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第19回 海洋大国へのパイロットの期待
第19回 海洋大国へのパイロットの期待

日本の国土面積は38万平方キロメートルで世界最大のロシアの50分の1、世界61位である。しかし、海岸から200海里(370キロメートル)までの排他的経済水域の面積は448万平方キロメートルで世界6位であり、国土面積と合計すると一気に9位に浮上する。
日本周辺には深度8000メートル以上の日本海溝をはじめとする深海が存在する結果、排他的経済水域の海水の容積は世界4位、多数の島々と複雑な海岸線のため、海岸線の延長は世界5位になり、1人あたりの延長でも世界10位に位置する。
昨年8月、世界各国が協力して調査した海洋生物の種類が発表されたが、日本近海には15万種の生物が生息し、世界有数の海洋生物が存在するホットスポットと認定された。これらの数字が象徴するように、日本は海洋については世界有数の大国なのである。
これまで、この広大な海洋は漁業資源を確保するための空間であり、最近は低迷しているものの、1990年代まで日本は世界最大の漁業王国であった。ところが今後の世界の資源の状況を見渡すと、海洋は鉱物資源の有望な宝庫になってきたのである。
海水には様々な鉱物資源が溶融しており、その総量は金であれば地上の130倍以上、ニッケルは60倍程度という大量である。また海底にはマンガンノジュールとかマンガンクラストといわれる金属資源があり、海底からは熱水鉱床が噴出している。
これらから有用な資源を採集できるのは将来のことであるが、メタンが水深1000メートル程度の海底で圧縮されてシャーベット状態になっているメタンハイドレートは有望で、掘削して水面まで浮上させれば気化してメタンガスになり、日本近海の海底に大量に存在している。
日本は鉱物資源や化石燃料がわずかしか存在しない国土に多数の人々が生活し、資源の視点からは不運な国家であった。しかし、漁業でしか利用してこなかった海洋が日本に大量の鉱物資源や化石燃料をもたらす時代が到来しつつある。
北方の大地の陸地面積は都道府県単位で断然一位であるが、海岸線長も日本最長である。これまで海岸は漁業資源の宝庫であったが、鉱物資源の宝庫となる時代が接近してきた。北方の大地から北方の海洋へと視野を拡大し、海洋大国のパイロットとなることを期待したい。
(2011年10月)
月尾 嘉男(つきお よしお)
1942年愛知県生まれ。1965年東京大学工学部卒業。1971年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。1978年工学博士。名古屋大学工学部教授、東京大学工学部教授、総務省総務審議官などを経て、2003年より東京大学名誉教授。2004年2月ケープホーンをカヌーで周回する。専門はメディア政策。著書は『IT革命のカラクリ』『縮小文明の展望』など。趣味はカヌー、クロスカントリースキー。
・月尾嘉男の洞窟(http://www.tsukio.com/)