コレは、まちのゲー術だ。と叫びつつ、ちょっとずつ歩きまわる旅。

HAKODATE MAP 07


函館編 7


競馬場から4っ目の停留所の五稜郭公園前で、電車をおりた。目の前のデパートに突撃する。と言うのも、電車にのったとたんに下腹部がぐりぐりと鳴りだしてきたからだった。
エスカレーターを小股の早走りで駈けあがった。ゴージャスな照明がまぶしい婦人服売り場を、おじさんはウロウロと歩きながらトイレを捜した。
思い込みで2Fに突入したのは、まったくのハズレだった。それなら地下の食品売り場へといそぐのであるが、ふたつあるエレベータの前で、黒いコートの怪しいご婦人が突っ立ている。
このヒト、ジっとしていないのだ。エレベータの表示ランプが灯るたびに移動する。左のドアに、そして右に、何度もさ、ボクの前でやっているんだよ。そんなことされるとさ、なんとなく腹が立ってくるものである。でね、ご婦人のタイミングが大はずれでさ、左に動いたとたんに右のドアが、シャーってな音をたてて開いてしまった。
ボクはすかさず、なかにおさまったのだが、ご婦人はなかなか入ってこないのだ。ドアをおさえながら、覗いてみると、表示ランプをみたまま動こうとはしないのだ。多分いじけてしまったんだよ。
「どーぞ、ドアが閉まりますよ」てなふうに声をかけてみた。
「おっへー・・・・」てな作り笑いをしてみせていたが、鋭い目つきで天井をにらんでいた。


食品売り場のトイレは快適だった。嵐がすぎさって、さわやかな静けさにつつまれている、そんな感じである。それしても、エレベータのあのご婦人からただよってきた、ひんやりとした空気は恐ろしいものがあったね。なんか殺気だっていたからさ、もー絶対に逢いたくないよねと思っていたところに、魚売り場の人込みのなかで動きまわっている黒いコートがみえてしまったのだ。あれれれ・・・また、でたな。てなことで、なんとなく人込みの遠くから、ちょっとだけ覗いてみたのだ。
立派なマグロがドーンと横たわっていて、包丁を持ったおやじさんが、黒光りする背びれをにぎって、手早く解体していたのだった。
あのご婦人は、横たわるマグロの前をフラダンスでも踊るようにはしゃいでいた。なんでしょうね、このヒトは、そーだな波風たてながら、へたくそなクロールでばたつく熱帯魚。てなことで納得した。でね、よーく考えると僕はこのご婦人のマジックにピピピーって、取り込まれていたんだと思う、もう少しで金の壺だとか買わされるところだった。


しかし、マグロの醤油わさびの熱い茶漬けを食いたいなー。てなこと考えながら、近くにならんでいる弁当をながめていた。鮭弁を買って、デパートからでた。天気は上々でさわやかだった。どこかの草むらで、ひとりピクニックでもしょうかなーと思った。

「マグロちゃんスキ」「下腹部の嵐よ」

なんどもハコダテに来ているのに、五稜郭公園あたりを探検するのは、はじめてのことだった。
広い駐車場を通りぬけて、ボクは弁当をゆらしながら奥へとすすんだ。星型のお堀をつなぐ大きな橋を歩いているとき、手漕ぎボートが石垣の下でならんでいるのをみつけた。なつかしいと思った。
ボートは多くの視線があるなかで、ふたりっきりの親密な空間を作りだせる道具であると思う。ゆるい風が背中をぬけて、あのヒトの透きとおるブラウスの襟もとが、ふわりとゆれて、なんとも言えない感触と深くてやさしい時間がただよっていた。てなことも遠い昔にあったような気がした。
橋を渡りきった先に、藤の棚のトンネルがある。曲がりくねったか細い老木は、100年も前からここで活きている。枝のひとつひとつに想像もつかない、長い時間の思いがしみているような香りがした。そして枝先は、どこまでも青い空を目指してのびていた。
淡いムラサキ色のつぼみがたれさがり、風がそよぐと静かにゆれる。
ボクは櫻の木がなによりも好きなのであるが、藤の花がたれさがるトンネルを、ゆっくりと歩くのもたまらないものがあるのだ。

「あ ハァー」「へんなオヤジだよね クアー」

藤の棚をぬけて、石垣の壁の道を曲がると、草むらが広がっていた。その中央にある登り坂をあがり切ると、お堀の向こう岸がみえる高台にでた。きらきらする水面に空と雲が写っている。ときどき風が吹きおりて、さざ波が空と雲をゆらしていた。
ボクはその風をさけるように、小道を歩いた。ちょうど星型の先端あたりの陽だまりのある草地に、あぐらをかいた。気持ちがおちついた。
鮭をわりばしで割って、口にはこんだ。マグロの刺身が食いたいと思った。
視線をあげると、ママチャリを押してくる老夫婦がみえた。ふたりは小道をはずれて、草のなかに自転車をおいた。籠から花柄のビニールシートをだして、草地にしき、ふたり並んで、お堀の池がみえる方向に座った。その横には、うすい紅色のツツジが咲いている。
なんとも言えない、静かで素朴な老人のピクニックをみている。ふたりは弁当を開けて、黙ったまま食べはじめた。
ボクは胸にしみてくるものを感じて、泣きそうになった。

「Itumo」「FutaRi」「なにみえる」

プロフィール

鯨森惣七(くじらもり そうしち)

室蘭生まれ。東京八丈島でダイバーとして漁師と共に働く。のちにCM制作の職に就く。札幌でTOMATOMOONとサクラムーンを設立、プロデュースする。近作として、JR車内誌での「陽だまりがあれば地球人」、サッポロビールでの「ボクだって星の王子様」などのイラストエッセイ。現在、HTBテレビ「ハナタレナックス」の収録スタジオのデザインおよびオープニング映像・タイトルの企画制作を手掛けている。2010年5月に絵本「ぺ・リスボーの旅・ダラララー」を出版した。
cuzira@leo.interq.or.jp

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