はじめまして、「中村のとりめし」です。

文/佐藤優子 写真/グレアトーン 江本秀幸

貴重な鶏を使ったふるまい料理がはじまり

▲旧JAびばい中村支所が「えぷろん倶楽部」の活動拠点

 「中村のとりめし」を語るには、明治時代にまで時計の針を戻したい。三重県と滋賀県からの移民団が美唄市北西部の現中村地区に降り立ったのは、1894(明治27)年のこと。リーダーは当時22歳、農場主の中村豊次郎。石狩川自動揚水機の開発に成功するなど米どころ中村の基盤を築いた人物だった。
 さらに豊次郎は小作人一戸につき、オス1羽・メス2羽の鶏を貸し出し、ひなが生まれたらそれを返させる方法で養鶏を奨励した。こうした足跡から見ても農家からの信頼はさぞや厚いものだったに違いない。中村地区の命名はこの豊次郎の姓に由来する。
 決して豊かとはいえない農家の台所事情でも、遠方からの友人や祝いごとの席はとっておきの料理でもてなしたい。そう考えた中村の人びとが家庭で作り出したふるまい料理が「とりめし」のはじまりだ。自慢の米と貴重な鶏を、当時高価だった砂糖、醤油、酒をふんだんに使って炊き上げた。細かな味つけは家ごとに異なり、現在も各家庭で「わが家のとりめしの味」が受け継がれているという。

 

地域ぐるみで応援! 「えぷろん倶楽部」誕生

▲えぷろん倶楽部の皆さん。現在は正会員10名、賛助会員13名。「無理はしない、させない」チームワークで支え合う

 家庭の味だったとりめしが今や中村地区の郷土料理として世に広まりつつある。その背景には「中村の米をもっとたくさんの人に食べてもらいたい」という地域全体の思いがあった。もしとりめし商品の販売が本格化すれば、実際の作り手となるのは農家のお母さんたちだ。家族はもちろん地域ぐるみの支援が欠かせない。この“言うは易し”の大仕事に、「中村の米を、そして100年の伝統がつづくとりめしを広められるなら」と人々は心を一つに取り組んだ。
 1998(平成10)年、9人のお母さんたちを中心とする「えぷろん倶楽部」が結成。調理以外のさまざまな準備――調理場がある元JAびばい中村支所の貸し出し手配や市内近郊の販路拡大など――は、地元の組合や団体関係者たちが奔走した。

▲現在とりめし商品は丸弁当やおにぎりなど。美唄、岩見沢、三笠、砂川、奈井江のAコープや浦臼のJAピンネで発売中(卸し曜日が異なるので事前に要確認)

 商品化にあたり最も時間をかけたのは「中村のとりめし」として売り出す味を決めること。昔は濃い口が好まれたが、ヘルシー志向の現代ではあっさり味が主流。幾度も試食を繰り返し、コクを残しつつ食べ飽きない味を完成させた。実際に食べてみると、鶏の脂でほどよくテリが出ているとりめしは見た目より薄味で旨味も十分。道内各地のイベントに出店するたびに行列ができることからも、その人気の高さがうかがえる。

 

朝6時半からとりめし、午後から農作業

▲釜宅にはキンカン(内卵)をサービス。炊きたての湯気がごはんに落ちないようにふきんをかぶせて届ける心遣いが嬉しい

 「えぷろん倶楽部」の出勤時間は早朝6時半ごろ。田植えや年末年始を除けばほぼ通年で営業している。通常は6、7名でその日の注文に対応する。今年の夏からは調理場に洗米機を導入した。「冬場は手が冷たかったからこれでずいぶんラクになったの」。最低でも1日3、4釜、時には10釜以上の注文をこなすための強力な助っ人になっている。
 取材当日は釜宅の準備の真っ最中。釜宅とは小売りの弁当と並ぶ主力商品で、とりめしを1升や2升の釜ごと届ける豪快さが人気を呼んでいる。会社や学校行事、慶弔の場に重宝すると評判は上々。炊きたてのおいしさにリピーターも多いという。

▲イベントに出店するときは大忙し。10月20日からは札幌三越のホクレン大収穫祭に出店する

 調理が終われば宅配も伝票整理もすべて自分たちで行い、作業が終わるのは正午ごろ。メンバーはそれからわが家の農作業や家事、育児に戻っていく。そんな働きもののお母さんたちを支えているのは「家族の協力、地域の応援」。そしてなによりも「地元の宝物であるとりめしを広めたい」という郷土愛が、大きな原動力になっている。

 

「遠くの人にも食べてもらいたい」夢を実現

▲「日々に追われて誰も新商品のことを口にしない時期もあったよね」と笑いながら開発秘話を振り返る

 「えぷろん倶楽部」を結成して今年で13年目になる。「とりめしを遠くの人にも食べてもらいたい!」という長年の夢を叶え、ついにこの秋から家庭用袋詰めセットが登場する。中村産の米「ななつぼし」と「とりめしの素」2合炊き用1回分が一箱に2セット入っている内容だ。とりめしの素の原材料を見ると、「鶏肉、醤油、鶏脂、清酒、砂糖」と添加物は一切なし。「家のかまどからはじまったとりめしは台所にある素朴な調味料で作る」――中村地区が守りつづけてきたこだわりがここにもしっかりと反映されている。
 新商品ができるまでにプロの手が入った箇所は外装だけで、あとはすべて「素人集団」の手探りで挑戦した。いつもはガス釜で炊き上げる味を家庭の炊飯機で再現するため、脂の量や口ざわりに気をつけながら納得がいくまで試食をつづけたという。さらにもう一つ頭を抱えた難題は食材を入れるパック選びだった。色や素材、耐熱性などどれも実際に試してみないことにはわからない。煮沸の途中で中身がもれたりの失敗を繰り返しながら、自慢の味にふさわしい現在の包装にたどり着いた。メンバーの佐藤秀子さんはこう語る。

▲家庭用「中村のとりめし」は精米300g・2袋ととりめしの素170g・2袋入り。自宅の炊飯器で簡単に調理できる

 「まずは数量限定の発売ですが、とりめしは中村の宝物。皆さんに知っていただける商品が増えて嬉しいです」
 その昔、遠方からの友をもてなす「中村のとりめし」は平成の今、遠くの友にも食べてもらえる新商品に姿を変えた。変わらないのはふるさとを愛するぬくもりの味わい。久しくふるさとを離れている人にこそ届けたい家庭用「中村のとりめし」は10月28日から発売される。

 

●問い合わせ 郷里の味なかむら えぷろん倶楽部 電話0126-69-2562

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