コレは、まちのゲー術だ。と叫びつつ、ちょっとずつ歩きまわる旅。

HAKODATE MAP 06


函館編 6


ザブーン・スダダダー。激しい海鳴りで起きてしまった。
霧はすっかり消えていて、きらきら海面のひかる水平線がひろがっていた。
さわやかな気分だった。いつまでもホテルにいるのもなんだから、でることにした。さて、今日はどこに行こうかと考えながらホテルを出たとたん、つまずいてバンザイするように前のめりのまま飛んでしまったのだ。まー気分のいい日はこんなこともあるのよ。とりあえずとことこ電車の線路沿いを歩くことにした。


すれ違うあのコも、さっきのソフトクリームのようなてんこもりカットのおばちゃんも、なんだか美しくおしとやかにみえてくるのはナゼなんだ。空にスカイブルーの透きとおった空気が流れているからか。それともドーナツを食いたいからか。ナゼだかよく解らないのだ。
左手に線路が何本もいりくんでいる広場がある。おそらく電車の車庫なんだろうね。門の前のカンバンに路面電車の歴史のようなものがあるから、ジーっとみることにした。

「大谷くん 君はスナイパーみたいだね」「カントクもゴルゴサンテンみたいス」

ここは100年前は馬車鉄道だったんだわ。
馬糞風が吹いて臭いのヨ。馬車はとろとろスピードが遅くてさ。てな理由で電気式鉄道に変わってしまったんだね。
『駅馬車』って映画があってさ、西部劇なんだけどさ、砂漠のような赤い土の荒野を駅馬車が走っているところに、インディアンがライフル銃を片手にふりまわしながらさ、キャホーキャホーてな奇声をぶちまけて、その駅馬車を強奪しょうとするわけなのね。
でね、駅馬車の御者は逃げようとして馬のたずなをピシャピシャやったり、ムチでびゅーびゅーぶったたくのさ。叩かれた馬たちはよだれを吹きながらスピードをあげて走るんだわ。ああ馬は何にも文句を言わず叩かれるまま走ってしまうんだなーてなこと思ってしまったのよ。
馬の目は静かで奥深くてやさしいんだよね。
そんなやさしい馬の走る馬車鉄道でパカパカゆったり会社に行くのもいい感じだと思うけどさ。ニンゲンはスピードが好きなんだね。
てなこと考えていたら、車庫の屋根越しに緑色の管制塔のようなものを発見したのだ。ハコダテ競馬場があの先にあるんですね。
“ひゃー”なんて、胸が熱くなって声がとびだしそうになってね、ものすごくなつかしいのさ、ここで起きたおもしろいことを思い出したのだ。
もー何10年も前のことだけどさ、野蛮人のへんとこりんなおっさん達の野球チームがあってね、そのメンバーとハコダテの七重浜でキャンプをしたんだよ。夜のキャンプファイヤーの資金は競馬で作ろうじゃないかって、肉も酒もカニもタコもどっさり食いたいから、競馬場にどどどってなだれ込んだのさ。
ところが、さっぱり当てられない。誰がどーやってもポケットがふくらまない。作戦が悪いんだってなことでね、パドックに行くことにした。
パドックでは競走馬が目をつりあげて、前足をかきこむように歩いているんだよ。それをとにかくとにかくジっくりにらむように観たのである。すると、メンバーの大谷くんが「カントク! あの馬さ、なんかおかしくない?」なんて聞いてくる。カントクってボクのことだよ。大谷くんってね、なにやらせても墓穴をほってしまう性格でさ、ときどきズボンのチャックなんか開いてたりするんだよ。
その彼が、あの馬を観ろっていうのである。
「あの8番の茶色いやつのこと?」
たしかに他の馬とはどこか違っていた。鼻息が荒くオレは走るぞーてなふうでもなく、ボケーっとしているようだけど、深く観察すると上品でぴかぴか輝いているのである。しかも、地面から5センチも浮いているようにみえる。
「なーあの8番。サンタクロースのトナカイみたいなやさしい目をしてるぜ。たしかに地面から飛んでいるな」
ボクたちには、そーとしか思えなかった。
この馬の名前は忘れてしまったけど、人気はまったくなくて、けっこうな倍率になっていた。
ポッケトの最後の1000円札をにぎりしめて、馬券売り場の窓口で「大谷!これでいいんだな」「はい」「おーし買うぞコノヤロー」てなこと騒ぎ立てながら8番の馬券に賭けてしまったのだ。

「いただき」「ブルル」「カホー」「大谷くん」「バカヤロー」「クソー」「コノヤロー」

ボクたちふたりは人込みをかきわけて、ゴールのみえる手すりに張り付いた。
レースは始まった。あいつは中段あたりの内側を走っている。気の強そうな馬におされるように挟まれている。それをみてしまったふたりは、やっぱりダメなんだ。いやいやそんなことはない、絶対くるのだ、ゼッタイくるのだ、てなこと祈るようにぶつぶつ言っていた。
ラストコーナーを周ったあたりで大谷くんの高い声が裏返ってきて、マントヒヒの笑い声のように聞こえてくる。
「おまえーもっと走れよーたのむーモモモヒヒヒー」
すると、8番の馬がするするっと前をかきわけて走りこんでくる。ふたりは興奮して叫んだのである。
「きたきた、行け行けケケケーわァー」
「そのままーままままーキャー」
なりふりかまわず大声ではしゃいでいるのは、ボクたちふたりだけだったのである。


8番の馬と大谷くんのヒラメキは凄かった。ビール大缶ごちゃごちゃどっさりと上質の肉をたらふく、それと花火とアイスキャンディーで夜のキャンプファイアーは朝まで盛りあがった。それは大谷くんが少しズレた天才だったということの証しでもあった。
そー言えば大谷くんがレースのあとに、こんなこと言っていたな。
観客のいなくなったスタンドの椅子にふたりで座り込んでいた。足元にはハズレ馬券がパレードのあとのように散らばっていた。まだ、あのゴールでの激戦劇がそこにあるかのように遠くをみていた。
「カントクの言うように、あの馬はトナカイのようなやさしい目をしてたんですよ。あれは、神の馬ですね。ボク、みんなに迷惑かけるから、これで少し恩返しできてうれしいス。あの馬の目、忘れないよ。・・・・・こんどココに子ども連れてきて、今日のこと話すよ」
彼はぼそぼそと噛みしめるようにうなずいていた。
静まりかえった競馬場の向こうには海が観える。白い貨物船がゆったりと浮いていた。

「Kamisama」「ARigato-」

プロフィール

鯨森惣七(くじらもり そうしち)

室蘭生まれ。東京八丈島でダイバーとして漁師と共に働く。のちにCM制作の職に就く。札幌でTOMATOMOONとサクラムーンを設立、プロデュースする。近作として、JR車内誌での「陽だまりがあれば地球人」、サッポロビールでの「ボクだって星の王子様」などのイラストエッセイ。現在、HTBテレビ「ハナタレナックス」の収録スタジオのデザインおよびオープニング映像・タイトルの企画制作を手掛けている。2010年5月に絵本「ぺ・リスボーの旅・ダラララー」を出版した。
cuzira@leo.interq.or.jp

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