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『メルマガ北海道人』第85号 2008.9.4.―「北海道人」、イチョウの葉に赤とんぼ―

 赤とんぼが街中をスイスイ飛んで行きます。一匹だったりなかよく二匹だったり。ゆだんしている人の背中や帽子の上で一休みしているとんぼもいます。イチョウの葉に赤とんぼがとまっていました。イチョウの緑にとんぼの赤。秋なのにクリスマスカラーのような組み合わせがなんだか不思議です。イチョウといえば、黄金色に輝く様子が思い浮かびます。イチョウが黄金色に変わるころ、赤とんぼはまだ街にいるでしょうか。クリスマスのころ、イチョウと赤とんぼは……。
 装いもあらたに秋モードの『メルマガ北海道人』第85号、諸行無常の響きの中から配信!

もくじ

連載【田野城寿男の『楽譜のいらない音楽授業』】

 先日、田野城さんと士幌町の農家の方々による、第2回「士幌アート・ファーマーズ・ライブ」が行われました。農業に従事する方々と接することで、「食」について考えるようになったという田野城さん。深刻な北海道の農業事情、ボストンで経験した食糧危機。Lesson38は「価値観が変わる日」です。

連載【岩崎稔の『大陸人の時間』】

 今回のタイトルは「北京五輪の空気」です。もともと五輪には興味がないという岩崎さんですが、地元北京で開催されたため、かかわらないわけにはいかず……。中国人観客のブーイングの中で行われた日本女子サッカーの三位決定戦で日本人の岩崎さんが感じた北京五輪の空気とはどんなもの?

連載【和多田進の『濡れにぞ濡れし』】

 「濡れにぞ濡れし」の「写真機携帯症患者の病状報告」シリーズも第5回目となります。編集長・和多田進は「幸福や喜びは写真に撮ることはできない。写真には、人間の悲しみ、人間存在の虚無しか写らない」と語ります。写真を撮るのに必要なこととは? 写真が表現しようとする二律背反的生の意味とは?

【田野城寿男の『楽譜のいらない音楽授業』】 Lesson 39

価値観が変わる日

 先日、北海道河東郡士幌町にて農家の方たちと一緒にライブを行ってきました。バンド名は「アート・ファーマーズ・バンド」。どう、なかなかカッコ良い名前でしょう? 前の年、クリスマスライブの打ち上げの席でピカッとひらめき命名しました。そこでの参加者全員が「よし来年もやろう!」と盛り上がり実現したのが今回、第2回目となる「士幌アート・ファーマーズ・ライブ」でした。
 ライブハウスなどというものは存在しないこの街。会場は昨年同様、畑の中にポツリとたっているレストラン。マスターは大のジャズ好きです。店内に置かれたご自慢のオーディオセットからはいつもジャズが流れ、こだわりの美味しいコーヒーを入れてくれます。そんなマスターもかつては農業経営者だったそう。というわけで、今回も楽しいひとときとなりました。
 北海道では小麦の収穫が終わるお盆前後あたりから農家は一休みに入ります。この一瞬のチャンスを狙って「音楽で楽しもう!」というのがこの企画の主旨です。それにしてもメンバーの皆さん、体力があり過ぎです! 6時間以上ノンストップで練習をし、私をホテルに送り届けてからさらに練習したそうです。さすが現役農業従事者。実はこの3日間で私は少し痩せてしまいました。
 さて、以前にもお話ししましたが、現在私は50歳の自称大学生(理由の知りたい方はバックナンバーをお読み下さい)です。今年の元旦から日夜就職に向けてトレーニングを重ねています。だから何ていうのかな〜「わくわくする」なら何処へでも行くぜ! という気持ちひとつで今回のライブにも参戦しました。
 北海道に住みはじめてから、「十勝わくにこオーケストラ」「札幌タノラボミックスオーケストラ」「札幌ジュニアジャズスクール」などを手がけてきたことにより、農業関係者の弟子たち(サックス)が増えたのはある意味新鮮なことです。そのおかげでより純粋に「食」について考えるようになりました。農薬をまくのかまかないのか? 遺伝子組み換えした作物は安全なのか? 美味しい湧き水1リッターと365日ひたすら休みなく働きづめの酪農家が生産した牛乳1リッターの価格が等しくて本当に良いのだろうか? だけではなく、「人間は生きるために食べるのか、食べるために生きるのか?」というもっとシンプルな部分を考えるようになりました。
 現在の日本はお金さえあれば、コンビニやスーパー、デパートで食べものが簡単に手に入ります。でも、すこし考えてみてください。21世紀に入っても未だに地球上の他の国々では飢餓で死んで行く人たちが大勢いるのです。ということは、日本だって水や食べ物が無くなる可能性があるわけです。     
 先日のライブで農業関係者から聞いた話なのですが、現在、離農が相次いでいるうえ、農家や酪農家の自殺もここ最近急激に増加、農家や酪農家にとって試練が訪れているそうです。
 私たちがよく口にするじゃがいもは種芋から作られます。野菜だって種をまいたからこそ収穫できるのです。では肝心の種が無くなったらどうなるでしょう?
 決められた量の農薬を散布しないと腐ってしまう作物があるといいます。その農薬も価格が70パーセントアップとなりました。トラクターやトラックを動かす燃料の高騰も続いています。たとえ優秀な農業経験者がいたとしても、種や燃料が手に入らなければ今までのように収穫はできません。また世界を見渡せば、中国やアメリカは大雨の被害を受け、オーストラリアは干ばつの被害でそれぞれ穀物減収の観測が強まっているそうです。こうなると穀物の価格はさらに高騰し、輸入も困難になるでしょう。原因は違えど、終戦直後の日本に後戻りするほどのピンチが訪れるのでは?……と感じます。
 先日、車中で農家の方に「十勝の農業の未来は明るいですか?」とたずねたら、「価値観が変わる、変える、そういう日がそこまで来ている」という答えが返ってきました。「価値観?? それってどういう意味なのだろう?」とたずねてみると、「いくらお金があっても食べ物が買えない時代になる」ということでした。
 ボストン留学時代の思い出があります。ある冬の日のこと、「大型の嵐がやって来る」とテレビでは警告を続けていましたが、私はまったく気にもかけず、いつものように大型スーパーマーケットへ買い物に出かけました。すると、驚く光景が! 大きな広い店内の棚という棚には商品がほとんどなかったのです。
 そんな光景を日本でも見ることになるのでしょうか!?

著者近影

たのしろ・ひさお…1958年広島市生まれ。サックス奏者。78年バークリー音楽院入学。在学中から精力的に活動し、帰国後の87年サリナ・ジョーンズの日本ツアーにソロ奏者として参加。91年「25周年記念」のモントルー・ジャズフェスティバルに出演。音楽家はもちろん、多彩なジャンルの表現者たちとのコラボレートを積極的に実践、近年は「音楽教育」の必要性を重視し、広い層の若者たちに個性的な指導を続けている。

ホームページ:http://www.tanoshiro.com
携帯サイト:http://www.tanoshiro.com/m/

【岩崎稔の『大陸人の時間』】第42回

北京五輪の空気

 中国人の悲願とも夢とも伝えられた北京五輪が無事? 終わった。私はもともと五輪に興味など感じたことはなかった。国家の威信をかけた政治的スポーツの祭典を「平和の祭典」と恥じらいもなく謳うようなやり方が私は大嫌いだ。しかし、今回はかかわらないわけにいかず、テロ警戒要員と日本人メダリストの記者会見の撮影を担当することになった。
 日本人の友人らは「何か起こるのかと思っていた」と少し残念そうに語るが、北京ではテロもなく閉幕式を迎えた。チベット独立を訴える欧米系のゲリラ的なデモが幾つか行われたが、公安当局の圧倒的な取締りにあったので、北京ではそれを知る人がほとんどいない。
 日本人メダリストの取材は退屈だった。競技をしていないときの選手は、私と変わらぬ普通の人である。「メダルを顔に近づけて、笑ってください」と無理やりポーズをとらせて写真にするのだが、これには抵抗を感じずにはいられなかった。
 こうした取材で注目していたことがあった。日本人選手が金メダルを獲得するたびにホテルの庭に植えてある一本の木に土をかける記念植樹のセレモニーである。日本人最初のメダリストとなった柔道の内柴選手がセレモニーに参加したころは青々と茂っていた木が、女子レスリングの吉田選手や伊調選手のころになると植樹木は今にも枯れそうになっていたのである。星野ジャパンがメダルを獲得するころにこの木はどうなっているのだろうと楽しみにしていたのだが、野球チームが植樹に訪れることはなかった。

夜の天安門

 そんなある日、私にもスポーツ現場取材が回ってきた。日本女子サッカーのドイツ戦で、3位決定戦だった。通常のフォトポジションには入れないので、ダフ屋からチケットを入手して取材するようにとの指示だった。競技場の工人体育場のゲートに行くと、チケットを持った人たちがウロウロしていた。中国女子サッカーはメダルをねらえる強さがあるので、勝ち抜いてくることを見通して多くの中国人がチケットを購入していたらしく、ダフ屋の数も多い。五輪のチケットはものすごく高値で取引されているというイメージがあったので、どれだけふっかけられるのだろうとビクビクしていたら、以外にも800元(約1万2千円)のチケットが半額の400元で購入できた。
 会場に入ると、私の予想と違ってほぼ満席でものすごい熱気である。試合がはじまると、いきなり「ドイツ頑張れ!」の大合唱。観戦客のほとんどが中国人であるにもかかわらず、まるでドイツで行われているようなのだ。日本チームがボールを奪うとブーイングの嵐が起こる。アウェイよりもひどい環境の中で日本チームはプレーしていた。日本チームが得点されると、観客はドイツチームに「もっと点を取れ」などと叫びはじめるのだから、さすがに私もいたたまれない気分になっていた。すると、隣に座っていた中国人男性は私が日本人であることに気づいたらしく、「ブーイングは良くない」とやたら独り言をいいだした。しかし、その男性は目の前のサッカーの試合はほとんど見ず、小型テレビで卓球の試合を観戦しているのである。彼のテレビの音がうるさくて私はサッカー観戦に集中できない。
 試合は日本チームが負けてしまった。ちょっと不思議なサッカー観戦だったが、北京で五輪が行われているのだという実感はかみしめることができたような気がする。

著者近影

いわさき・みのる…写真家。1974年、宮崎県生まれ。東京工芸短期大学写真学科卒業、中国人民大学法学部卒業。95年から北京市に暮らし、同市を拠点に活動を続けるかたわら、アジアのフォトグラファーネットワークづくりなどに尽力している。
*現在ANAの機内誌「翼の王国」で、作家の原口純子さんと「中国万事通」を連載中です。

ホームページ:http://www.minoruphoto.com/japanesemainpage.htm

【和多田進の『濡れにぞ濡れし』】 第9回

写真機携帯症患者の病状報告(5)

 反射神経の悪い人に写真は写せない。瞬間に状況を把握し、写りが計算できなければ写真にはならないからである。なにしろ、世界の事態は時々刻々変転しているのだから。
 ということは、単に反射神経の良し悪しだけでは駄目だということにもなる。「写りの計算」とは、写すべきものは何か、という思想がなければ写らないという結論にもなる。世界に対するはっきりした批評の精神がなければ、「空間」を切り取った構図が単に印画紙に焼付けられた物体にすぎないだけである。思想も批評精神もない者の仕業であれば、それもやむを得ない。だが、それで写真家は名乗れない。そうとは知らずに「写真家」を名乗るノー天気な写真マニアが自称・他称「写真家」の大半なのではあるけれど。
 あえてひとこと書きつけておこう。元来文章に内在している映像性の問題と、そもそも映像に付与されている言語性の問題に思いがおよばねば写真は写らないということだ。何枚かの写真を並べて、どれが写真であるかを選べば、選んだ人間の脳味噌の中身、脳味噌の全内容は明白になる。
 最近になって私は思うのだ。結局、幸福や喜びは写真に撮ることはできない、と。写真には、人間の悲しみ、人間存在の虚無しか写らない。写真はセンチメンタルであり、写真行為は、淋しくて、絶望的で、自慰的で、格別に空虚な行為なのだ、と。
 被写体がどんなに笑っていようと、笑いの先にあるのは悲哀にしか私には見えない。写真になった現実社会は、どれもウソっぱちで哀しみに充ちている。あるいは、人間社会、人間存在がそういうふうに空虚なものなのか。

京都('08.7月)

 だから、この世の虚無を感じながら生きている人間にしか写真は降りてこないとも私は考える。
 この二月の末、大江健三郎が日本ペンクラブの講演でセナンクールの言葉を引いて話した記録を最近読んだ。セナンクールは『オーベルマン』の作家である。どこかで彼はこう書いているのだと大江は言う。
 「人間は滅び得るものだ、しかし抵抗しながら滅びようではないか。もし虚無が我々のために保留されてあるとしても、それが正しいというようなことにはならないようにしよう」
 大江は、虚無を越えた楽観主義の大切を言いたいのである。
 たしかに私たちはこういう言葉に励まされ、与えられた生を生きてきたし、生きている。右のようなセナンクールの思想は、私たちの生のあやうさをかろうじて支えてもいる。写真行為もまた、生のあやうさのただ中にある。写真の行為は生そのものであるのだから。
 動物写真にしろ風景写真にしろ、写真であるかぎり虚無とそれを越えて生きのびなければならぬという二律背反的生の意味を表現しようとすることは変わるまい。ポートレートやヌード、エロ写真ともなれば、ますますそれが直接になるだろう。
 私は、私の写真にセナンクールのような願い、思想を込めたいと思う。そう念じて撮りたいと思うのである。

次号予告

 次号の配信は9月11日です。今年の十五夜は9月14日ですから、そろそろ準備を始めるころでしょうか。道端のススキもいい大きさになってきています。
 さて、次号のメルマガラインナップは、上林早苗の「上海日記」、「とろんのPAI通信」、若月元樹の「南の島から――沖縄県黒島の日々」です。
 『メルマガ北海道人』第86号は9月11日(木)に配信します。

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