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『メルマガ北海道人』第73号 2008.6.5.―「北海道人」、ひこうき雲を追って―

 久しぶりに暖かな日が戻ってきた札幌圏。日なたを歩き疲れて街路樹の木陰でひと休みひと休み……。ふと空を見上げると、そこには二本の白い直線が描かれていました。見事な直線の先には小さな飛行機。ブラボー! と感激したのもつかの間、北東に向かって延びるひこうき雲のしっぽの方では、誰かがそれを消し始めていました。空に落書きはしちゃいかん! ということでしょうか。物分りの悪い人です。できたてのひこうき雲は、立ち並ぶビルの直線と交わったあとに消えてゆきました。
 『メルマガ北海道人』第73号、ひこうき雲のようにブラボー!な連載をのせて配信!

もくじ

連載【田野城寿男の『楽譜のいらない音楽授業』】

 今回のタイトルは「Do The Right Thing U」。スパイク・リー監督の映画『Do The Right Thing 』から強烈なインパクトを受けた田野城さんが、再びこのテーマについて書きます。アメリカ帰りでマグマのような勢いのあった30代前半も現在も、変わらぬ田野城流の真髄が、この言葉の中にありました!

連載【岩崎稔の『大陸人の時間』】

 中国・四川省大地震を取材した岩崎さんが、現地で目撃したことを写真とともに伝えます。日本のレスキューチームを追って向かった先は、被害の大きい北川県。倒れた巨大な広告、土砂崩れの向こうに見える崩れた街、埃と死臭、生存者の朗報と大きな余震――これら全てが同じ場所で起きているなんて!

連載【和多田進の『濡れにぞ濡れし』】

 連載第3回目のタイトルは「偽預言者に心せよ」。『聖書』の「マタイの福音」にあるこの一節をめぐってのコラムです。キリスト教において預言者とは、神の代弁者です。編集長・和多田進がその言葉の奥に見ているものとは! 過去や現在において、代弁者といつわる偽預言者は誰か?

【田野城寿男の『楽譜のいらない音楽授業』】 Lesson 33

Do The Right Thing II

 今から20年近く前だったと思う。スパイク・リー監督の映画『Do The Right Thing』を見たときの衝撃は凄かった。まるで体中の血液が逆流するのではないかと思うくらい強烈なインパクトを感じさせられたものです。アメリカ合衆国は人口の約70パーセントが白人。そして、約12パーセントが黒人。その社会で黒人の彼らがどうやって不当な扱いを受けずに生きて行くか! スパイク・リーは自分たち(黒人)のプライドとアイデンティティを楯に、いかなる権力にも屈しない姿勢を示し、白人と同等な地位を勝ち取る戦いのメッセージを作品の中で歌い上げていました。権力に対するレジスタンスです。
 この映画の題材はイタリア系の若者たちが黒人青年を集団暴行する事件をヒントに制作されています。舞台はブルーカラーの白人が多く住むブルックリンのベンソンハースト地区という一角。人種問題、倫理観、キング牧師、マルコムX、憎しみ、そして愛を、皮肉をまじえてストレートに表現しています。
 当時の私はまだ海外生活の余韻が残っていたので、このスパイク・リー作品の場面場面がビシビシと心に突き刺さったものです。1980年代のボストンのダウンタウンやコンバットゾーン、ニューヨークの荒廃しきったタイムズスクエアー、犯罪のるつぼだった地下鉄やハーレム。そんな街を歩きまわっていた私は、その危険な香りを当たり前のように毎日、敏感に感じていたものです。ですから、外出して自宅にもどるとホッと安堵がこみ上げる……というのが普通の生活だったのです。友人が街で刺され、殴打され、銃声とパトカーのサイレンが鳴り響く街。それはまぎれもないアメリカ合衆国です。
 おかげで30代に差しかかっていた私は、まるで尖った火山から熱いマグマがグツグツと湧き出るかのような勢いがありました。例えば、帰国して契約したレコード会社のプロデユーサーと意見が食い違うと、妥協せずにあっさりレコード会社を辞めてしまったり、音楽事務所がなくなってしまうと、今度はプロモーターと直接交渉してライブの仕事を決めたり、全てのことを自分で進めていたものでした。また、持ち前のフットワークの軽さで、単身ロサンゼルスやニューヨークに乗り込んでは、興味のある音楽家と直接演奏の契約を取り付けていました。しかも何の後ろ盾もなしにです。一見、無謀にも思えますが、結果的にはレコーデイングを行っていたのですから、我ながら驚きです。まあこれが田野城流なのかも知れません。
 そうした想い入れのある時代に出会ったスパイク・リー監督『Do The Right Thing』を20年振りに見る機会がおとずれます。きっかけは、札幌市の依頼で今月から受け持つことになった黒人音楽の講座です。講座のタイトルは「黒人音楽の光と陰」。彼らの歴史をたどりながら、ブルース、ゴスペル、リズム&ブルース、ファンク、ヒップホップ、ジャズ等、黒人の手によって誕生した音楽の裏側に迫ります。
 ここで大切なのは、どうしてそのようなスタイルの音楽が誕生したのか? につきます。単に歴史年表を丸暗記するかのように音楽家たちの名前やその演奏スタイルを記憶したところで何の意味もないのです。しいて言えば、記憶力が優れている……くらいでしょう。何故? どうして? と自分の頭で考えることに価値があるのです。そこには己が生きて行く上で大切なヒントがたくさんちりばめられているのですから。
 私のことですから、教科書には載っていないことを好き勝手にお話させていただくことになると思います。自分の肌で感じてきたことをストレートに。
「Do The Right Thing」
 私の大好きな言葉で、まさしく私の生き方です。

著者近影

たのしろ・ひさお…1958年広島市生まれ。サックス奏者。78年バークリー音楽院入学。在学中から精力的に活動し、帰国後の87年サリナ・ジョーンズの日本ツアーにソロ奏者として参加。91年「25周年記念」のモントルー・ジャズフェスティバルに出演。音楽家はもちろん、多彩なジャンルの表現者たちとのコラボレートを積極的に実践、近年は「音楽教育」の必要性を重視し、広い層の若者たちに個性的な指導を続けている。

ホームページ:http://www.tanoshiro.com
携帯サイト:http://www.tanoshiro.com/m/

【岩崎稔の『大陸人の時間』】第36回

四川大震災(1)

 北京発成都行きの機内にバックパックを担いだボランティアや医療チームがなだれ込むように乗りこんでいった。マグニチュード(M)7.8の地震発生から5日後の5月17日、私は遅ればせながら四川省に向かった。四川省の省都・成都には目立った被害はなかったが、余震で自宅が倒壊するのを恐れ、路上に出てテントで過ごす人がタクシーの中から見えた。
 翌日、地震の被害が大きく、日本のレスキューチームが活動している北川県に向かった。高速道路は軍のトラックや救急車が何台も行き来し、北川県に向かう車両はすべて無料で通れた。北川県に近づくに連れて地震の被害の大きさが見えてきた。ひびの入った道路、倒壊した農家……一目ですさまじい地震であったことがわかった。道路では武装警察が車両規制をしていたが、何とか潜り込んで北川県の市街地の入り口まで到着することができた。
 先に現場に入っていたカメラマンが倒壊した小学校で日本のレスキューチームの取材をしていた。一緒に来た記者と私は、小学校で先陣のカメラマンと合流するため、持てるだけの荷物を抱えて車を降りた。北川県に何度か足を踏み入れていた記者の後ろを追いかけ山を下っていった。途中、足を止めると、倒れた巨大な広告と土砂崩れの向こうにグシャグシャに崩れた街が見えた。臨時に作られた山道を武装警官やレスキュー隊が列をなして行き来している。
 街に入ると、埃と死臭とでマスクをしないと息苦しい。辛うじて立っているアパートは壁もなく部屋の中が丸見えになっていた。木の上に車が逆さになって引っ掛かっている。どうやら上の道路から落ちてきたようだ。商店の門だろうか、中国式の少し凝った造りの門の向こうへは倒壊した建物の瓦礫でとても進めそうにない。街の広場に出ると視界が開けた。広場の左手に川が流れていて、その向こうに倒壊した建物の山が一面に広がる。30分も歩いただろうか、両腕いっぱいに荷物を抱えていたため、息が切れる。記者は、小学校はこの道のさらに奥だと言って先に進む。

北川県の市街地に続く道

 防護服に身を包んだ武装警官が我々を見て早足で近づいてきた。
「この先は立ち入り禁止だ」
「日本のレスキューチームを取材しに来た」
 と強引に歩みを進めると、武装警官は
「写真は撮るな」
 とだけ言って我々を通した。
 少し歩くと瓦礫の向こうに二、三十体の遺体が並べられている。ビニールシートから天を掴むように腕の飛び出た遺体が目に入る。地震から6日目が過ぎていて、遺体の腐敗も激しい。
 さらに先に進んだところで知り合いの記者に出会った。場所を聞くと、どうやら我々が車を降りた場所の近くの学校で日本のレスキューチームは活動しているとのことだった。道を間違えてしまった。ただ黙々と元来た道を戻った。
 その日は車の中に泊まり、翌朝、北川県の市街地にまた向かう。今日は街の入り口でジャーナリストを締め出している。裏道を探して民家の裏から川沿いに街へ下る。土砂崩れやひび割れたコンクリートの山を上ったり下ったりしながら昨日通った川岸の広場に着く。するとレスキュー隊が走ってきて叫んだ。
「生存者が見つかった!」
 川の向こうの瓦礫の山にレスキュー隊が数十人集まっているのが見える。どうやら担架で人を運んでいるようだ。私を含め数人のカメラマンがレスキュー隊を目指して一斉に駆け出した。カメラバッグと衛星通信機・パソコン・カメラ二台を担いで私も後を追う。レスキュー隊が見えてきたところでひび割れたアスファルトに足を取られてしまった。ひねった足を引きずりながらレスキュー隊に近づいて目を凝らす。タンカの上の女性にはハエが何匹もたかっている。倒壊した市場から約164時間ぶりに救出された女性は、救急車に乗せられて山道を上って行く。
 電波の届く場所を探して足を引きずりながら山を登る。山の中腹で大きな余震が起きた。ゴゴーと大地が叫んでいるような音が聞こえる。衛星通信機をセットして写真を送信する。汗だくになりながらようやく丘に腰を下ろしたところで顔を上げると、廃虚と化した街が目の前に広がっていた。初めて地震が怖いと感じた。

著者近影

いわさき・みのる…写真家。1974年、宮崎県生まれ。東京工芸短期大学写真学科卒業、中国人民大学法学部卒業。95年から北京市に暮らし、同市を拠点に活動を続けるかたわら、アジアのフォトグラファーネットワークづくりなどに尽力している。
*現在ANAの機内誌「翼の王国」で、作家の原口純子さんと「中国万事通」を連載中です。

ホームページ:http://www.minoruphoto.com/japanesemainpage.htm

【和多田進の『濡れにぞ濡れし』】 第3回

偽預言者に心せよ!

 「マタイの福音」(7-15)に、下記のような言葉がある。

 偽預言者たちに気を付けなさい。彼らは羊の装いをして、あなたがたの所へやって来ますが、中身は貧欲な狼なのです。あなたがたは、彼らをその実によって見分けることができます。ちょうど、ぶどうの実がいばらの木からは取れず、いちじくの実があざみの木からは取れないのと同じです。良い木はいつも良い実を結びますし、悪い木はいつも悪い実しか結びません。良い木が悪い実を結ぶことはできませんし、悪い木も良い実を結ぶことはできません。良い実を結ばない木は、皆切り倒されて、火の中に投げ込まれてしまいます。このように、あなたがたは、その実によって彼らを見分けることができます。

 この言葉の冒頭にある「偽預言者たちに気を付けなさい」は、文語版の『聖書』では「偽預言者に心せよ」である。三十年ほど前、私はこの一節を本のタイトルに使った。いつの世にも、「偽預言者」は存在し、いとも簡単に人びとは「偽預言者」の言葉に騙される、という思いからであった。しかし、案外、私自身がその「偽預言者」であるのかもしれないという疑いもなかったわけではない。
 「マタイの福音」はさらにこうつづける。

鉄線('08.5)

 わたしに向って、『主よ、主よ』と言う人が皆天国に入れるのではなく、天にいらっしゃるわたしのお父様の御心を行う人だけが入れるのです。最後の日には、多くの人たちがわたしにこう言うでしょう。『主よ、主よ。私はあなたのお名前によって預言をし、あなたのお名前によって悪霊を追い出し、あなたのお名前によって沢山の奇蹟を行ったではありませんか。』しかしその時、わたしは彼らにはっきりとこう言います。『わたしはお前たちとは全然関係がない。悪いことをする者たち。わたしから離れ去れ。』

 理屈のうえから言えば、私は神も仏も信じはしない人間であると思っている。けれども、頭のどこかでは、私に信じることのできない現象・事態が生起する現実も認めざるを得ない人間であるとも思っている。そして、信仰とは無縁のところでではあるけれど、『聖書』の言葉が私の心を強くゆさぶることもあるのである。
 三十代前半の私は、「偽預言者に心せよ」という言葉に出会って、自分の生きる筋道のようなものを得たばかりか、この言葉がいまも私を生かしていると思ったりもする。
 それが理由でかどうかは分からぬが、私は「市民のため」とか「国民のため」、「県民のため」などと口にする輩が信じられない。カント的に言えば、市民のことなど考えたこともない輩が、まったくの自己愛から「市民のため」「国民のため」と連呼できるのだろうと思うのである。

次号予告

 日が暮れる時間が随分遅くなってきました。時間を忘れて遊んで、時計を見てビックリ! ということもありそうな6月半ばに次号を配信します。
 さて、次号のメルマガラインナップは、上林早苗の「上海日記」、「とろんのPAI通信」、若月元樹の「南の島から――沖縄県黒島の日々」です。
 『メルマガ北海道人』第74号は6月12日(木)に配信します。

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