メルマガ北海道人

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『メルマガ北海道人』第25号 2007.06.28. ―「北海道人」、海、山、ついに開く―
 北海道で“開き”と言えば、思い浮かべるものはなんですか? 羅臼産ホッケの開き、利尻・礼文産ホッケの開き、デパ地下のホッケの開き、なんとか市場の……。なぜかホッケしか浮かびませんが、みなさんはいかがですか。
 先週の6月23日に、道内海水浴場のトップを切って、おたるドリームビーチで海開きが、そして24日には道内最高峰の旭岳など大雪山系でも山開きが行われました。海も山も開かれました。もう夏なんでしょうか、北海道。
 『メルマガ北海道人』第25号、記念すべき25号、夏かな〜配信です。

となりの北海道人 『私のお父さん』




■もくじ

連載【田野城寿男の『楽譜のいらない音楽授業』】

 30年前にボストンの歯科で親知らずを抜いた田野城さん。通学路で見かけ、偶然入ったその歯科は、日本のものとはまったく別の雰囲気でした。リビングのような美術館のような空間。そこではどんな治療が行われたのでしょう。夢のようなボストンの歯医者さん。

連載【岩崎稔の『大陸人の時間』】

 日本でもよく聞かれる「格差社会」という言葉。経済の成長が著しい中国においてはその「格差」もはんぱじゃないようです。山西省での強制労働、ショパンを弾く子ども、お手伝いさんの張さんが吐くストレートな言葉にまだ見ぬ中国の胎動が感じられるような……。

連載【大竹正枝の『新・自然真営道』】

 前回にひき続き、「園芸療法」についての話です。「療法」というからには治療行為が伴うものと大竹さんは考えます。アメリカでは専門の有資格者が行いますが、日本ではちょっと違います。「園芸療法」は果たして治療と呼べるのか。自身の専門分野に真摯に向かい合います。

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□連載
【田野城寿男の『楽譜のいらない音楽授業』】 Lesson 09

「大嫌いな歯医者」

 今から約30年前、ボストンの留学先で、親知らずを4本抜いた。
 日本を出発する前に日本の歯医者に診てもらい、「様子を見ましょう」とそのままにしておいた親知らずが、ボストンに来てから4本一気にすくすく育って、他の歯を圧迫し始めた。常に永久歯をギュっと押す痛みに、「これはもう絶えられない」と思い、医者嫌いな私がとうとう、ボストンのニューベリーストリートにある歯医者へ行った。
 毎日の通学途中で見かけていた歯医者だった。
 恐る恐る入り口から中に入ると……、まるでそこはリビングのようだった。
 室内はカントリー調でまとめられ、本や絵画、植物が素敵に飾られて寛げる空間がひろがっていた。私はホッとした。
 まるで友人の家に遊びに行って、快く招き入れられた温もりを感じた。
 名前を記入して待っていると、若い担当医らしき男性がやってきた。
 ……らしき人と感じたのは、彼が白衣を着ていなかったから。
 清潔なシャツにスラックスをはいた、アイビールック。
 彼と簡単な話をして、診療室に案内してくれた。でもその診療室に入ってさらに驚いた。「えっ!?」
 そこはまるで、美術館の一室のようだった。
 大きめの椅子がポツンと置いてあり、壁には宇宙の写真や絵画が飾ってあり、そして、リラックスできる綺麗なBGMが流れていた。
 そこには、医療器具が一つもおいてなかった。
 私がソファー(診療台)に座っても、一切、医療器具等はでてこなかった。
 “これでもか!!”と目の前一杯に医療器具や照明が置いてあるのが私の歯医者のイメージ。それを見るだけで、一歩引き下がってしまう程、歯医者=“恐怖”のイメージがあった。
 ところが、偶然にも入ったそこには、綺麗な部屋に素敵な音楽や絵画、そして座り易いソファーがあるだけ。
 彼は緊張している私を見て、
 「僕はハーバード大学のデンティストで教鞭を取っています。だから、安心して任せてください」
 と言って、ニコッと笑った。
 私は、それでも信じる事ができず
 「本当にここは歯医者なのか? 外国人の私を変な診療方法で騙そうとしているのではないか? 診療室らしくないこの部屋で一体彼は、何をし始めるのだろう?」
 とソファーに横たわりながらも、眼球をフルに使って、彼の仕草や辺りをしっかり見続けた。
 結果的にすごかったのは、全ての治療が終わるまでの間、私が医療器具を一本も見なかった事だ。
 麻酔をかける時は、別のソファーに移動させられたが、そこも非常に居心地が良く、気持ちのよい音楽に寝てしまいそうになったほどだ。
 歯茎に部分麻酔としてシートを当てられた時も(注射針ではない)見えるのは彼の手だけ。
 彼が私に話しかける時も、彼の手は後ろに回されていて、一切何を持っているのか分からなかった。 そして、いつも笑顔の彼。
 私はその歯医者が気に入ってしまい、結局親知らずの他に、虫歯10数本全てを治してもらった。それもわずか2、3週間足らずだったと思う。
 治療の最後に私はドクターに聞いた。この歯医者とは思えない空間や、治療方法について。すると彼は、丁寧に説明してくれた。
 「患者に精神的なプレッシャーを与えない為の治療方法が研究されています。ここでは、それを実践しているのです」
 治療器具が見えないのは、ソファーにヒントがあって、器具の全てがソファーの後ろにきちんと収納できる仕組みになっていたそうだ。
 丁度そんな矢先、自宅でニュース番組を見ていたら小児科の歯医者の特集が流れていた。
 虫歯の治療を嫌がる子供に、歯科医が縫いぐるみを着て登場する。さっきまで泣き叫んでいた子供は上機嫌になって、しまいに診療室に入って口を開けてしまう。
 その映像は、まさしく私が受けた治療と考え方が同じだった。つまり、肉体的な痛みだけでなく、精神的な痛みをも和らげる方法。
 余談だが、日本に帰国して10数年経った頃。虫歯の治療に横浜の歯医者に行った。そこの歯科医が私の口を診るなり、一言。
 「どちらで、歯の治療を受けましたか?」
 「ボストンです」と私。
 「……やっぱり。この技術は凄い」

写真:田野城寿男氏

たのしろ・ひさお…1958年広島市生まれ。サックス奏者。78年バークリー音楽院入学。在学中から精力的に活動し、帰国後の87年サリナ・ジョーンズの日本ツアーにソロ奏者として参加。91年「25周年記念」のモントルー・ジャズフェスティバルに出演。音楽家はもちろん、多彩なジャンルの表現者たちとのコラボレートを積極的に実践、近年は「音楽教育」の必要性を重視し、広い層の若者たちに個性的な指導を続けている。

ホームページ:http://www.tanoshiro.com

携帯サイト:http://www.tanoshiro.com/m/

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□連載
【岩崎稔の『大陸人の時間』】第12回

「格差社会」

 お手伝いの張さんに給料値上げの話を切り出した。もう5年近く働いてもらっているのに、ずっと給料が据え置きなのも申し訳ないし、ここ数年の物価の上昇も加味してのことだった。
 「物価も上がったし、次回から時給12元(約195円)にしようと思うんだけど」
 「今までどおりでいいのよ」
 こういったことに関してはいつも遠慮深い。3回退けてようやく受け入れるという東アジア文化の礼儀に即しているのだろうか。
 「まあそういわず」
 「私は見えるところしか掃除してないから、いいのよ」
 張さんらしい実際的な答えが返ってきた。そういう意識があるのなら裏の裏までしっかり掃除をしてほしい。時給が上がればその分、仕事で返そうとしてくれるだろうという考えは、中国の人にはあまり期待できないのだが、のんきな私は半ばあきらめているものの、ほんの少し期待してしまう。
 「いや、こんなに長く働いてもらっているのに申し訳ないよ」
 「そんなこというなら、もう仕事は引き受けないわよ」
 かなり強情だ。押し問答が続いたが、結局、今月の給料は上乗せして渡した。

写真
赤いネオンの北京駅

 少し前から朝のニュースで取り上げられている山西省の強制労働者の事件には驚いた。鄭州の駅で誘拐してきた子供や若者を強制的にれんが焼き窯で1年半もの間働かせていたという。警察により開放された労働者たちはぼろぼろの洋服をまとい、体のあちこちに作業中に負った火傷の痕があった。その後、現地の新聞が山西省ではまだ1000人以上の子供が誘拐され、れんが焼き窯で強制労働を強いられていると報じた。しかし、中国政府は国内外での反響が大きくなってきたのを恐れたのか、数日前まで観覧できたホームページの写真などが見られなくなるなど、どうも報道規制が敷かれ始めたようだ。
 仕事柄、いろんな階級の中国人を取材する機会がある。中国全体から見れば上流階級のお金持ちはごく一部に過ぎないのだが、先進国のお金持ちに遜色なく桁違いに裕福だと思う。しかし、そんな人たちと同じ国に誘拐された上に強制労働までさせられる人々が存在する。「格差社会」といっても、日本のそれとは比べものにならない何でもありの社会だ。
 その事件が大々的に報道される1ヶ月ほど前、中国の子供を取材する仕事をしたばかりだったので、子供世代の格差の甚だしさをまざまざと見る思いがした。
 ある雑誌の取材でどうしても小学1年から3年生の子供を取材することになった。取材対象が思い浮かばず、白タクの段さん(第1回から3回に登場した。張さんの夫)に相談したところ、弟さんの息子が小学3年生だという。まさに打って付けだ。ぜひ取材させてほしいとお願いすると、
 「没問題!(問題ない)」
 と、快諾してくれた。
 段さんの弟さんは北京大学の法学部を卒業し、弁護士をしている。弟さんは北京市内のマンションに住んでいた。郊外には一戸建ての別荘も持っていて、そこには両親が住んでいるという。いわゆる中国の勝ち組だ。
 取材の内容は「今までもらったプレゼントの中で何が一番うれしかったか」と問い、そのプレゼントを写真に収めるというものだった。プレゼントは必ずしもモノとは限らないと思いながら、巨大なソファーに息子さんと向かい合って座り、質問を投げかけた。
 「MP3」
 即答だった。ませているなあ。聞けば、クラスで数人の同級生が持っているという。早速、息子さんとMP3の写真を撮影させてもらった。MP3には台湾の流行曲やクラッシックが入っているという。坊やの部屋にはピアノの楽譜がいっぱいあった。
 「ピアノが弾けるの?」
 「少し」
 「何か弾いてみせて」
 それなら、とピアノに向かい、ショパンを弾き始めた。MP3を首に下げながら機械のような演奏をする様子をパシャリ、パシャリと撮影し、紹介者の段さんと早々に引き揚げた。
 帰り道、鼻歌交じりに運転する段さんに、お陰様でいい記事ができるとお礼を言った。
 「弟さん凄いですね、お金持ちじゃないですか」
 「そうだろ」
 段さんは短い言葉を誇らしげに言い、温和な目をさらに優しく細めて、弟の成功への素直な喜びを横顔に浮かべた。
 翌日、家事をしに来てくれた張さんに弟さんの家にお邪魔したと話すと、
 「ああ、いいわよね、弁護士って仕事は! 儲かるらしいわよ! 別荘も持っているんだから!」
 無口な段さんの何倍もの言葉を吐き出した。
 「それにしても、どうしてこんなに違うのかしら!……」
 張さんは拭き掃除の手も口も休めない。誰でも隣の芝生は青く見えるものだが、ここまであからさまに他人の暮らしを羨ましがる張さんは、この上を見れば果てがないほどの格差社会の中で、不満に押しつぶされてしまわないだろうかと、心配になってしまう。十数年暮らしているものの、未だに中国社会には考え及ばないことが起き、存在しているのだと思い知らされることが珍しくない。


写真:岩崎稔氏 いわさき・みのる…写真家。1974年、宮崎県生まれ。東京工芸短期大学写真学科卒業、中国人民大学法学部卒業。95年から北京市に暮らし、同市を拠点に活動を続けるかたわら、アジアのフォトグラファーネットワークづくりなどに尽力している。

*現在ANAの機内誌「翼の王国」で、作家の原口純子さんと「中国万事通」を連載中です。

ホームページ:http://www.minoruphoto.com/japanesemainpage.htm

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□連載
【大竹正枝の『新・自然真営道』】第15回

「園芸療法で病気が治る?〜園芸療法(2)」

写真
室内で行う鉢植え〜市内のある福祉施設にて
 園芸療法は医療か? それとも農学か? 療法というからには、病気が治ると考えている人が多い。アメリカでは作業療法の一つとして位置づけられている。それは事故や病気で損傷した機能を回復するためのリハビリの一環として利用されているのだ。例えば、右腕を骨折した場合にはリハビリが必要だが、ただ筋肉トレーニングを行うだけではなかなか忍耐が要される。まして、何らかの形で心に傷を持っていたら、動かそうにも初めの一歩が踏み出せない。このような場合に、園芸が大きな役割を果たすのだ。
 リハビリすると患者に告げずに「一緒に種を播きませんか?」と誘う。すると、患者は初め、動く方の腕を使って種まきをするが、本人が気が付かないうちに、次第に動かない手を上手く工夫して作業をするようになってくる。こんな光景を幾度も見てきたと話してくれたのが、アメリカ園芸療法士のボディル・アナヤさんだ。彼女が4年前に札幌で講演を行った時に、私は幸運にも話す機会に恵まれた。彼女によると、現在アメリカではリハビリだけでなく、精神障害を持つ人や心身に障害をもつ高齢者などにも幅広く園芸療法が活用されているという。
 日本でも、1980年代に「園芸療法」という言葉が知られるようになってきた。ちょうど“ガーデニングブーム”の時期ということもあって多くの人の関心を集め、日本各地で園芸療法に関する研究会は実践活動が行われるようになってきた。
 しかし、ここにきて疑問がでてくる。本当に療法と言って良いのだろうか? はっきり言うが、私は「療法」という言葉は適切でないと考えている。治療行為は、医療の国家資格を持った者が疾病を持つ患者に対して行う行為である。医師や作業療法士が園芸を治療のツールとして使うのであれば、問題はない。しかし、そうでない立場の者が「療法」という言葉を使うのはいささか疑問に思う。アメリカでは園芸療法士と呼ばれる専門の有資格者が行っているが、日本ではまだその制度が確立されていないのだ。また、園芸療法といっても、誰もが普通に行っている種まきや鉢上げなどの園芸作業を行うのだ。資格を持たない者が患者に園芸作業を行ってもらうことをはたして治療と呼べるだろうか?
 実際のところ、「園芸療法」という言葉のインパクトから、花や野菜を育てることで病気が治ると考えている人も少なくないようだ。「園芸作業をすれば認知症やアルツハイマーが治る」と言った人にお目にかかったこともある。しかし、これは大きな間違いだ。
 「私は園芸療法士です。あなたの病気が治せます」などという言葉を聞いたら注意したほうがいい。真正面から園芸療法に向きあっている人であれば、「一般の人に解かりやすいように園芸療法という言葉を使っています」と言葉を足すだろう。
 本来は次のようなものだと私は考えている。身体や心に障害を持つ者(患者)に、楽しみながら園芸活動を行ってもらう。すると、それが軽い運動となって、ストレス解消や気分転換となり、結果的に「病気に対して前向きに向き合う」、「心が穏やかになる」という気持ちの変化が生じる。つまり、園芸作業を行うことで生じる2次的な効果が園芸療法の効果として考えられる。そして、これらの行為や経過を園芸療法と呼ぶことができるのではないだろうか?
 しかし、それでも私は「療法」という言葉を避けたい。「医療や福祉施設における園芸活動」と呼ぶのが適切だと考えている。

おおたけ・まさえ…1965年生まれ、千葉県出身。現在、北海道大学農学研究科に在籍。植物が人間に与える不思議なパワーに興味を持ち、主に園芸療法について研究するかたわら、ガーデニング、環境保全、そして地域・農村活性化など幅広く関心を持つ。

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■次号予告
 次号の配信は7月です。北海道の短い夏……。メルマガ編集の傍ら、海に行ったり、野外でビールを飲んだり、花火を観たり。北海道人の夏はせわしいんです。
 次号のメルマガラインナップは、上林早苗の「上海日記」、「とろんのPAI通信」、「危機の時代に―鈴木邦男・和多田進 10年目の往復書簡」です。
 『メルマガ北海道人』第26号の配信は、7月5日(木)です。
 
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