第2回 パイロットとなる基盤整備の必要

未来パイロット・北海道

第2回 パイロットとなる基盤整備の必要

 ここ数年、世界各地の先住民族を訪問している。それらの民族が長年継承してきた文化が現代社会の問題を解決するのに有用であるという視点から、先住民族の伝統文化や歴史哲学を探索しているのであるが、一部を例外とし、大半は辺境といわれる地域に生活している。
 スカンジナビア半島の北極圏内でサーミ民族が生活しているラップランド地方を訪問したときは、連日、数10世帯しか定住していない集落に滞在したが、そのような僻地の1軒しかない旅館のすべてで、無線のインターネットが整備され、無料で自由に利用できた。
 カナダの北極圏内ヌナブト準州に生活するイヌイット民族を訪問したときは、真夏でも夜間には零下20度になる人口千人程度の寒村の空家を借用して宿泊したが、部屋の窓際に無線の端末装置を設置するだけでインターネットが自由に利用できた。
 その結果、世界の僻地の代表と表現しても過言ではない地域の人々が世界の情勢を熟知し、伝統文化を維持しながら、先端文化と融合する情報通信時代の社会を目指すという、未来社会のパイロットの役割を着々と実行しているのである。
 ところで北海道内のブロードバンド回線の普及割合は41%(2008年)で、全国39位である。より明確に指摘すれば下位から9位ということになる。選択可能な情報の発信状況についても全国で18位(2006年)であり、情報後進国家となった日本の後進地域である。
 日本の辺境としては、広大な面積に少数が生活しているから仕方がないという反論があるかもしれないが、ラップランド地方は日本と同等の面積に約5万人、ヌナブトは日本の5倍以上の氷原地帯に約3万人が生活しているだけであるから、過疎という釈明は困難である。
 実際、ラップランドの存在するフィンランドには世界の携帯電話の40%を供給するノキア、スウェーデンには携帯電話の主要特許を保有するエリクソンが存在し、両国の産業を牽引している。そのノキアは周知のように林業から出発した企業である。
 現在の通信サービスは電話と相違して、距離と時間に関係しない料金体系であり、遠隔や過疎の地域が高密の都市と対等に競争できる手段である。「コンクリートから人間」への転換のパイロット社会となるためにも、人間が必要とする通信基盤を優先整備するべきである。

(2010年5月)

プロフィール

月尾 嘉男(つきお よしお)

1942年愛知県生まれ。1965年東京大学工学部卒業。1971年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。1978年工学博士。名古屋大学工学部教授、東京大学工学部教授、総務省総務審議官などを経て、2003年より東京大学名誉教授。2004年2月ケープホーンをカヌーで周回する。専門はメディア政策。著書は『IT革命のカラクリ』『縮小文明の展望』など。趣味はカヌー、クロスカントリースキー。
月尾嘉男の洞窟(http://www.tsukio.com/)

月尾 嘉男(つきお よしお)

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