第14回 国土安全保障のパイロット

未来パイロット・北海道

第14回 国土安全保障のパイロット

 昨年11月に北海道庁は外国の個人や企業が保有している道内の森林面積の調査結果を発表した。国家安全保障にも影響する問題について、日本の森林面積の23%という、都道府県としては最大の森林を保有する地域が率先して調査したことは見事なパイロット活動である。
 調査結果は外国資本が保有している森林は33カ所で面積は820haということであるから、それは一部にしかすぎないことは容易に想像できるが、これまで噂話程度で懸念されてきた状況を、一部であるにしても明確にしたことには重要な意義がある。
 この問題は相当以前から警告をする識者も存在していたが、中央政府の対応は遅々としたものであり、ようやく今年になって外国の個人や企業の森林所有を規制する法制を検討しはじめた段階である。その検討の開始に今回の道庁の調査が影響したことは確実である。
 日本にも外国の人間が国内で土地を取得することには許可が必要であるという政令が存在したが、1979年に廃止されて以後は制限がなく、原則自由となっているから、不法に取得しているわけではないが、最近になり購入が増加していることから、その目的が憶測されているわけである。
 木材を入手するとか、淡水を入手するという目的であるとすれば、一般の市場で十分に調達できるし、採算の観点から疑問とする意見もあり、今後、移民してきて定住する場所を事前に確保しておくという推測も飛躍しすぎて疑問である。
 東南アジア諸国の一部は外国の人間や企業による土地の登記を制限しているが、欧米諸国の大半は規制がないので、日本が特別に例外ということではない。問題は尖閣諸島周辺での騒動が明示したように、現在の日本国民が国土安全保障に鈍感になっていることである。
 その視点から、江戸時代には北方の脅威に対処し、戦後は北方四島の問題に直面してきた日本最北の大地は国土安全保障についてもっとも敏感な地域である。森林の取得許可も農地と同様に実務は都道府県が対処することになるとすれば、先頭で検討することが期待される。
 この問題を明確にする前提として、地籍調査が必要である。地籍が確定している道内の土地面積は62%であり、全国平均の46%は上回っているものの、全国で10位前後である。国土安全保障のパイロットとなるべき土地が地籍調査のパイロットとなる期待もある。

(2011年5月)

プロフィール

月尾 嘉男(つきお よしお)

1942年愛知県生まれ。1965年東京大学工学部卒業。1971年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。1978年工学博士。名古屋大学工学部教授、東京大学工学部教授、総務省総務審議官などを経て、2003年より東京大学名誉教授。2004年2月ケープホーンをカヌーで周回する。専門はメディア政策。著書は『IT革命のカラクリ』『縮小文明の展望』など。趣味はカヌー、クロスカントリースキー。
月尾嘉男の洞窟(http://www.tsukio.com/)

月尾 嘉男(つきお よしお)

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