コレは、まちのゲー術だ。と叫びつつ、ちょっとずつ歩きまわる旅。

HAKODATE MAP 10


函館編10


十字街の近くでバスを降りた。このまま路面電車に乗ってしまえば、函館駅に行ってしまうことになる。
なんだか後ろ髪引かれるような気がして、反対の南部坂を見上げていた。


この左奥には、谷地頭温泉がある。
この温泉の風情がたまらなくいい感じなんでさ、若い頃から何度も来ているのだ。
泊まるところはいつも同じでね、老舗の旅館らしく、お風呂の湯の花が床のタイルを隠すように広がっていて歴史の匂いがする。あふれて流れ落ちる湯道も、波紋が造りだした茶黄色の花を咲かせている。
硫黄の色がずっしりと染み込んだヒノキの湯船に、背中をあずけながら湯煙がたちあがるのを見ていると、ただただ溜息がもれてきて、なにか温かいパワーで支 えられているような不思議な思いが染みてくるんだ。湯の中にいるんだからあたりまえのことであるが、なんて言うのか俗世間では、なかなかそんな温もりと出 逢うことは少ないよね。

KAZENO RAKUENN

火照ったカラダに糊の効いた木綿のユカタを羽織って、風呂場からの渡り廊下を歩いていると、庭の春の草が山から吹きおりた風で揺れていた。
ガラス戸を少しあけて、ユカタの襟をひろげて風をいれると冷やりとして気持ちがなごむのだ。このままここに座り込んでビールを手にしながら、庭を観ていたいといつも思っていた。


そしていつでもそうしているように、しばらくしてから函館山の山頂に向かうのだ。
7年前のことだった。
ロープウェイの切符売り場で「今日の夜景は無理じゃないか」と言われた。
昨夜の強風のなごりで、山背の風が乱れはじめていた。山頂をモヤと雨混じりの霧がとりまいていて月も星もないのだ。てなこと言われたが、それでも行く。ぜったい行かなきゃならないと思っていた。
吹き荒れる風の音を耳にしながらロープウェイに乗った。夜景が見えるはずの展望喫茶の壁いっぱいの窓越しに、灰色にまきあげるモヤがへばりついている。
訳ありのあのヒトとここで別れ話しをしたことがある。そんな記憶が気持ちをゆさぶり強行させる理由でもあった。男はそんな苦いひとときを、ロマンとして楽しむ時間が必要となることがあるのだ。
カフェオーレを飲みながら、この窓越しに沈む夕日が観れたらしびれるんだろうな。てなこと考えたり、北九州のホテルの大きなガラス窓からも、玄界灘の海辺のホテルからも、その訳ありのヒトと観てしまった夕日を思い出していた。
そんなとき急に山背の風が逆にせりあがり、灰色のモヤの中から街の灯が観えはじめ、地上が星空のようにきらきら輝いていた。こんな凄い出来事が突然やって くる。天神の龍が暗雲をけちらしてくれているのだ。お前よ、ロマンばかりじゃ活きられないのよ、もっと前を登るのだ。てなこと言われているような気がしたのだ。

ステキな夜ね 星だ ガラララー グルルル

プロフィール

鯨森惣七(くじらもり そうしち)

室蘭生まれ。東京八丈島でダイバーとして漁師と共に働く。のちにCM制作の職に就く。札幌でTOMATOMOONとサクラムーンを設立、プロデュースする。近作として、JR車内誌での「陽だまりがあれば地球人」、サッポロビールでの「ボクだって星の王子様」などのイラストエッセイ。現在、HTBテレビ「ハナタレナックス」の収録スタジオのデザインおよびオープニング映像・タイトルの企画制作を手掛けている。2010年5月に絵本「ぺ・リスボーの旅・ダラララー」を出版した。
cuzira@leo.interq.or.jp

前へ | 新着順一覧 | 次へ

この記事を知らせる

ブックマークする