカヌーで周回する。専門はメディア政策。著書は『IT革命のカラクリ』『縮小文明の展望』など。趣味はカヌー、クロスカントリースキー。
月尾嘉男の洞窟(http://www.tsukio.com/)

月尾 嘉男(つきお よしお)

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