進化する北海道のワインづくり

 1963年、池田町の十勝ワインが戦後はじめて本格的に開始した北海道でのワインづくり。ふどう栽培にもワイン用のヨーロッパ品種が数多く導入され、今や北海道は日本一のワイン用ぶどうの栽培地となった。ワイン醸造所も大小20カ所近くにまで増え、品質もどんどん向上している。とはいえ大量に流通される輸入ワインに比較しての生産量の少なさから、北海道民でも触れる機会が少ない北海道のワイン。ファンがさらなる普及に向けて、「応援団」を立ち上げている。

文・写真/田中勲 写真提供/道産ワイン応援団・荒井早百合さん

道産ワイン応援団が今や会員300人!

▲大盛況だった「蝦夷vinワインセレクション」で。道産ワインの作り手に囲まれる荒井さん(写真中央)

 500円程度で購入できる輸入ワインが道内のコンビニエンスストアの棚に並ぶなど、お酒としての値ごろ感もよくなったことから、家での食事にワインを飲むという習慣が北海道にも根付いてきている。しかし、意外と知られていないのが、北海道がワイン用のぶどうの生産量では日本一ということ。北海道産のワインはもちろん、日本一のワイン生産量を誇る山梨のものでも、国産のワインが一般の家庭の食卓にのることは、まだまだ少ないのが実情だ。
 荒井早百合さんは、ワインの仕事をしてきた……というわけではなく、10年以上勤めた百貨店を辞めたあとは、ごく普通の家庭の主婦として暮らしている。横浜生まれの荒井さんは、三十代で国産ワインのおいしさに目覚め、東京に住みながら山梨のぶどう栽培家やワイナリーを頻繁に訪問するようになった。転機は2008年、それまで単身赴任をしていたご主人のいる札幌へ転居したことだった。住んでみることで、改めて北海道のワインのレベルの高さに惚れ込み、即座にインターネットを通じて「道産ワイン応援団」を結成し、有志でワイン会を開いたり、ワイナリーを訪れたり。今年7月には、ノボテル札幌で北海道のワインを楽しむ「蝦夷vinワインセレクション」を開催、100人以上のワインファンを集めた。2周年を迎えた道産ワイン応援団は、現在会員数300名を数える。

 

日本中が注目するぶどう産地・余市町

▲どこまでもつづくかのように、美しく広がる垣根仕立てのぶどう畑。この風景は余市ならではのもの

 北海道に住むようになったとき、まず荒井さんが訪れたのは山梨同様、ぶどう畑だった。
 「余市町のぶどう畑の美しさには圧倒されました。山が全部一枚の畑になっている光景は、山梨をはじめ日本の他の地域には全くないものでしたね」
 そんな余市町には、荒井さんが「余市の七人侍」と呼ぶぶどう栽培家がいる。
 「藤本毅さんや田崎正伸さん、北島秀樹さんなど、7人のとても素晴らしいぶどう栽培家さんたちです。苦難の時期にもぶどう栽培を諦めず、今や“匠”として、ワインづくりがわかった上で、ぶどうを栽培されているエキスパート。毎年勉強のために、みなさんでドイツにも行かれているというのも凄いなと思います。お話を聞いているだけで、ぶどう栽培への情熱が伝わってくるんです」
 余市町のぶどうは、北海道ワインや余市ワインなどの道内のワイナリーだけではなく、その高品質さから山梨など本州のワイナリーにも運ばれて、ワインに生まれ変わっている。また、長野のワイン醸造家が、ぶどうの良さに惹かれ余市町に移住し、ぶどうの栽培から醸造までを手掛け、5年後のワインのリリースを目指す、というケースも出てきている。今や余市町のワイン用ぶどうは、日本中のワイナリーの注目の的なのだ。

 

続々と台頭するワインの新しい担い手

▲その情熱からか、ワインについて語りだすと止まることがない岸本雅直さん

 北海道での戦後のワインづくりは、1960年代に池田町が主体となってスタートした十勝ワインが先駆者だ。そののち、北海道ワイン(小樽市)やはこだてわいん(七飯町)、ふらのワイン(富良野市)、余市ワイン(余市町)などが誕生。今では小さいものもふくめると、ワイナリーの数は20近くにのぼる。近年特徴的なのは、生産量の多いデイリーワインが作られる一方、ぶどうや醸造方法に工夫を凝らした高品質のワインが数多く登場するようになったことだ。特にミニワイナリーと呼ばれる規模の小さな醸造所のワインに、そういう傾向が強い。
 洞爺湖のほとりにある月浦ワイン(洞爺湖町)も、その品質の良さで今注目を集めているワイナリーのひとつ。2000年にワインの醸造を開始したので、その歴史はまだ10年だが、毎年山梨で行われている国産ワインコンクールでは2005年より、道内小規模ワイナリーとしては初の5年連続での賞の獲得を果たした実力派だ。使っているぶどうは、洞爺湖湖畔の自社畑で手塩にかけて栽培したもののみ。月浦ワイン責任者の岸本雅直さんは、「ぶどうがいいから、醸造に手間がかからず、いいワインができる」と言い切る。そんな岸本さんがこだわるのは、「北海道らしいワイン」をつくること。

▲印象的な顔のイラストは同じだが、月浦ワインのラベルは毎年デザインが変わるのが特徴

 「ぶどうの品種や味の方向性もふくめ、これが北海道のスタンダードというものが、そろそろできてこないと、消費者が北海道のワインを選択してくれなくなる。飲み手のみなさんの協力も得て、北海道らしいワインの基準を確立していきたいですね」
 2000年を境に、月浦ワインと同じくぶどう栽培からワイン醸造までを行う小規模なワイナリーが他にも、山崎ワイナリー(三笠市)、宝水ワイナリー(岩見沢市)、奥尻ワイナリー(奥尻町)と誕生してきた。これからの何年かは、これらのワイナリーが北海道のワインづくりの牽引車となることは、間違いないだろう。

 

作り手を身近に感じられるワイン

▲出されたワイン1本1本について、その畑や作り手のことを解説していく

 10月28日、道産ワイン応援団結成2周年を記念するワイン会が札幌で行われ、荒井さんを中心に20名近くのワイン好きが集まった。まずはどこの何かがわからないように包まれた9本の道産の白ワインを飲んで、自分なりのランクづけをするゲームからスタート。ひと通り全員が飲んでから正解が発表されると、「当たった!」とか「びっくり!」などの声が飛び交う。ワインの感想だけではなく、それを生み出したぶどう畑やワイナリーを訪れたときの話にも花が咲く。生産者を身近に感じることができるのが、北海道のワインの大きな楽しみだ。

▲自分のワインを手にポーズをとる滝沢さん。作り手と飲み手の交流が、さらに上質のワインを生み出す原動力だ

 さらにこの会のゲストは、「可否茶館」の創業者で今は三笠市でワインづくりに没頭する滝沢信夫さん。滝沢さんがリリースした「TAKIZAWAソーヴィニヨン・ブラン2008」は、日本のワインのレベルをはるかに超越した味わい。おいしいワインを楽しみながら、それを作った醸造家と語らうという贅沢な時間が流れていく。荒井さんの夢は、こんな機会を通じてもっと多くの人々が北海道のワインのことを理解するようになることだ。
 「家に必ずあったり、レストランにも常にリストにのっていたり。道産ワインがもっと身近な存在になればいいな……と思っています」

 

●問い合わせ 道産ワイン応援団
 ・荒井早百合さんメール

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