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『メルマガ北海道人』第79号 2008.7.17. ―「北海道人」、風の中を自転車で―

 ここ最近、街中を走る自転車の数が増えたような気がします。学生も会社員もスイスイと風を切って走っています。ガソリンの高騰で、仕方なく乗っているという方もいるでしょう。でも、身体を動かしているからなのか、自転車をこぐ人たちからエネルギーがあふれ出ているように見えます。若々しくさえ見えます。
 初めて自転車に乗れるようになったのは、いつのことでしょうか。何度も転んだあと、バランスを上手にとりながら乗れたときの達成感はなんとも言えません。いまだ自転車に乗れない人は幸いです。これからあの一度きりの達成感を味わえるのですから。
 『メルマガ北海道人』第79号、7月の風の中、グングンスピードを上げて配信!

もくじ

連載【田野城寿男の『楽譜のいらない音楽授業』】

 今は亡きジャズ・トランペット奏者、マイルス・デイビス。1981年6月27日、ボストンのクラブでは長い沈黙を破り復帰した彼のライブが行われました。なんと、そこに居合わせたという田野城さん! マイルスの凄さからはじまり、絵画や音楽が発するエネルギーについてTano-ismが展開されるLesson36。

連載【岩崎稔の『大陸人の時間』】

 五輪開催まで1カ月を切った北京では、どこに行っても警備が厳しいのだそうです。なかでもメイン会場“鳥の巣”付近はハンパじゃないようです。さて、「北京のカメラマンたち」第2回目は、通信社でストリンガーをしていたころの岩崎さんと、ライバルでもあり友人でもあるカメラマンたちの話です。

連載【和多田進の『濡れにぞ濡れし』】

 前回、写真を撮るための「見る」は、捨て去るための「見る」だという意味のことを書いた編集長・和多田進。今回は、それは別の言い方をすると、写真を撮るということは、嘘を言うことなんじゃないかと言います。嘘を言うとはどういうことなのでしょうか。くわしくは本文で!

【田野城寿男の『楽譜のいらない音楽授業』】 Lesson 36

音の華

 マイルス・デイビス――。ジャズファンならずともその名を知る今は亡きジャズ・トランペット奏者。彼は1981年6月27日、ボストンのクラブKIXで長い沈黙を破り復帰します。
 当時、大学生だった私は、この日、伝説のトランペッターを初めて目の当りにしました。渡米してからジャズ、クラッシック、ロック等数多くのライブを観てきましたが、今から考えてもこのライブだけはまったく別物でした。黒人たちでごった返した会場には、かつて植民地時代の奴隷貿易でカリブ海地域や北米へ強制連行されたアフリカ人の信仰であり宗教であったブードウ教の説教が、あたかもこれから始まるかのような空気が漂っていたからです。
 もちろんこの夜のマイルスの演奏の凄さは言うまでもありません。緊張感が張りつめた集会? に参加した私は全身鳥肌がたち、ライブが終わるころにはまるでトランス状態に陥ってしまったかのような感覚でした。あのような強烈な印象は知識だけではとうてい得ることのできないものです。まさしく「本物」に接したときに感じる“幸福感”を実感できた瞬間と言えますし、大げさではなく、私、田野城の一部を形成してしまった出来事だと言えるでしょう。
 それからというもの、私はマイルスに取り憑かれたように彼の音楽を聴きまくります。そういう意味では、尊敬すべきサックス奏者ジョン・コルトレーンを一度も生で聴けなかったことがとても悔やまれます。たしかに CDで彼が残した作品『Liberia』や『Wise One』を聴くことはできます。しかし、残念ながらそこには生きた“本人”はいないのです。オーディオで聴くために電気処理された音があるだけです。
 だから思うのです。もし、コルトレーンのテナーサックスから放たれる生音を、空気を突き破ってくる音の振動を、目の前で直接体感できたらいったいどうなっていたのだろう? と。マイルスのときと同様に、いきなりスイッチがオンになり、私の全身に得体の知れない電流がなだれ込むのだろうか?
 私の中学・高校時代、美術の教科書には有名なゴッホ、マティス、ムンク、ピカソ、ダリ、そしてミロやロダンなど、世界的に有名な方々の残した作品が写真付きで掲載されていましたが、そこからは何も感じ取れませんでした。しかし、美術館を訪れ、実際に彼らの絵画や彫刻を目の前で観てみると、平面体の教科書とは大違い。生の作品から作者本人の波動が空気を切り裂き、鑑賞している私に向けてビンビンとエネルギーを放射してきているのを感じました。
 油断しているとあっさりパンチを喰らいノックアウトされてしまうほどです。
 初めてゴッホの『星月夜』を観にニューヨーク近代美術館を訪れたときは、キャンバスに描かれた彼の想いや力強いタッチの波動が、不用意だった私の心に突き刺さり、思わず吐き気をもよおしたほどです。おかげでいまだに直視するのが大変苦手な作品の一つです。
 また、私は大のエジプトファンなので、美術館で綺麗な壁画や石棺をみつけると大喜びしてしまいます。その場に座り込んではエネルギーをチャージしています。
 絵画や彫刻をはじめとする芸術作品は、創作者の寿命に関係なく、まるで生命が吹き込まれているかのように時間を超えて光り輝き続けます。その点、音楽は違うと感じます。音楽は、演奏できる空間の中に演奏者がいて、バイオリンやサックスといった楽器に魂を吹き込み、それが振動となって空気中を伝わり、鑑賞者の心や体に触れたとき、初めて音の華を咲かせることができるのです。

著者近影

たのしろ・ひさお…1958年広島市生まれ。サックス奏者。78年バークリー音楽院入学。在学中から精力的に活動し、帰国後の87年サリナ・ジョーンズの日本ツアーにソロ奏者として参加。91年「25周年記念」のモントルー・ジャズフェスティバルに出演。音楽家はもちろん、多彩なジャンルの表現者たちとのコラボレートを積極的に実践、近年は「音楽教育」の必要性を重視し、広い層の若者たちに個性的な指導を続けている。

ホームページ:http://www.tanoshiro.com
携帯サイト:http://www.tanoshiro.com/m/

【岩崎稔の『大陸人の時間』】第39回

北京のカメラマンたち(2)

 北京五輪開催まで一カ月を切ったが、北京ではそれほどの盛り上がりを見せていない。どこに行ってもセキュリティーが厳しく、場所によっては小銃を持った武装警察が24時間警備していているところもあり、地元市民は冷ややかにそれを見ているといった状況だ。少し金に余裕のある友人らは、五輪期間中は北京を脱出すると息巻いていた。
 先日、久しぶりに五輪のメーン会場“鳥の巣”の近くに行ったところ、軍がレーダーや装甲車を臨時配備していて、なんとそこには地対空ミサイルまであった。どんな状況になったら地対空ミサイルを使うのだろうと思わず首を傾げてしまったが、何が起こるか分からないということなのだろう。五輪閉幕まで緊迫した日々が続きそうだ。
 さて、話は“北京のカメラマンたち”に戻る。私がアメリカの通信社のストリンガーを始めて半年ぐらいが過ぎたころ、通信社にスタッフカメラマンが一人増えた。多くのストリンガーはスタッフカメラマンになることを目標としている。逆にいうとストリンガーを経験して仕事のいろはを理解していないとスタッフにはなれない。学歴などまったく関係ない実績主義の世界なので私にはぴったりなのだが、選ばれたのは私ではなくシンガポールでストリンガーをしていたハン・グゥアンという男だった。スタッフを選ぶときには世界中の支局にいるカメラマンの希望や、ストリンガーの実力が重視される。他の国にもつわものストリンガーがいるので、北京で少しくらい頑張っていたところでなかなかスタッフにはなれない。
 私より一つ年上で中華系シンガポール人のハンは中国語や英語が堪能だ。中国語は標準語から南方の広東語、台湾のミンナン語まで幾つかの方言を流暢に喋る。シンガポールでは小さいころから英語で教育を受けている。スタッフになる際、彼は英語でセールスポイントを書いた書類を何十枚もボスに送ったと言っていた。私との語学力の開きはかなり大きい。何はともあれ彼が北京にやって来たおかげで私にはちょうどよいライバルができた。ちなみに、北京にあるイギリスやフランスの通信社で働いているカメラマンも、フィリピンやマレーシアの華僑が多く、みんな語学は堪能だった。

重慶

 北京で出会うカメラマンはアジア各地で実績を重ねてきた人が多い。彼らは実力もさることながら、持続するハングリー精神を持っている。母国よりも良い待遇で働いているからかもしれないが、写真にかける情熱がびりびりと伝わってくる。私は日本の短大で写真を学んだことがあったが、これほど貪欲に写真と向き合っている人は周りにいなかった。彼らと同じ現場で顔を合わせた後、インターネットや新聞で彼らの写真を見るたびに自分の粘りのなさを反省する。
 ハンが北京にやってきて1、2年が過ぎたころ、私は北京で初めての写真展を開いた。写真展は日本人が開いた「イゴッソ」というイタリアレストランで行われた。急な話だったため、通信社で撮影した手持ちの北京の写真を数十枚展示した。初日に数人のカメラマンと飲み友だちが集まり、いつもの安い10元の青島ビールの代わりに数百元もする赤ワインを何本か開けた。酒がまわったころ、ハンと友人のカメラマンが口論を始めた。カメラマンが集まると良くあることである。聞くと、ハンは私の写真はみたくないと言い張っている。わざわざレストランまで来て写真を見ないとは往生際の悪い奴だと思ったが、彼は私の写真展の安易な内容に腹を立てていたようだった。口論は夜中まで続き、それをただ傍観していた当の本人の私は、眠い眼をこすりながら「面白い仲間に合うことができた」と北京のカメラマンたちを眺めていた。

著者近影

いわさき・みのる…写真家。1974年、宮崎県生まれ。東京工芸短期大学写真学科卒業、中国人民大学法学部卒業。95年から北京市に暮らし、同市を拠点に活動を続けるかたわら、アジアのフォトグラファーネットワークづくりなどに尽力している。
*現在ANAの機内誌「翼の王国」で、作家の原口純子さんと「中国万事通」を連載中です。

ホームページ:http://www.minoruphoto.com/japanesemainpage.htm

【和多田進の『濡れにぞ濡れし』】 第6回

写真機携帯症患者の病状報告(2)

 前回、写真を撮るための「見る」は、捨て去るための「見る」だという意味のことを書いた。別の言い方をすると、写真を撮るということは、嘘を言うことなんじゃないかということでもある。
 つまり、フレームの内に収まるように写真を撮る、そのように撮らざるを得ない、ということは、広大無辺に拡がっているフレームの外の事柄のすべてを捨て去るということなのである。
 世の中の事態は、写真機のフレームの内にだけあるのではない。フレームの内も外もふくめての世の中の事態であるのである。それを、フレームに合わせて写し撮るというのは、まあ、世の中の事態に関する記録の嘘であり、それを公表するのは、嘘の宣伝ということにもなるのではないか。
 たとえば、地震の現場写真を見ると、棚から落ちて割れた酒ビンの山なんかが写されている。しかし、割れた酒ビンのすぐ先には、まったく損傷のないビールビンだって在るに違いない。けれども、そこは写真のフレームの外だから写りはしない。つまり、割れていないビールビンはこの世に存在しないということになってしまうのである。写真は、写すことによって写されていない存在を無にしてしまうという効用を具有しているのである。

奄美大島('08.4月)

 戦場写真やデモの写真などでもそういうことがいえる。戦場を撮影した写真なら、戦闘していない場面が捨てられる。しかし、戦場がすべて戦闘場面とはかぎるまい。非戦闘地域というものも戦場には存在するはずだろう。
 あるいはまた、戦場がすべて悲惨ともかぎるまい。戦場にも笑いはあるはずだし、幸福や恋だってあるだろう。けれども、戦場の写真にそういう場面はなかなか出てこない。そんなのは戦場じゃない、そんな場面を写しても戦場には見えないと写し手が思えば、笑いや幸福や恋はフレームの外に追い払われてしまうのである。つまり、それらはなかったことにされちまうのだ。戦場に笑いはない、という嘘が流布してしまうわけである。
 写真がある種の嘘だというのは、そういう意味においてである。もちろん、被写体に振付けを要求する写真家もいることだろうから、それを嘘に数えることは可能かもしれない。けれども、振付けの要求などはたいした嘘ではない。なぜなら、その振付けによって真実がより鮮明になるということもあるからである。
 まあ、事実とか真実、嘘とか真(まこと)とかいうことが何を意味するかは何度も厳密に考えなければならないことなのだが、写真を写すという行為を通してそういうことを考えはじめるということがあってもいいのではあるまいか。
 「写真」は、真(まこと)を写す! なんていう屁理屈ははやく卒業したほうがいい。まず、写真は嘘である! という旗を立てて、それから写真を考えるのがいいだろう。
 写真機携帯中毒患者の、これが今日の感想である。

次号予告

  次号の配信は7月24日、そろそろ子どもたちの夏休みが始まる時期です。大人の夏休みまではもう少しです。それまではビアガーデンで楽しみましょう!
 さて、次号のメルマガラインナップは、上林早苗の「上海日記」、「とろんのPAI通信」、若月元樹の「南の島から――沖縄県黒島の日々」です。
 『メルマガ北海道人』第80号は7月24日(木)に配信します。

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