第7回 目指すは自然を消耗しない産業

未来パイロット・北海道

第7回 目指すは自然を消耗しない産業

▲豊羽鉱山全景(GFDL)

 レアメタル(希少金属)は現代産業のビタミンともいわれ、先端技術製品にとって量的には少量で十分であるが、必須の資源である。それらのうちインジウムは液晶ディスプレイやプラズマディスプレイの電極の製造に必須で、世界で流通する8割を日本が消費している。
 現在、インジウムは完全に輸入に依存しているが、ほんの以前まで、世界最大・最良のインジウム鉱山は日本に存在していた。札幌市南区定山渓の山中にある豊羽鉱山である。明治時代から開発され、一時は鉱石の輸送のため専用貨物鉄道が敷設されていたほどであった。
 地下600mまで坑道が掘削されたが、温泉地帯であることからも推測できるように、底部では岩盤の表面温度が160℃にもなり、発破のためのダイナマイトは使用できず、さらに資源の枯渇も顕著になってきたため、2006年度をもって閉山になった。
 北海道産の農業産品は自給比率180%であるが、それは道内の森林の2割以上、湿原の6割以上を消滅させることで成立している。道産の石炭も近代日本のエネルギー資源であったが、現在は枯渇し、夕張から美唄にかけて、延々と廃墟が連続している。
 これらの数例が示唆することは、明治時代以後、道内で隆盛であった一次産業と二次産業は自然の消滅を代価として成立したもので、持続可能な産業ではなかったのである。そうなれば三次産業となり、期待されている中心は観光である。
 これこそ自然が資源であるにもかかわらず、これまでは自然を消耗しながらの発展であった。知床横断道路は知床半島の両側を連絡する利便では重要であるし、途中からの山々の景観は観光の目玉であるが、国内有数の原生の自然は相当に劣化した。
 積丹半島も周回道路が整備されて便利になったし、古平のトンネル崩壊事故の影響で、南側の雷電国道も堅固なトンネルの連続になった。これは大型バスによる早回り観光には貢献しているが、絶景であったニセコ連峰の遠景を鑑賞する機会は消滅した。
 現在、観光資源である自然を保全しながら持続可能な観光を目指すエコツーリズムが話題になっている。しかし、実際は名前とは裏腹なマスツーリズムが増加している。これまでの産業の過去を反省しながら、自然を維持する持続可能な観光の戦略を構想すべきである。

(2010年10月)

プロフィール

月尾 嘉男(つきお よしお)

1942年愛知県生まれ。1965年東京大学工学部卒業。1971年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。1978年工学博士。名古屋大学工学部教授、東京大学工学部教授、総務省総務審議官などを経て、2003年より東京大学名誉教授。2004年2月ケープホーンをカヌーで周回する。専門はメディア政策。著書は『IT革命のカラクリ』『縮小文明の展望』など。趣味はカヌー、クロスカントリースキー。
月尾嘉男の洞窟(http://www.tsukio.com/)

月尾 嘉男(つきお よしお)

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