きらきらひかるやさしい風に逢いたい 1

きらきらひかる やさしい 風に逢いたい


八雲の海に抱きしめられた


いつのまにか新しくリッパになってしまったハコダテ駅にいた。札幌行きのキップを手にして待合スペースで腰掛けている。
ハコダテ駅よ、お前だけ21世紀の顔みたいなふりをしたってよ。
街の風情はちっとも変わってなくてよ、寂れながらもいい感じで輝いていたぞ。
てなこと率直に思っていた。
あまりにも閑散としていて、まるい地球を無理やり四角に変えてしまったような、不自然で冷たい風が漂っているようだった。
まーそれでも、ボクは列車の旅は嫌いではないのだ。


ひとりポツンと窓の外の風景にとけこんで、やさしくされている気持ちは悪くないしさ。ヒトの気配でなんとなく安心の温もりがあって、自然の時間が流れているように思う。
座席に背中をあずけながらこきざみに揺れる列車の動きで、読みづらいはずの本が、カフェや自宅のソファで静かに読むときの気分とは、何か違う感触でしみこんでくる。
列車の揺れで生まれてくるリズムが、ここちよくリラックスさせているからかね。目が疲れて顔をあげれば、窓の外の風景がスーっとなごませてくれて退屈させないしさ。それに歳をとってくると、なんだかひとつひとつの時の流れを大切に受けとめようと思ってしまうんだろうね。


あぶないスー ふー


列車は函館を離れて、のんびりと札幌に向かっている。
ハコダテはいつきてもボクの気持ちを揺さぶり、なんどおなじところを訪ねても確実に、またちがったおもしろい顔を表現してくれた。
コレって何だろうな。
たとえばね、こんなことだろうか。
ヒトの限界をはるかに超えてしまった文明のシステムが、がちゃがちゃ音をたてて走りまわっているような都会の臭いが、ここハコダテにはないからだと思う。子供の頃に観たイタリア映画のような哀愁が息づいていたり、路上の犬や猫たちがヒトの気配を気にしている風でもなくのんびりあくびをしている。路面電車の時間表をみていると、気軽に声をかけてくれるおじさんがいたり、ついでに、眼鏡をなくしちゃってヨーこれから捜しにいくのヨー的な会話をしてくる。
あれ、このおじさん危ないヒトかね。てな風でもなく、ごくあたりまえに日常のことのような感じだった。修学旅行の小学生たちに向かって、コラお前ら線路で遊ぶな電車がガァーってくるからヨー。てなことも普通にぶちかましている。
ヒトがヒトとの関わりを昔のように大切にしてきた証しのようだった。それがハコダテだった。ヒトが積み重ねてきたノスタルジーがコンクリートや便利な文明に負けることなく、泥臭い温もりとして静かに息づいているのだ。



列車は八雲に停車した。
噴火湾からの潮風が囁くように線路脇の野花を揺らしていた。
その先の国道5号線を横切ると、海原が限りなくひろがっている。
ボクは子供の頃から、海と話ができた。
だからおそらく、なぁー久しぶりじゃないか、あれからちっとも顔をみせてくれないね、どーしてたんだ、30年も。
てなこと聞かれるはずだ。
白い光をきらきらさせながら、背丈草をわさわさ揺さぶりながら、30年前のあの時のように聞いてくるにちがいない。

プロフィール

鯨森惣七(くじらもり そうしち)

室蘭生まれ。東京八丈島でダイバーとして漁師と共に働く。のちにCM制作の職に就く。札幌でTOMATOMOONとサクラムーンを設立、プロデュースする。近作として、JR車内誌での「陽だまりがあれば地球人」、サッポロビールでの「ボクだって星の王子様」などのイラストエッセイ。現在、HTBテレビ「ハナタレナックス」の収録スタジオのデザインおよびオープニング映像・タイトルの企画制作を手掛けている。2010年5月に絵本「ぺ・リスボーの旅・ダラララー」を出版した。
cuzira@leo.interq.or.jp

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