第10回 開国の荒波を突破するパイロット

未来パイロット・北海道

第10回 開国の荒波を突破するパイロット

 ここ数年、日本ではガラパゴス現象という言葉が流行している。赤道直下の南海の孤島ガラパゴスで特殊な進化をした固有の生物から名付けられた現象であるが、そこから派生して、ある環境に過度に適合した社会を表現するのに使用されている。
 その社会で長年にわたり生存してきた生物にとっては極楽のような環境であるが、問題は環境が急激に変化したときに適応する能力を喪失して対応できず、衰退どころか、場合によっては絶滅にまで到達する危険があることを指摘した言葉である。
 その好例がニュージーランドの鳥類である。この島国には、キウイ、カカポ、タカヘなど飛翔能力を喪失した何種かの鳥類が生息している。ニュージーランドがオーストラリア大陸から分離した時点では捕食動物が存在せず、飛翔して逃避する必要がなかったからである。
 ところが1億年後、西欧からの移民がキツネやイタチなどの捕食動物とともに渡来し、それらの動物にとって地上を歩行している鳥類は絶好の獲物となり、数十種類もの固有の鳥類が絶滅し、わずかに生存した前述の鳥類も絶滅寸前になってしまったのである。
 携帯電話が日本のガラパゴス現象の典型である。国内で販売されている製品の大半は国産であるが、世界の占有比率では日本製品は数%でしかない。複雑な機能をもつ高価な製品は日本国民には適合しているが、世界では相手にされなかったのである。
 この問題には二種の解決方法がある。孤立した環境を維持する鎖国か、開国して激変した環境に早急に適応する努力をするかである。もちろん貿易立国の日本にとって鎖国の選択はできないから、唯一の方法は開国による環境の変化に対応する努力である。
 その最新の激変がTPP(環太平洋戦略経済連携協定)の登場である。これへの参加が決定すれば、国内、とりわけ道内の農林漁業は壊滅するという議論が活発になっている。もちろん鎖国と開国を統合した戦略が考案できれば素晴らしいが、簡単なことではない。
 これは一次産業だけではなく、すべての産業が直面する荒波である。そうであれば、日本ではもっとも海外の生産環境に類似している道内の一次産業が、危機こそ好機の精神で挑戦し、荒波を最初に突破するパイロットになることが期待されるのである。

(2011年1月)

プロフィール

月尾 嘉男(つきお よしお)

1942年愛知県生まれ。1965年東京大学工学部卒業。1971年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。1978年工学博士。名古屋大学工学部教授、東京大学工学部教授、総務省総務審議官などを経て、2003年より東京大学名誉教授。2004年2月ケープホーンをカヌーで周回する。専門はメディア政策。著書は『IT革命のカラクリ』『縮小文明の展望』など。趣味はカヌー、クロスカントリースキー。
月尾嘉男の洞窟(http://www.tsukio.com/)

月尾 嘉男(つきお よしお)

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