コレは、まちのゲー術だ。と叫びつつ、ちょっとずつ歩きまわる旅。

HAKODATE MAP 05


函館編 5

「お前だな オレのメガネ」「ダラララー おだまり」「もー キーさん いらっちゃいよ」「ホホホ」

十字街の交差点で信号が変わるのを待っている。
空はさきほどよりオレンジ色が深くなっているような気がした。まもなく夜がくる。
信号のむかいには、路面電車の停車場があるのだ。ツツツーってなブレーキの音を静めるように電車が止まった。信号はまだ変わりそうにもないのだ。
無視して走ってみようかと思うのだが、迷っている。
そんなとき電車の運転士がボクをみた。目が合った。待っててくれよ頼むよ、てなねちっこいラブコールをおっくた。運転士はまたボクをみてくれた。そしてボクをジーっとみながら走りだすのである。ツィーンゴーツィーンゴーと線路をこする音をたてた電車の後姿に、夕陽が反射してまぶしかった。


誰もいなくなった停車場で、壁の時刻表をみていた。すると首からカバンをさげた作業着のおじさんがボクの横にすりよってきて、声をかけてきた。
「13分だよ」
「あ、そーですか・・・・・けっこありますね」
「フッ・・・・・そんなにないよ、すぐくるよ」
「・・・・・ハァッ?」
「・・・・・ま、眼鏡どっかに忘れたんだよな」
「あーそうですか」
「どこいったのか、まったくわからないんだよな」
どんどん話し掛けてくる。このおじさんのカバンのなかを遠くからのぞく、たいていその辺があやしいと思うからさ。
「いや・・・・・こんなかは、もー捜したのサ」
「あーそーですか」
「どこの飲み屋だったかな?」
「エッ、飲み屋ですか・・・・・覚えてないんですか?」
「そーなんだよ・・・・・な!」
目がぼやけているのか、覚えていないと言ったことを気にしたのか、下からにらむようにボクをみるのだ。どーしてそんな顔をするのか、よく意味がわからないのだ。
電車がきた。・・・・・なんだかうれしかった。

「夜を走る電車はマジカルな香りがする」「うー ワン」

松風町でおじさんは降りた。少しさびしげな背中だった。
赤いちょうちんが、風にゆれている。おそらく眼鏡を尋ねて、おじさんは歩きまわる旅にでたんだな、てなこと思った。


観光街からはずれたこの町の匂いと、ドカドカ路面を走る電車のゆれとが重なって、なんだかのんびりした、いごごちのいい気分になっていたのである。
夜を走る電車は湯の川温泉で、誰もいなくなったのだ。ボクだけ闇のなかにポッっと残されてしまったような気がした。やっぱり不安だった。
走りだした電車の中を歩きながら「湯の川のしおさい亭は、つぎの終点でいいんですよネ?」てなこと、少し高くなった声で聞いてみた。
すると「さきほどの温泉で降りたほうがよかったんですよねー」てな声が天井のスピーカーから流れてきた。
おおー、天井からだよ。
男ふたり、薄暗い箱のなかで、なんだかへんとこりんなことになっているような気もするのだ。スピーカーからは業務的な伝言しか聞いたことがないから、不思議な気分だった。
「あーやっぱり! そーでしたか・・・・・やっぱり」
「観光ですか?」
「あ、いや、札幌からです」
「札幌ですか・・・・・しばらく行ってないですネ」
あらら、なにか意味ありげのような静かな口調だった。しばらく沈黙があった。薄暗い電車のなかはドカドカゆれる音だけが、ひびきわたっていた。
「終点でユータンして戻りますから、そのままゆっくり座っていてください」てな職務を超えてしまった運転士のやさしい声がスピーカーから流れてくる。
そのやさしさにちょっぴり感動してしまったのだ。
まもなくして大勢の乗客がならんでいる前を、電車とボクはゆっくり止まった。なんとも言えないスペシャルな気分がこみあげてきてキャハキャハてな、思いで外のざわめきをみていた。


ホテルの部屋についた。夜のベランダにふぁっとしたライトが灯り、湯煙がぽやぽやゆれていた。いわゆる海を観ながらたっぷり楽しんでください、てな温泉があるんだけど、やっぱりひとりじゃ寂しいからさ、大浴場のでかい湯船につかることにしたのだ。

「コイツはパーなのよ」「いいところもあるのにな」「やっぱりネ アホよね」「カァー もももー」「スキ」「いそがしいーの」

広い部屋の真中にふとんがひとつ、ほてったカラダを投げだす。ふわりんこんと気持ちがいいのだがなんだか寂しいのだ。静かすぎてサ。
窓をあけるとザブーンダダダーてな波うちぎわの音がひびいてくる。ベランダにでて海をみようと思ったが、湧きあがってくる霧につつまれて何もみえないのだ。星も観えないこんな夜は、誰かに電話をしたくなるのよ。
「あ、もしもし・・・・・おれだけど、久しぶりだね。いまハコダテなんだけどさ。8年ぶりに来ちゃったんだけどさ」
「・・・・・ハイ」
「あのさ、ちょっと、お茶でものまないか」
「・・・・・ちょっと、忙しいーんです」
「あッ・・・・・」


ザブーンダダダー・・・・・わきだつ波の音だけがボクに地球のあたたかさを伝えてくれる。ふんわりと抱きしめてくれるダダダーの子守唄で、深く眠るのである。
もももーカァー・・・・・。

プロフィール

鯨森惣七(くじらもり そうしち)

室蘭生まれ。東京八丈島でダイバーとして漁師と共に働く。のちにCM制作の職に就く。札幌でTOMATOMOONとサクラムーンを設立、プロデュースする。近作として、JR車内誌での「陽だまりがあれば地球人」、サッポロビールでの「ボクだって星の王子様」などのイラストエッセイ。現在、HTBテレビ「ハナタレナックス」の収録スタジオのデザインおよびオープニング映像・タイトルの企画制作を手掛けている。2010年5月に絵本「ぺ・リスボーの旅・ダラララー」を出版した。
cuzira@leo.interq.or.jp

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