第1回 未来社会のパイロットとなる期待

未来パイロット・北海道

第1回 未来社会のパイロットとなる期待

 先週は遠軽山中の林道を20kmほど、クロスカントリースキーで走破してきた。付近の高速道路が閉鎖になるほどの猛烈な吹雪であったが、人工の森林とはいえ、両側の樹木のおかげで林内は静寂であり、東北地方や関東北部の雪中とは相違する風景を堪能することができた。
 道内の自然環境に魅惑され、ここ20年以上、毎年10数回は知床半島、釧路湿原、サロベツ原野をはじめとする各地をカヌーやスキーで探訪しているが、現状の景観や人々の生活の背景を学習していくうちに、この北方の大地の重要な役割に気付くようになった。
 説明するまでもないが、この大地が巨大な転換を開始したのは明治時代以後である。アイヌ民族の人々が慎重に共生してきた以上には手付かずであった自然が存在していたということで、近代日本を構築するための様々な実験が北海道内に展開されてきた。
 ベンジャミン・S・ライマンなど外人顧問の指導による幌内炭鉱などの鉱山開発は、江戸時代から開発されていた白糠炭田などと相違して、地質調査を基礎とする本格開発であり、戦前戦後の日本のエネルギー供給基地となる実験の土地であった。
 最近では、北海道産のコメは質量とも日本の首位になっているが、明治時代初期の開拓顧問ホーレス・ケプロンの指導により、日本伝統の産物コメではなく、広大な農地で小麦を栽培するという実験が実施されたのも、この大地であった。
 それ以外にも、やはりケプロンの指導による日本最初の缶詰工場の開業、ハンス・コラーによる日本最初のスキーの試技など、近代の“日本最初”は道内に数多く存在する。そのような視点からすれば、ここは日本が近代社会に躍進するためのパイロット(実験)地域であった。
 しかし、この近代社会の試行の先頭であった活動は鉱物資源の枯渇、農業の国際市場との競争、基幹産業の海外への移転、日本人観光客の海外志向などにより、苦境に直面しているが、それ以上の苦境に直面しているのが近代社会日本全体である。
 バンクーバー・オリンピックは象徴であったが、政治でも経済でも日本の地位は急速に低下している。そこで再度、パイロットとして日本牽引の主役として登場を期待したいのが極北の大地である。次回から未来社会のパイロットとしての期待を順次展開していきたい。

(2010年4月)

プロフィール

月尾 嘉男(つきお よしお)

1942年愛知県生まれ。1965年東京大学工学部卒業。1971年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。1978年工学博士。名古屋大学工学部教授、東京大学工学部教授、総務省総務審議官などを経て、2003年より東京大学名誉教授。2004年2月ケープホーンをカヌーで周回する。専門はメディア政策。著書は『IT革命のカラクリ』『縮小文明の展望』など。趣味はカヌー、クロスカントリースキー。
月尾嘉男の洞窟(http://www.tsukio.com/)

月尾 嘉男(つきお よしお)

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