第8回 自然の恩恵を組込む経済構造

未来パイロット・北海道

第8回 自然の恩恵を組込む経済構造

 経済分野にペティ=クラークの法則といわれる理論がある。産業の収益は一次産業、二次産業、三次産業と高次になるほど増大し、そのため国家や地域の発展とともに、産業の中心は一次から二次、そして三次へと移行していくという理論である。
 日本全体では、60年前には一次産業の就業者率が50%であったが、現在では5%以下になる一方、その期間に三次産業は30%程度から70%にまで増大し、二次産業も最高の35%から現在では25%になり、ペティ=クラークの法則が成立することを証明している。
 この理屈からすると、日本の農地面積の25%、農業生産の12%を占有する道内の農業、全国の23%に相当する森林面積から木材の19%を生産する道内の林業、そして漁船の11%を保有し、漁業生産の19%を占有する漁業という道内の一次産業の未来は先細りということになる。
 この法則に挑戦する第一が六次産業である。一次、二次、三次を加算して六次ということであるが、農業や漁業の産品を、そのまま道外に移出するのではなく、加工という二次産業、流通という三次産業の部分も道内企業の仕事とし、高次産業の収益を確保する仕組である。
 これは一種の産業改革程度であるが、さらに大胆な経済革命を提案する。20年前には日本全体で1兆円産業であった林業は現在では4000億円産業に低落している。同様に4兆円産業であった稲作も20年間で半分の2兆円産業に衰退している。
 ところが、森林の洪水緩和、水質浄化、土壌流出防止などの機能を金銭に換算すると、日本全体で70兆円になるという計算がある。同様に、日本全体の水田の自然を維持する機能は8兆2000億円になる。道内の森林と水田の比率で配分すれば、16兆円と7300億円である。
 残念ながら、この恩恵への見返りは現状ではゼロである。しかし、イギリスでは農業環境支払制度により、農地や森林の生物保護や景観維持の役割に、政府が平均して年間5400億円を農家に支払っている。農業という産業から農村という環境への視点の転換である。
 最近、富士登山への課金や、河原でのバーベキュー利用への課金が検討されている。ゴミと糞尿しかもたらさない人々に自然維持の費用を分担してもらうという発想である。これまで無償で提供してきた極北の自然を経済構造に組込めば北海道大飛躍は間違いない。

(2010年11月)

プロフィール

月尾 嘉男(つきお よしお)

1942年愛知県生まれ。1965年東京大学工学部卒業。1971年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。1978年工学博士。名古屋大学工学部教授、東京大学工学部教授、総務省総務審議官などを経て、2003年より東京大学名誉教授。2004年2月ケープホーンをカヌーで周回する。専門はメディア政策。著書は『IT革命のカラクリ』『縮小文明の展望』など。趣味はカヌー、クロスカントリースキー。
月尾嘉男の洞窟(http://www.tsukio.com/)

月尾 嘉男(つきお よしお)

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