狸小路の「みこし」大特集 第2回

第2回 狸みこしに密着! 「狸八徳例大祭」レポート

文・写真/及川直也

 8月7日、狸小路商店街の夏まつり「狸八徳例大祭」がはじまった。午前9時の札幌地方の気温は30・3度、湿度63%。前日から蒸し暑さがつづき、天気予報は「この2日間が暑さのピーク」と伝えていた。まつり本番を迎えたアーケードを抜ける風も熱を帯び、身体にまとわりつくような湿度を感じる。

 

ワーッショイ! 子供みこしが練り歩く

▲狸小路の「子供みこし」がまつりを盛り上げた

 商店街が動きはじめた午前10時、狸小路5丁目にある狸神社(本陣狸大明神社)前では、「狸小路子供みこし」の受付が進んでいた。前回で紹介した「神輿部長」の中川功清さん、副部長の永井幹朗さんの姿も見える。参加希望の子どもには、背に「たぬき祭」と染め抜かれた「狸小路子若連」の半纏と帯が貸し出され、神社前に設えられた2基のみこしの前で記念撮影が行われる。我が子の晴れ姿を納めるべくカメラを構えた親たちは、子どもを取り囲んで盛んにシャッターを押しつづけ、通りはちょっとした撮影会の場と化していた。
 午前11時、子供みこしは7丁目に向けてスタートした。最前列に紅白の綱を引く子どもたち、曵き太鼓がつづき、2基のみこしが商店街の真ん中をゆっくりと練り歩く。
 「ワーッショイ!」ドン、ドン。
 「ワーッショイ!」ドン、ドン。
 子どもたちの高い掛け声がアーケードに響き渡る。沿道で子どもを見守る親たち、カメラを向ける外国人観光客。だれもがその愛らしい姿に目を細めている。みこしの列は7丁目で折り返し、綱を引く子どもたちと交代しながら、1丁目まで渡御を披露した。

 

緊張から興奮へ――狸みこしが進みはじめる

▲狸神社例大祭に集まった、商店街の役員たち

 つづいて午後2時30分。5丁目「狸神社」前には粋な半纏姿の人々が続々と集まってきた。例大祭のはじまりである。狸小路は濃緑に「狸」の一文字、紺色は「北海睦」。他にも「新冠」、「熊雄」、「藍心」、「星神」、「栗澤」などの背紋が見える。神前に整列した人々の表情には緊張感が溢れ、真剣な空気が伝わってくる。そこへ商店街振興組合の菊池恒理事長、内山晴記副理事長といった商店街の役員たちが、涼しげな白の浴衣に黒い羽織姿であらわれた。

▲「狸みこし」が商店街を練り歩く

 儀式を済ませたみこしの前に、担ぎ手たちが位置に着いた。周囲の興奮は一気に高まる。菊池理事長の一本締めにつづき、渡御の司令塔である、「北海睦」の髙橋勝弘頭が拍子木を打ち鳴らすと、馬(みこしを支える台)からみこしがゆっくりと離れた。力が入る。拍子木が打ち出す一定のリズムに合わせ、担ぎ手たちはみこしを揺らしはじめる。
 ソイヤッ! サッ! オイサッ! ハッ!
 熱気と叫びが周囲にとどろき、みこしは商店街を力強く進みはじめた。

 

真剣! 汗も吹き出す練習風景

▲夜の商店街で行われる、北海睦の練習会。みんなで担ぎ棒を組み上げる

 本番の1週間前、狸みこしを支えるみこし同好会「北海睦」の練習風景を見学に行った。シーズン中の日曜夜、狸小路1丁目の一角を借りて月2回ほど行われる練習には、北海睦のメンバーをはじめ、様々なグループの人々が集まってくる。Tシャツに半ズボン、そして足元は白足袋というスタイルの参加者たちは担ぎ棒を組み上げ、半丁ほどを数往復する。目の詰まった担ぎ棒は相当の重さがあり、メンバーたちの額からは瞬く間に汗が噴き出した。

▲Tシャツに白足袋が光る。真剣な練習が美しいみこし姿をつくる

 参加者の職業は様々、年代も18歳から64歳までと幅広い。最高齢の中村彦(すぐる)さんは狸みこしをはじめ、道内で開催されるまつりに年間50回ほど参加しているという。「みこしの楽しさは、やはり人との出会い。今では道内各地にみこし仲間がいる。北海睦でも観風会やもちつきなど、何かと顔を合わせる機会が多い」と語る。昨今、社会で失われたと言われる「人のつながり」も、日本人が古来から伝える「まつり」の中には、しっかりと息づいているのだ。

 

狸小路を抜けて、連合神輿渡御へ

▲6丁目「鈴木商店」の前で水分補給をする担ぎ手たち

 狸みこしは7丁目を折り返し、6丁目の酒店「鈴木商店」前で振舞酒を受けた。店主の二代目、鈴木勉さん(70)は「みこしが来るのが毎年楽しみ。神宮祭ではもっと沢山の担ぎ手が集まる」と、忙しそうに立ち働いていた。ビールなどで水分を補給した担ぎ手たちは感謝の言葉を述べ、一本締めとともにアーケードを1丁目へ向けて進んだ。
 狸小路の渡御を終えたみこしは、丸井今井前ではじまる「北海道祭」の連合御輿渡御へと移動した。これは道内のみこしが集まり、ススキノを目指して渡御しながらマチを盛り上げるもので、北海道神輿協議会によって毎年開催されている。今回は狸みこしをはじめ、6基のみこしが参加した。

▲親から子、子から孫へと引き継がれる

 マスコミの注目は、昨年、民事再生申請で参加を取りやめた丸井今井札幌本店が、札幌三越とともにみこしを復活させたこと。同協議会の切明正勝会長も、挨拶で丸井・三越の合同みこしにエールを送った。

 

雨が人を熱くする。盛り上がりは最高潮

▲滝のような雨もなんのその、女性も加わり、ソイヤッ! サッ! オイサッ! ハッ!

 いよいよ出発、という段になり、空からは滝のような雨が降り出した。沿道に詰めかけた観客たちは、慌てて周辺のデパートなどに飛び込んだ。みこしの一団は水しぶきを上げながら、駅前通をススキノへと動き出す。総勢千人を超える6基のみこしが、日暮れの街を練り歩く勇壮な姿。ソイヤッ! サッ! オイサッ! ハッ! という叫び声が商業街にこだまする。
 雨中の渡御を司る、北海睦の小林充人副頭の動きを見る。馬の上にすっくと立ち、拍子木を手に列をまとめ、正確なリズムを打ちつづける姿は、まるでオーケストラのコンダクター(指揮者)のようだ。宮入りでは「真っ直ぐみこしを入れる」ため、小林副頭の“指揮”で何度もみこしが行きつ戻りつするのも、観客を引きつける力強いパフォーマンスのひとつだ。

▲狸みこしの「司令塔」、北海睦の小林副頭

 渡御が佳境に入ってくると、みこしの上に人が乗って立ち上がった。膝で絶妙にバランスを取りながら、扇子を片手に風を送るようにみこしを進める仕草を見せる。
 「ご神体が入ったみこしは、『神様の乗り物』と言える。みこしを激しく揺らすのは、神様の力、魂(スピリット)を街の隅々まで行き渡らせるという意味がある」と小林副頭。
 担ぎ手たちが懸命の力で担ぐみこしが生み出す熱気、圧倒的なエネルギーの源泉は、目には見えない「神様」の力なのかもしれない。みこしを担ぐ人々は、マチに神の力を届ける配達人の役割もあるのだ。

▲夜のススキノを渡御する。絶妙のバランスでみこしを盛り上げる

 雨は次第に小降りとなった。担ぎ手の熱気で、雨は湯気となって全身から上っていく。その肩には一様に、「こぶ」が盛り上がっている。こぶを持つ担ぎ手が言うには「医師によると、同じ所に衝撃が加わることで、身体を守ろうとしてこぶができる。体質にもよるので、できる人とできない人がいる」とのこと。特に痛みはないという。

 

つづいてゆく狸みこし、北海道のみこし

 「いまの北海道のみこしは、東京の江戸みこしのスタイルを学ぶことが主眼になっている。しかしこれも、これから10年、20年、50年とつづけていくうちに、北海道オリジナルの“かたち”ができてくるんじゃないかと思う」
 と語る小林副頭。江戸の伝統に学び、じっくり時間をかけて独自のものを生みだそうとする姿勢。北海道のみこし文化は、まだはじまったばかりなのだ。

▲ススキノに姿を見せた連合御輿渡御

 渡御を終え、ススキノ・ラフィラ前に集合した6基のみこしを前に、神輿協議会の切明会長は「今日は帰ってもシャワーいらないね」と会場を笑わせた。全身をずぶ濡れにした参加者たちの笑顔は、満足そうに輝いて見えた。
 雨に濡れた狸みこしは商店街に戻り、これから約1週間かけて乾燥させてから倉庫に収められるという。アーケードを吹き抜ける風もどこかひんやりとして、間もなく来るであろう、秋の訪れを感じさせた。

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