コレは、まちのゲー術だ。と叫びつつ、ちょっとずつ歩きまわる旅。

HAKODATE MAP 11


函館編11


ハコダテ駅まで路面電車で行くのはやめた。
海の観える岸壁の近くのベンチに腰を下ろした。湾内の遠くを走る白い観光遊覧船を観ていた。 また昔を、思い出していた。


ハコダテに何度も来ていて、海から街を見たことがなかった。
んじゃ観光船に乗ってみっか。てなことで、すかさず乗船することにした。
はじめての観光船、それはやはり7年前の訳ありのあのヒトといっしょのことだった。
というのも列車の時間まで2時間近くもあったのと、なんだか会話も暗い感じがつづいていたから、気分を変えたかった。
船内のホールでサービスのドリンクを受けとって、2階のデッキに向かった。
ボクはウーロン茶で、あのヒトはビールを持った。
船はゆっくりと走りだし、沖に向かう。赤レンガ倉庫はどんどん小さくなって、ゆらゆら揺れて観える。
舳先でかきわけられた波は、砕けて飛び散り霧のようになって顔をぬらした。それでもなにかうれしい気持ちが湧きあがっていた。自転車のぺダルに足をのせたまま坂道を勢いよく滑らせ、下から巻きあげる風を切りさいて走るときの気分。それと同じものを感じていたからだった。
横でビールを飲むあのヒトは無言のまま沖を見ているようだが、ボクは内心浮かれていたのだ。ああ、いいなこの風の匂い、たまらなくいいな。てなこと思っていたとき、あのヒトがちょっと下に行ってくるね。とボクにビールを渡して階段を下りていった。
右手にウーロン茶、そして左手にビールを持ったまま風に吹かれていた。
突風が舞いあがり、目の前を横切ろうとしたカモメといっしょにボクの帽子も吹き飛んだ。反射的に飛んでいく帽子を右手で捕まえようとした。

ああ ボクの帽子 サヨーナラ

すると、ウァヒーワワワッてな・・・・・情けない男の悲鳴が左から聞こえてきた。大げさな声の次に、感情的な顔でボクに何か言っていた。
けど、ボクの視線は海に浮かぶ帽子を見ている。陽焼けしていい感じの色合いになっている帽子。15年近くもかぶってきた思い出深い帽子。なんで飛んじゃったの。てなこと考えていた。
しかし、とんでもない事件は起きてしまっていた。
となりの怒っている、その方の顔から白いワイシャツまで、茶色いウーロン茶でずぶ濡れになっていることに、ボクはまったく気がついていなかったのだ。
あれー、それって、オレがやったの?・・・・・てな感じなのだ。
とにかく、ポケットからくちゃくちゃのハンカチをとりだして拭いているのだが、いまいちピーンと来ていないのだ。・・・・・そっかぁ、あれか、帽子を捕まえようとした時だね。とにかく、とにかく、とにかーく。謝りながら洗濯代を請求してくださいと自分の名刺を渡した。そして当然のように、その方の名刺をいただきたいと要求をしたとたん、その方の顔色は感情的なものから穏やかな顔つきに変わり、いやいや、もーいいですからと事件のあったデッキから離れていったのだ。
あれれ、ウーロン茶で茶色になってしまったままのワイシャツで、どこに行ったんだろうかと考えてしまった。
「アンタの顔がコワイひとにみえてきたんじゃない」てなこと、いつの間にか帰ってきていた訳ありのあのヒトがぶつぶつ言った。
飛んでしまったボクの帽子は、波にのまれて消えていた。


なんだかスッキリしない気分のまま遊覧船を降りて、赤レンガ倉庫のカフェでお茶をしていた。すると、先ほどのウーロン茶をかぶってしまったあの方が入って来た。
ボクの顔をみたとたんユータンをして出て行ったのだ。

ウーロンの神様は茶色なのか? ニワトリ先生するどいですね。

なぜなんだ。あれはどうゆうことだったんだ。岸壁のベンチで7年前の、そんな記憶をたどっていた。
名前をあかすのを拒んだあの方は、もっととんでもない事件を背負っていた逃亡者だったのか? それとも本当にボクの顔がコワイひとにみえてきたのだろうか?
そんなことアンパンマンにだって判るはずがないだろうし、人生はいつだって謎だらけなんだ。この先何が起きるか誰にもわからないのだ。
とりあえず腕立て伏せ100回ぐらいやりながらカラダを鍛えておくしかないのだ。
てなことで、イカ墨ソフトクリームをしゃぶりながらハコダテ駅に向かった。

プロフィール

鯨森惣七(くじらもり そうしち)

室蘭生まれ。東京八丈島でダイバーとして漁師と共に働く。のちにCM制作の職に就く。札幌でTOMATOMOONとサクラムーンを設立、プロデュースする。近作として、JR車内誌での「陽だまりがあれば地球人」、サッポロビールでの「ボクだって星の王子様」などのイラストエッセイ。現在、HTBテレビ「ハナタレナックス」の収録スタジオのデザインおよびオープニング映像・タイトルの企画制作を手掛けている。2010年5月に絵本「ぺ・リスボーの旅・ダラララー」を出版した。
cuzira@leo.interq.or.jp

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