「あっ、春だ!」北海道人がそう感じる瞬間は......

 雪にすっぽりと覆われた寒くて長い冬のあとに訪れる季節、春。白一色の景色がほころびはじめ、山の色が変わり、土が見え、草が見えたかと思ったら「待ってました!」と言わんばかりに梅や桜や、道端の花々が一気に咲きはじめる……そんな春は、北海道人にとって特別な季節のように感じます。
 北海道人が「あっ、春だ!」と感じるのはどんな瞬間なのでしょう。北海道人代表として、4人の方にお話を伺いました。

文/杉本真沙彌 写真/杉本真沙彌


菅井貴子(すがい・たかこ)さん
気象キャスター(現在はNHK「おはよう北海道」「つながる@きたカフェ」に出演中)、横浜市出身、札幌市在住

フリーキャスターとして全国各地で仕事をし、それぞれの土地の春を経験。暮らしはじめてから6年目を迎えた北海道で菅井さんが見つけた春は……。
低気圧が北海道の北を通るようになると

 気象キャスターという仕事をしていて春を感じるのは、低気圧が北海道の北を通るようになると、ですね。低気圧は掃除機みたいに空気を吸い込みますので、北にあると南風になるんです。こういう天気図を見ると「あっ、春だ!」と思います。でも、理論上はすっかり春なのに地上の空気が暖まっていないせいで、南風が吹いているわりには今日は暖かくならなかったな、ということも……。天気図の方が季節を先取りしていて、地上の実際の感じとは少し時差がありますね。
 桜前線は、西日本から関東までは時速33キロで進むんですが、北海道にくると時速15キロくらいになります。梅前線は1月にスタートし、4カ月かけて北海道に来ます。桜前線はスピードが速いので、スタートから1カ月後に札幌に到着。ここで二つの前線が一致するんです。途中、桜前線が追い越して、網走では桜の方が早く咲きます。梅と桜がいっしょに咲いているのを見て、こちらに来たころは見間違えたのかと思いました。
 北海道の冬は真っ白で、4月でもまだ土と雪の白ですよね。そのあとに花が一気に咲くので、花がきれいに見える気がします。百花繚乱というか……こちらにきて花が好きになりました。北海道の春って本州の人が見たらびっくりすると思います。


ダム・ダン・ライさん
彫刻家・画家、1973年生まれ、ベトナム出身、小樽市在住。

2002年にベトナムから来札、現在は小樽市春香町で暮らしている。木々に囲まれたアトリエ「Dala Space(ダラ・スペース)」で創作活動を営むダム・ダン・ライさんが想う春は……。
森が近づいてくる

 ベトナムでは乾季が冬にあたるんだけど、気温は16度くらい。ベトナムにいたころはそれでも寒いなーと思っていたね。2002年から札幌に住みはじめたのだけれど、マンションだったから寒くないし、雪が降るのが楽しみだった。2007年に春香町にあるアトリエで暮らしはじめてから、自然のなかにいると冬が長いなーと思うようになった。
 アトリエの裏側には山があって、冬は木に葉がついてないのでずっと遠くまで見える。春になってくると、葉がでてきて向こうまで見えなくなる。森がこっちのほうにだんだん近づいてくる気がするね。それは春だなあと思う。朝起きて外に出ると、木の香りがするようになる。冬はなんにもしないけど、春になるとするようになるね。
 1月の末から2月のはじめころまで、アトリエのまわりに雪のオブジェを展示していた。冬は好きだけど、オブジェの展示も終わったし、外で彫刻の制作をしたいので、早く雪が解けてくれればいいなと思う。5月には仲間とイベントをやるので、時間があまりないしね。


木村仁美(きむら・ひとみ)さん
麻酔科医(新さっぽろ脳神経外科病院勤務)、1965年生まれ、空知管内夕張郡栗山町出身、札幌市在住

自然に囲まれた栗山町で生まれ育ち、現在は札幌で麻酔科医として働く木村仁美さんが感じる春のはじまりは……。
雪まつりの雪像がこわされるころ

 春だなあ、と実感するのは、子どもと円山動物園に行ったり、同時に円山公園が花見客でごったがえすのを見かけるゴールデンウィークのころですね。
 ただ、春がはじまるぞ、と思うのは、雪まつりが終わったころです。冬の象徴である雪まつりが終わり、雪像がこわされると聞くと、冬もこわれる感じがします。2月の末には春のスイッチが入りはじめ、それからは、日差しが温かくなり、服装が春らしくなり、春がくるぞ、くるぞ、くる、くるって状態がゴールデンウィークまでつづくんですよね。お正月より大晦日、クリスマスよりクリスマスイブが好きなので、春になるまでが好きなんです。
 近所の一軒家や街路樹のまわりの雪が少し解けて、土や草が見えてくると、春が来ているなあと……。
 麻酔科医の仕事場は手術室です。温度や湿度は日々一定に保たれ、外気はシャットアウトされていますから、季節どころか日時もわからない(笑)。いつも一様なんです。仕事中はそちらに意識が集中していることもあって、季節を感じるのは通勤途中やオフの日です。気持ちが開放状態でないと、そういう自然の気配はなかなかこころに入ってきませんね。


田中 綾(たなか・あや)さん
北海学園大学人文学部日本文化学科准教授・文筆家(北海道新聞の日曜文芸欄でブックガイド「書棚から歌を」を連載中)、1970年生まれ、札幌市出身、札幌市在住。

事務職から、歌人・文筆家へと転身し、現在は北海学園大学で近代日本文学を教える田中綾さんの春のありかは……。
春はつくられるもの

 このような春の歌があります。「ブーツにてみなゆくゆゑにまれまれにハイヒールはく脚鮮(あたらし)も 」(上田三四二『遊行』)。
 私が春を感じるのは、上田さんと同じように女性の足もとです。女性の脚がダークカラーのタイツから、ベージュのストッキングに変わると、「あっ、春!」と。女性たちは装いで春を演出するんです。北国では雪どけの4月初旬くらいになって春を実感できるのですから、装いや気分やことばで春をつくりあげていくのだと思います。春というと、こころはずむ季節というイメージがありますが、そんな春にこそ生まれる愁(うれ)い、「春愁」があります。
 西行の歌に「ねがわくは花の下にて春死なんそのきさらぎのもち月の頃」というのがありますが、私はこの歌に春愁の根源を感じてしまいます。ともすれば私のこころは「春愁」に傾きがちです。そうならないように「春」をつくって楽しんでいるのだと思います。ゴールデンウィークごろに季節はずれの雪が降ることがありますね。春愁の時期に降るこの雪を、私はひときわ美しく感じます。

北海道人アンケート あなたの「あっ、春だ!」を教えてください! 女性編
  • ザクザク雪になって道路が濡れてドロドロになってくると、春が来た! とうれしくなります。30代・女性・事務職
  • 春の匂い! なんと説明してよいか分かりませんが、四季の匂いは絶対にわかります。40代・女性・プログラマー
  • プロ野球の開幕ですね。3月くらいからはじまるオープン戦は、練習試合みたいな感じでそれほど盛り上がりませんが、オープン戦に行くようになると、どんなに外が吹雪いていても、札幌ドームまで歩いて行くときに、「ああ、もうすぐ春!」と思うんです。そして、ドームに入って緑の人工芝を観ると、ますます春の気分が高まります。30代・女性・ライター
  • 土の匂いです。もわっとする土臭いにおいをかぐと、春だなって思う。昔、実家が農家だったからかも。30代・女性・事務職
  • 浅瀬でタコがカニを食べているのを見るとき。40代・女性・漁業従事者
  • ピンク色の夕焼けの空。自宅に帰る途中にピンク色の空を見て「あー春だ」と思ったら帰りたくなくなりました。40代・女性・アトリエオーナー
  • アパレルショップで最新モードのブラウスやカットソーを見かけたとき。「ほら、ステキでしょー。もうニットの季節はおしまいよー。春よー、春なのよー、買っていきなさーい」と誘惑の声が聞こえてくるのです。40代・女性・ライター
  • 冬はまるまっていた猫が、床でからだを広げて寝ているところを見るとき。30代・女性・webデザイナー
  • 風に吹かれたとき、塵が混じっていて目がパチパチすると。いまはメガネだけどコンタクトのときにはすごく感じたかな。30代・女性・主婦
  • 冬の余韻の中、立春を迎えたとたんに陽の光が変わり自然の摂理に畏れを感じます。日ごろどんなに丁寧に拭き掃除をしていても、春の明るい陽光の中では空気中の塵までも目に止まらせて私を戸惑わせるのです。60代・女性・茶道家
男性編
  • 福寿草を見たとき。あとは、風だね。春一番が吹くとそう思う。50代・男性・会社社長
  • クロッカスの花が咲いたのを見ると、春だなと思います。40代・男性・会社役員
  • 雪で狭くなっていた舗道が広くなると春を感じる。30代・男性・プログラマー
  • 雪の下から犬のフンが見えてくると春だなと。踏まないように気をつけて歩かなきゃいけなくなる。30代・男性・デザイナー
  • 風の匂いとか、体感温度的なものでしょうかね。30代・男性・会社員
  • 道路の白線が引きなおされたとき。30代・男性・会社員
  • バイクに乗れるようになったり、昭和生まれのスカイラインが出せるようになったり。仕事がら転倒による圧迫骨折が少なくなると、春だなーと思う。30代・男性・理学療法士
  • 天気が良くて、雪どけが進むような暖かい日。そんな日は、うぉ~うぉぉぉ~って野生の雄たけびがでちゃうね。60代・男性・イラストレーター
  • 自分の中に春の空と呼んでいる青空がある。除雪などをしていてその春の空が現れたら、1月でも2月でも「春だ!」と思う。40代・男性・自営業
  • 道ばたでほこりをかぶって黒くなった雪を見たときです。あと、北海道ではまだまだ寒いのですが職業柄お彼岸が来ると春を感じます。30代・男性・僧侶

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