第12回 視点の変化で価値が増大する流氷

未来パイロット・北海道

第12回 視点の変化で価値が増大する流氷

 流氷の季節が終盤に近付いている。この流氷が離岸する時期になると流氷カヤックが可能になる。危険な蛮行と想像されるかもしれないが、沖合に滞留している流氷が波浪を防止し、その内側はきわめて静穏な海面になるから、夏場よりも安全かもしれない。
 とりわけ晴天であれば、海上から眺望する白銀の知床連山は得難い光景であり、上川盆地から眺望する冬期の大雪連峰の勇姿とともに、アイヌの人々がカムイミンタラ(神々の庭園)と崇拝してきた道内各地の自然環境のうちでも抜群の絶景を享受できる。
 もちろん、知床半島の付根のウトロから出発する流氷観光用小型船からでも、見渡すかぎり白色になった海面と銀色の知床連山という国内唯一の風景は十分堪能できるが、水面と同一の目線から海面を眺望すると、その神秘を一層実感することができる。
 ところが数年以前から、さらに身近に流氷を体験できる機会が登場している。流氷ウォークである。全身を完全に密閉するドライスーツという衣服を着用し、地元の案内の人々とともに氷原を散歩するだけではなく、海中に飛込むという体験も可能である。
 流氷が陸地に接近するのはオホーツク海域だけではなく、カナダ東部の海岸やスカンジナビア半島の付根のボスニア湾奥など各地に存在するが、もっとも緯度が低位で、しかも網走のような人口数万の都市の面前まで到来するのが知床半島である。
 道内の人々には周知のことであるが、冬場に漁業ができない、気候が寒冷になるなど、かつて流氷はオホーツク地域にとっては迷惑な存在であったが、研究が進展して、流氷が大量のプランクトンを育成して豊富な魚介をもたらすなどの恩恵が認識されるようになっている。
 さらに最近では、世界遺産登録の効果も相乗して、流氷は冬期(1月〜3月)の観光の目玉になり、20年前と比較すると、オホーツク地域の冬季の入込客数は2倍となって100万人を突破し、外国人宿泊者が3倍の2万2000人になっている。
 現在、各地で足元の埋蔵資源の発掘競争が進行しているが、道内の自然資源は他所を圧倒する質量である。その資源に新規の価値を付加するのが、流氷カヤック、流氷ウォーク、観光用小型船である。これに見習い、既知の資源にも視点の追加をすることが今後の戦略である。

(2011年3月)

プロフィール

月尾 嘉男(つきお よしお)

1942年愛知県生まれ。1965年東京大学工学部卒業。1971年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。1978年工学博士。名古屋大学工学部教授、東京大学工学部教授、総務省総務審議官などを経て、2003年より東京大学名誉教授。2004年2月ケープホーンをカヌーで周回する。専門はメディア政策。著書は『IT革命のカラクリ』『縮小文明の展望』など。趣味はカヌー、クロスカントリースキー。
月尾嘉男の洞窟(http://www.tsukio.com/)

月尾 嘉男(つきお よしお)

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