コレは、まちのゲー術だ。と叫びつつ、ちょっとずつ歩きまわる旅。

HAKODATE MAP 04


函館編 4


チャチャ登りを下りてバスにのった。大きな門構えのお寺の前が終点だった。
このあたりが舟見町で、このお寺は高龍寺と言って江戸時代の初期に創ったんだって。そうだろうな、ただならぬムードが煌々としているんだよ。
そこから外人墓地に向かって歩いた。気持ちのいい空気につつまれている路地で、しばらくすると海が見えてくる。
思えばハコダテって、横浜や長崎とおなじように国際的な貿易港だったんだよね。リッパな深い歴史が眠っているんだよね。だから外国人の墓地がいっぱいあるんだわ。てなことカバンからだしたガイドブックを覗きながら、ひとりごと言ってしまっている。


静かだった。大きな松の木と白い十字架とキラキラと跳ねかえるまぶしい海が、これほどしっくりと穏やかな風景を創りだすとは思ってもいなかった。墓地のなかの石段を下っていくと、海まで降りられる小道があった。
玉石の海岸線に小船を寄せる老人の漁師がいる。コンブを抱きかかえて何か吠えていた。
「巻きーい 巻きーいー」「とめーとめとめー」
かんだかい声なのだが、みょうにコブシの効いた演歌調なのである。犬小屋のような小屋のなかで青いゴム手をつけた、おカァーちゃんが掛け声にあわせるように機械を動かすのだ。玉石をこするようにワイヤロープがピーンとはり、老人の小船を岸へとあげていたのである。おトーちゃんとおカァーちゃんの毎日の作業風景なんだけど、長い時間をかけてできあがった「まきとめ」の人生演歌って言うやつなんだね。誰も知らない、たったふたりだけのラブソングなんだと思った。

「大きな松の木と白い十字架とキラキラと跳ねかえるまぶしい海」

海から墓地にもどる小道に、水平線が一望できるカフェがある。コーヒーをたのんで庭の椅子に両肘をついて、海を見下ろすように観ていた。
ため息が湧いてくる。ニャーニャーと、手のとどきそうな近くで、ウミネコが風を切って舞っている。いやー静かだな。
グィーンと枝を崖ぷっちまでのばしている松の木がうらやましいね、毎日こんな静かな海風になでまわされてやさしくされているんだ、てなこと思ってしまう。
あっ、でましたネ。やっと顔をみせた今日はじめての太陽です。白い雲をかすめてこぼれるように降りそそぐ陽光が、水平線で銀色に輝いてくれている。
なんどもなんども観てきたがあきないね、不思議だよね、と思わず口走ったんだね。いつのまにか後ろに立っていたカフェの主人がコーヒーを置きながら、毎日観ているんですけどあきないですねと静かにささやくのだ。日焼けして真っ黒だった。とくにオデコあたりがギラギラしていた。
主人は水平線を指差して言う。
昨日もですね、青森の岬にある温泉なんだけど、ヨットで行っちゃったんですよ。エーッ、ここからヨットで? 銭湯みたいに行っちゃう訳? はーい、そうなんですよね。
でね、帰りにイルカが5匹ぐらい、いつものようにヨットの横を泳いでくれてね、昨日は特別にハイジャンプしてくれました。
・・・・・どうしてそんなことまでやってくれるのか、不思議に思いますね。
そーですか。なんでイルカはいつも人間に近づいてくるんですかね。
そんな質問を主人に訊ねてみた。すると、そーですね。それはまったく解らない謎なんです、不思議ですよ。


街に戻るバスのなかで窓から差し込む夕陽を感じながら、ヨットの先を案内するように泳ぐイルカのことを想像してしまっていた。なぜなんだ。イルカたちは人間が怖くないのか。ボクはできるだけ深く深く考えてみた。
ひとつ思いあたることは、おなじ地球に生きる生命体として、イルカたちは人間を愛すべき仲間だと思っている。・・・・・ボクはそんなふうに感じる。

「IRUKAWA TENSHI」

プロフィール

鯨森惣七(くじらもり そうしち)

室蘭生まれ。東京八丈島でダイバーとして漁師と共に働く。のちにCM制作の職に就く。札幌でTOMATOMOONとサクラムーンを設立、プロデュースする。近作として、JR車内誌での「陽だまりがあれば地球人」、サッポロビールでの「ボクだって星の王子様」などのイラストエッセイ。現在、HTBテレビ「ハナタレナックス」の収録スタジオのデザインおよびオープニング映像・タイトルの企画制作を手掛けている。2010年5月に絵本「ぺ・リスボーの旅・ダラララー」を出版した。
cuzira@leo.interq.or.jp

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