北のグリーンフィンガーズ ~園芸家が語るガーデニングの未来~


工藤敏博(くどう・としひろ)

■Profile
ガーデンプランナー、ローズグロワー、園芸店経営。1955年生まれ、札幌市出身。77年から札幌市豊平公園緑のセンター勤務、札幌市百合が原公園管理事務所長を経て退職。2007年から園芸店「Gee's Green Growers(ギーズ・グリーン・グロワーズ)」を経営。現在、拓殖大学北海道短期大学環境学科客員教授、「イコロの森」のローズガーデンプロデューサー、各種講演会で講師を務める。バラの専門家で、著書に『北海道のバラづくり』(北海道新聞社)がある。

 工藤さんにはじめてお目にかかったのは、百合が原公園の管理事務所長をなさっていたときだ。真っ黒に日焼けした顔が印象的で、聞くと、夏は朝の2時から起きて植物の世話をしているとのことだった。Green fingersという言葉を目にするとき、まず思い浮かぶのが工藤さんだ。百合が原でお会いしてから10数年経った現在の工藤さんは、どんなことを考え、植物に携わっているのだろうか。北海道のガーデニングについてお訊きした。

文・写真/杉本真沙彌

北海道の気候はガーデニング向き

店の外に並んだ鉢植えのバラに目を配る工藤さん。切った先の姿を想像しながら行うバラの剪定はとても楽しいそうだ

 近年流行しているイングリッシュガーデンでは、ボーダーガーデンなど多種類の植物を組み合わせるのが特徴です。雪が積もるので北海道は本州に比べ、ガーデニングに向いていないと考える方もいらっしゃるようですが、そうではありません。北海道は気候が合うため、イングリッシュガーデンで使われている多種類の植物を使いこなせます。本州は暑さで根がやられてしまうので半分くらいしか使えないかもしれません。本州の夏のような高温多湿の気候ではイギリスでセレクトされたような種類は合わないんですね。北海道は日本の中で唯一ピッタリ合う地域です。

イギリス的な庭づくりは過渡期

 イングリッシュガーデンで使われる植物が北海道に合う。じゃあ、イギリス的にやればいいのか……。イギリスっぽい庭づくりをしている現在は、過渡期なのだと思います。見本としてやってみせるのはいいけれど、イギリスには敵わない。そんなに長い歴史はないものの積み重ねてきた園芸的な技術、植物を見る目がイギリス人にはあります。植物の構成やいろんな要素を考えて庭をつくっています。気候が合うからといって後を追っても追いつきません。おそらくイギリス人は、そういう場面を見たらくすっと笑うでしょう。よくやってるね、と。

北海道ガーデンを飾る植物たち

生き生きした葉が美しいバラの鉢にかこまれて。独自で輸入しているバラは、日本でここだけというものもある

 その土地の気候に合った、歴史に合った、文化に合った、景観に合った、ほかにはない独自性を庭づくりに出せれば、北海道の観光にも貢献できるでしょう。「北海道ガーデン」はおそらく、自生種をふくめて北海道らしい植物が主体となるでしょう。では、山に生えているものを庭に植えればいいかというと、それは園芸ではありません。移植しただけです。ある目的に適う個体を選抜することを“系統選抜”というのですが、同じ種であっても園芸的に使えるものとそうでないものがあり、自然にあるものから園芸的に使えるものを見つけて庭に入れていく。時間がかかることですし、それは次の世代の楽しみです。
 そして、北海道に自生しているものだけではなく、世界の植物をふるいにかけます。イギリスでたくさん使われている植物でも、北海道の方がもっと合うということもあります。北海道の植物と世界のものを組み合わせてできるものが、北海道ガーデンになるでしょう。

 北海道にあった景観づくり、庭づくりとは

 日本庭園の伝統があり、坪庭的な仕掛けが生きるのが本州の庭です。北海道には身近に原生林があり、広大な敷地があります。それは本州にはないものです。「北海道にふさわしい景観というのはどんなものだろう」とずっと前から考えてきて、どこにいってもそういう目で見ています。大規模な施設などの新たな作り物よりも、いまある景観の質を上げること、それが大事なのではないかと思います。
 個人の庭でもそうです。バラは植えたけど、もとからある庭木が生きているでしょうか。おばあちゃんやお父さんが植えたオンコはどうでしょう。庭になじむまで数年もかかる木ものなど、景観のベースとなる緑の質を高めることが大事です。ちょっとしたことなんです。意識して目的を持って庭づくりをする、庭木をスクリーンに見立てて刈り込みにするとか。それからバラだよ花だよと言いたいですね。
 北海道には華美でない庭づくりが合うと思います。北欧がそれに近いかもしれないです。単純で、整然としていて、それが成熟した状態。そうなるとパラダイスですね。

北海道の庭のもう一つの可能性

「手は小さいんです」という工藤さんのグリーンフィンガーズ。感覚が鈍くなるので作業するときは素手で行うという

 北海道の庭には個人の場面がない。というのは、私的な土地ではありますが、意味合い的には公共的だということです。本州のように生垣や塀がある家は少ないですから、庭が見えちゃうんですね。質の高い庭が連続すれば、通る人にインパクトを与えるでしょうし、生活が豊かになります。新しい施設を作るよりは将来的に管理もいきとどきます。その貴重さ、意味合いを理解して、植物を理解して作ると良いものになると思います。

園芸家にとっての冬

 北海道は雪の積もる冬のおかげで土も植物もリセットできます。カキッと冬で切れるということが精神的にも良いと思います。冬の間は庭に対して夢を見て欲しいですね。そういう人が意外と少ないんじゃないですか。庭はその人にとっての天国、パラダイスだと思います。どういった景観になれば、自分にとってのパラダイスであるかを考える時間が冬だと思います。

 北海道の庭にはいらないものが多いです。ヨーロッパはなんでもかんでも植えないですね。自分で管理できる緑があり、花は一部分だけにしか植えません。しぼりこんだ使い方をしています。日本は隙間があれば植えますから(笑)。そうなると夏以降、疲れてしまいます、植物も人も。
 自然の山並や、二次林的なものもふくめて緑の豊かさはピカ一で、潜在的な緑の質は高いのですが、人が手を加えたときの質が低い。だから、植えるなよ、と思います。景観のじゃまにならないように引き算を考えるべきだと思います。どこに行っても道路脇に白いプランターに植えられた赤いサルビアがあります。あれは、どうなんでしょう。

園芸家という仕事と最近のこと

めずらしいバラがずらりと並んでいるが、新しい品種ではなく、昔からあるものだそう。耐寒性・耐病性にすぐれた北海道に合うバラたちがひしめく

 生き物、植物を相手にする園芸家という仕事につけたのは良かったと思います。植物は正直ですから。人間とかかわるとそうはいきません。父と祖父が生物の学者だったんです。二人とも好きな仕事をしていたのを見ていますから、その影響は受けたかもしれませんね。
 最近は、朝2時35分にいつも目が覚めます。5時には朝食を食べて、外へ。小さいときから4時くらいに起きて、いやがられていました。まだ寝てなさいって(笑)。変わっていませんね、そのころから。

雪の聖母園との縁

 百合が原公園で働いていたときに、障がい者の方々と花壇を作ったことがあります。施設の皆さんといっしょに作業したことは、私にとってとても貴重な体験でした。今回、縁があって月形にある障がい者支援施設「雪の聖母園」にバラの苗を育てるためのビニールハウスを作ることになりました。バラは接木苗が一般的ですが、冬が厳しいところは自根苗の方がいいんです。それをハウスで自家生産するんです。施設にいる人たちが、一鉢でも自分で担当してそれに喜びを感じてくれれば……。それは、こっちが勝手に思っていることですけどね。

Gee's Green Growers

■工藤敏博さんの店
<Gee's Green Growers>
札幌市中央区宮の森3条5丁目6-19 Tel:011-642-4187
→【 Gee's Green Growers

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