コレは、まちのゲー術だ。と叫びつつ、ちょっとずつ歩きまわる旅。

HAKODATE MAP 08


函館編 8


星型のお堀の先端に立つと、マンションやビルの街並みが観える。その向こうに函館山がポっつらとあって、山をかこむように津軽海峡が広がっているだろう。
海を渡ってきた風が、足もとの野草をなでまわし、ボクの背中でうずまいて消えた。
土方歳三も、この先端に立ったことがあったんだろうか。彼は坂本龍馬と同じように、未来の日本に希望を抱くようなポーズをつくりながら、遠くの海を観ていただろうか。歳三は龍馬と深く話をしたことがあるんだろうか。
てなこと、意識した訳でもなく、ふらっと空から舞い降りてくるように思いが走ったのだ。おそらくこの先端に立つヒトは、誰もが思うことなんだろうな。
近藤勇・沖田総司・勝海舟・西郷隆盛・岡田以蔵、そして龍馬と歳三。ボクの子供の頃から、ズーっと時代のなかで活きつづけてきている。なぜこの人達ばかりが、現在でもヒーローとして忘れられない存在であるのか不思議である。昭和の時代には、これほどの存在感と名前を残すヒトはいなかったということなのか。不思議でならない。
純心な男たちが報われない時代だったから、そのココロザシが強烈な記憶として人々に残ってしまったからだろうか。
てなこと思いながら、電車に乗った。十字街で降りて二十間坂の中腹あたりから、先ほどとは逆に五稜郭公園の方向を観ている。


足に負担がかかってきているのを感じた。ふくらはぎがぶるぶる震える。これ以上に急な坂を登ったり下ったりするのはやめて弁天末広通りを歩きはじめた。
西風が港のほうから吹いてくる。ゆるい風は気持ちがいいよね。また露天風呂にでも浸かって、海風に吹かれながらゆっくりしたいなと思った。
下り坂との交差点を渡るたびに、青い港が見えた。おだやかな港内を遊覧船のつくりだす白い波だけが、流れ星の尾のようになぞられていく。
港を見下ろす風景は好きなんだと思う、と言うより中学生の頃に見慣れた風景が、カラダのどこかに染みこんでいるんだろうな。ボクは室蘭で生まれたから、小樽だとかハコダテのような港のある町に、なんとなく来てしまう。
そしてこんな風に港を見下ろしながら歩いてしまうのだ。胸の奥でしっくりとするような、自分の存在を受けとめられるような、そんな気分になれるからだろう。

近藤勇・沖田総司・勝海舟・西郷隆盛・岡田以蔵、そして龍馬と歳三

いくつかの下り坂を横切ったあたりだった。ふくらはぎの震えが、下腹部あたりでぐりぐりと鳴る音に変わってしまった。「あれーあれーなんだ・・・・・またかよ」てなことになってきた。
とにかく、近くのカフェを捜す。カバンのポケットから地図を出す。ここから距離にして10分ぐらいかな。もーすぐ楽になれるぞ、てな勢いで向かった。
緑色にペイントされた横長の間口。つきだしたヒサシを支える何本かの柱に、バラの蔦がからみついているヨーロッパ風のたたずまいだった。おっ、いい感じのカフェじゃないかな。ここのトイレなら、アンティーク調のかわいらしい空間だろうなーとなんとなく思えたのだ。
デパートの閑散とした空間とはちがって、流れる水の音も小川のようにさらさらとしていて、小鳥でも鳴いているようなイメージも湧いてきていた。それもこれも、なんとか早く落ち着きたいってな思いと、自分自身に魔法でもかけないとヤバイことになるからね。
てなことで、ドアのノブに手をかけて引こうとしたら、開かないのだ。店内の様子をうかがうように、耳をかたむけてみた。ひっそりと静まりかえった空気が伝わってくる。よく見るとドアノブに小さなカンバンが架けられていた。
「本日の営業は終了させていただきました。」って、どーゆうこと。
吹き抜けていく風の音に、意識が遠くなるような気がした。・・・・・とにかく、別の店を捜す。ただそれだけで頭がいっぱいになっていく。
人生には予想もしないことが、どんどんと起きてくる。ジっと耐えることも時には必要なのである。

ギリギリ パー

石畳がしきつめられた左側の登り坂の奥で、イギリスの国旗がゆれている。この国旗が呼んでいる。ボクは僕に言い聞かせた。・・・・・てなことよりとにかく領事館の石段をかけあがり、入口に飛びこんだ。奥の階段は少し高目になっている。モダンな照明は薄暗い感じがした。受付けカウンターにはふたりの女性がいた。入場料が設定されていて、すこしとまどってしまった。「どのコースを見学しますか?」と声をかけられた。コースによって料金もちがっている。大人は300円だった。頭のなかで鳩がぐるぐる廻りはじめていた。ボクはとまどっている、どーしたものか、とまどっている。
「あのー正直に言っていいですか。・・・・・トイレに行きたいだけなんです。スイマセン」すると意外にも「あ、どーぞ。その手前のドアですから」とやさしくされた。その女性の顔は忘れないと深く深く思ってしまった。


おだやかな気分になってしまったせいなのか、女性にやさしくされた義理立てなのか、そのまま奥のティールームでお茶をしていくことにしたのだ。英国の雰囲気を味わいながら、おしゃれなひととき、てな感じがただよっていた。アンティークなテーブルが、がっしりとしていて掌で撫ぜてみると、なめらかな感触が伝わってきた。窓の外のバラ園のあたりで、寄りそい合った恋人たちのうらやましい姿が、眼に焼きつくように飛びこんできても、今は美しいと思える気分である。
やがてかわいらしい女性スタッフがメニューを開いて、注文を聞いた。おしゃれなティールームで英国なんだから、そりゃロイヤルミルクティーでも飲んでみたくなる。とりあえず聞いてみたのだ。「イギリスだから紅茶は旨いよネ」。するとね「・・・・・エッ、おいしいです」。少し間のある返答が気になりますよね。


「便利になって、最も困っているのが ニンゲンなんだよな」
東本願寺の門の横でみつけた、大きな書き文字を思い出してしまった。

「まー大変」 どーぞ おじーさんは近いですからネ

プロフィール

鯨森惣七(くじらもり そうしち)

室蘭生まれ。東京八丈島でダイバーとして漁師と共に働く。のちにCM制作の職に就く。札幌でTOMATOMOONとサクラムーンを設立、プロデュースする。近作として、JR車内誌での「陽だまりがあれば地球人」、サッポロビールでの「ボクだって星の王子様」などのイラストエッセイ。現在、HTBテレビ「ハナタレナックス」の収録スタジオのデザインおよびオープニング映像・タイトルの企画制作を手掛けている。2010年5月に絵本「ぺ・リスボーの旅・ダラララー」を出版した。
cuzira@leo.interq.or.jp

前へ | 新着順一覧 | 次へ

この記事を知らせる

ブックマークする