メルマガ北海道人

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『メルマガ北海道人』第21号 2007.05.31. ―「北海道人」、さかさまになった葡萄のような……―
 咲き始めのライラックを見ると、葡萄を連想しませんか。それも空に向かってさかさまになった葡萄を……。そのさかさまの葡萄を地面に向けてさかさまにし、先のほうを少しだけ伸ばしてみたら、今度は藤に見えてくるから不思議です。そんな想像をしながら街を歩くのも悪くありません。
 今週は気温もあがりそうです。リラ冷えの時期もそろそろ終わりでしょうか。朝晩のストーブともそろそろ……。

となりの北海道人 『私のお父さん』




■もくじ

連載【田野城寿男の『楽譜のいらない音楽授業』】

 小学生の頃、7回も転校したという田野城さん。普通の子供では考えられない数の出会いがありました。ボストンの音大に留学していた時、レストランで一人の老人に話しかけられます。犯罪が多い当時のこの街で、住所と地図を渡された田野城さんが取った行動は!

連載【岩崎稔の『大陸人の時間』】

 不動産屋の黄さんが「おもしろいですよー」と言うように、中国は不動産や株の高騰に沸き立っています。野菜売りのおばさんまでもが個人投資家になるほど、人々の関心は投資に向いています。オリンピックを来年に控えた北京から、人の熱、街の熱を岩崎さんが伝えます。

連載【大竹正枝の『新・自然真営道』】

 ずっと気になることがあって、4年ぶりにある場所を訪れた大竹さんがそこで見たものは……。北海道を代表する花スズランで、高齢者が元気になり、商店街が活性化されたら素晴らしい。深刻な高齢化が進む日本の北海道の地域の取り組みに大竹さんが目を向けました。

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□連載
【田野城寿男の『楽譜のいらない音楽授業』】 Lesson 07

「一期一会 ─クリームチーズな出会い─」

 小学生の頃、親の仕事の都合で確か7回程、転校したと思う。転校する度に、新しい教科書になるものだから、もう全く手のつけようがないくらい分からなくなって、勉強ができなくなってしまった。所謂、落ちこぼれ。
 でもそのお陰で、色々な出会いがあった。
 普通の子供が小学校という小さな世界で接する数の少なくとも7倍以上の出会いがあった。
 大人の世界から見たら、それは当たり前の数だが、子供となると訳が違う。許容範囲を著しく越えていたと思う。
 小学生にして既に私は、7つのコミュニティを知る事ができ、そこで大人から同年代の小学生まで、本当に様々な人間を知る事ができた。
 この小学校での経験が、私の人格形成の上で重要な一部分となった。一方、中学・高校は転校のないまま進んだため、閉ざされたコミュニティの生温さや閉塞感をしっかり感じ取る事が出来た。そうした頃、FMラジオから流れるジャズを耳にした。これは私の起爆剤となった。ラジオからトランペットやサックスで奏でるアドリブが流れてくる。あの音から感じる独特な雰囲気に、私は非常に興味を抱いた。
 「この音は一体、何なんだ?」
 「もっと、知りたい、知るしかない!」
 こうした出来事が、アメリカ留学を決心させた。
 常識的に考えて、音楽を専攻する学生が留学する動機と言えば、スキルアップの一言に尽きるだろう。しかし私は、そうではなかった。技術など全くなかったのだ。しかも楽譜すらまともによめなかったのだから。
 じゃぁ何故音楽大学に? と問われれば、次のように答えるだろう。
 陸上選手はいかに早く走ったかを、タイムで判定される。野球なら得点が多く入れば勝つ。はっきりしている。絵画も目で見て、その残像がはっきり頭に残る。しかし音楽は、空気の振動だけだ。これといった判断基準がない。そこに面白みを感じたからだ。
 高校時代にこのわけの分からない「音楽」を聴いたのがきっかけで、次第に私の関心は演奏者へと向いた。
 「何を考えているのだろうか……? 何を食べていたら、こんな演奏ができるのだろう? 何を持って、美しいと判断するのだろうか?」
単純に会って、とことん話を聞いてみたくなった。
 「じゃぁ会うためには、どうしたら良いか? ……学生ビザを取ろう。そして、彼らに直接会いに行こう!」
 自分で言うのもおかしな話だが、変わった動機だったと思う。しかし、当の本人は真剣そのものだった。
 実際入学してみると、様々な出会いがあった。あれは、大学2年目だったと思う。学校正面に行きつけのレストランがあり、その店はいつも学生で賑わっていた。
 私は、いつもの様にカウンターに座り、クリームチーズ入りベーグルと、スクランブルエッグを注文した。隣の席には、店にはあまりにも似つかわしくない人物が座っていた。初老の黒人男性だったからだ。
 彼は自分と同じ様に一人で食事をしている私に、たわいのない世間話を始めた。
 そして「ここの学生達は、老人である私の話を全く聞こうとしない。その点、君は最後まできちんと話を聞いてくれた。ありがとう。実は私は、隣のメイン州で馬主の執事をしている。是非とも我が家へ招待したい」。
 さすがの私も、この誘いをすんなり受け入れる事ができなかった。
 当時のボストンは、非常に犯罪が多かったからだ。例えば、街の中で殺人事件は起こるし、学校の中に銃を持ち込んで乱射する事件もあった。
 私は彼から受け取った、電話番号にすぐ連絡ができなかった。
 しかし根っからの人間好きな私。日が経つにつれて、不安よりも好奇心が勝ってしまった。
 「メイン州は一体どんな所なのだろう? 彼の住んでいる家はどうなってるのだろう?」
 こうして、500ドルで買ったいつ止まるともわからないボロ車で、片道5時間の旅が始まった。道路地図やましてカーナビがあるわけもなく、ただ教えられた住所と彼の手書きの地図だけを持って目的地を目指した(今だったら、絶対にしない)。行く先々の店で尋ねながら、ひたすら彼の家を目指した。ルートは合っているようなのだが、進むにつれどんどん民家が無くなってくる……。
 「左に曲がって2軒目」という彼の言葉が頭の中で繰り返す。でも2軒目は現れない。好奇心よりも不安がピークに達したその時、ようやく右手に2軒目が現れた!
 あの時の心境は今でも忘れられない。家を見つけた喜びよりも、とうとうこんな山奥まで来てしまった……、ここで殺されても誰も分からないだろう……。そんな複雑な心境だった。
 しかし、そんな私の胸中を察する訳もなく、笑顔で彼は出迎えてくれた。
 その夜、牧場のオーナーも交えて、食事会が行われた。実際オーナーは亡くなられており、残された未亡人が私にこう説明した。
 「かつては優勝馬も多く所有していましたが、今は飼育する働き手も皆、年老いてしまい、馬の頭数も少なくせざるをえなくなりました。そこで、若いあなたに是非ともこの牧場経営を手伝って欲しいのです。そのためにまず、あなたの家を建てましょう。あなたが通ってきた山は私が所有しており、建築用の木々が植えられています。それを切り、大きな家を建てましょう。どうですか、一つ考えてみてくれませんか?」
 ……本当の話? と皆さんは疑う事だろう。実際、僕も疑った。しかし、これは正真正銘本当の話。
 翌朝、執事が私を連れて街を案内してくれた。前日は気付かなかったが、彼らの家は小高い山の中腹にあった。山から街を一望できた。絶景だった。
 「又、連絡します」と彼らに別れを告げ、帰りの車の中で一人、日本人の私を熱心にスカウトしてくれた事に感謝した。と同時に、殺されなかった事に、ホッと胸を撫で下ろした。
 「世の中、何が起こるか分からないなぁ……さぁて、明日から又、学校だ!」

写真:田野城寿男氏

たのしろ・ひさお…1958年広島市生まれ。サックス奏者。78年バークリー音楽院入学。在学中から精力的に活動し、帰国後の87年サリナ・ジョーンズの日本ツアーにソロ奏者として参加。91年「25周年記念」のモントルー・ジャズフェスティバルに出演。音楽家はもちろん、多彩なジャンルの表現者たちとのコラボレートを積極的に実践、近年は「音楽教育」の必要性を重視し、広い層の若者たちに個性的な指導を続けている。

ホームページ:http://www.tanoshiro.com

携帯サイト:http://www.tanoshiro.com/m/

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□連載
【岩崎稔の『大陸人の時間』】第10回

「不動産屋黄さん」

 北京では毎朝トップニュースで株の高騰を伝えている。不動産だけでなく株への投資ブームも続いている。知り合いの中国人が私にこう忠告する。
 「お前は株を買わないのか? 地面に敷き詰められた札束を拾うようなものだ。早く投資しろ」
 そんな言われ方をすると、いっそう恐ろしくなって投資など出来なくなるのだが……。しかし、猫も杓子もという調子で、マクドナルドの店員から路上の野菜売りのおばさんまでもが個人投資家に変貌している。中国政府は金利を上げてこの過熱気味の株式市場を押さえようと躍起だが、にわか個人投資家たちの耳には届かないようだ。
 特に不動産は、黄さんの「おもしろいですよー」という言葉に反映されるように、昨年まで不動産の高騰を伝えるニュースが連日放送され、巷では、「買った?買った?」という言葉が飛び交っていた。私はもちろん買いそびれた一人であるが、2〜3年前は仕事に行くたびに不動産の話になり、「有り金つぎ込み早く不動産を買え。今なら絶対に損はしない」と、欲に目を血走らせた取材対象であるレストランのオーナーや芸術家たちに勧められたものだった。

写真
路地の灯り

 またこんなこともあった。ある日、中央テレビ(NHKのような国営テレビ局)を見ていると、私の住む部屋の大家がインタビューに答えているではないか!
  「不動産をもう2つ買ってどれも倍以上に儲かった。1つは払いのいい店子を見つけたので、数年で元がとれる」
  「おい、俺のことかよ」と、思わず突っ込みを入れた。そんなふうにどこでも不動産の話で持ちきりだった。
 弱冠32歳の黄さんも例外ではない。すでに5つの不動産を購入し、そのうち3つの物件はすでに売買してしまったそうだ。私のような素人であれば、作りの雑な中国の中古物件マンションなど、誰が元値より高く買うのだろうと思ってしまうが、「今は新築のマンションを買いそびれた人たちが中古物件を物色している。中国人は賃貸よりも、少し高くてもマイホームに住む」という考え方がある。
 「買いそびれた」というのはこういうことだ。来年のオリンピックで完成された都市を世界にアピールするために、北京ではあらゆる工事が規制されている。オリンピックまでに完成が間に合わない住宅の建築は禁止されているので、新築マンションは品切れの状態なのだ。ちなみに「マイホームに住む」といっても、社会主義のこの国では、所有権を持っているのは国で、使用年数に限りのある使用権を買うに過ぎない。
 黄さんは売った3つの不動産資金でさらに高価な不動産を買った。建設中のマンションはすでに買値と今の市場価格の間で日本円にして500万円相当の利益が出ているそうだ。
 しかし最近の中国メディアの報道では、北京の不動産はあまりにも高すぎて普通のサラリーマンでは手が出ない、と極端な高騰が指摘されている。北京五輪後にはバブルがはじけるという説もある。
 「まあ大丈夫でしょう」
黄さんはそう言う。しかし何を根拠にしているのかわからないので、私には彼が不安を隠しているように見えてしかたがない。
 一度バブル経済の衰退を目にした私からすると、やはり今の状態は少し異常な感じもする。巨大な市場、13億の人口、海外からの巨大な投資、……バブルがはじけると、その影響は巨大津波になってみんなを飲み込んでしまうのではと心配せずにはいられない。
 何はともあれ、オリンピック後の黄さんから目が離せない。


写真:岩崎稔氏 いわさき・みのる…写真家。1974年、宮崎県生まれ。東京工芸短期大学写真学科卒業、中国人民大学法学部卒業。95年から北京市に暮らし、同市を拠点に活動を続けるかたわら、アジアのフォトグラファーネットワークづくりなどに尽力している。

*現在ANAの機内誌「翼の王国」で、作家の原口純子さんと「中国万事通」を連載中です。

ホームページ:http://www.minoruphoto.com/japanesemainpage.htm

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□連載
【大竹正枝の『新・自然真営道』】第13回

「花でつながる人の輪」

写真
スズランの水耕栽培

 先日、久しぶりに江別を訪れた。じつはある事がずっと気になっていて、もう一度行ってみたいと思っていた場所があったからだ。
 もう4年程前になるだろうか。珍しいスズランの苗を販売している店があると、人づてに聞いた。店は江別市内の大麻商店街の一角にある画材・絵画「カナリヤ」という。  
 行って見ると確かにスズランがそこにあった。しかし、それは珍しい品種というのではなく、珍しい水耕栽培によるスズランの苗だった。器は透明のガラスで出来ていて、くびれた器のネックの部分に上手く苗株がのっていた。器の口の部分はゆるやかにカーブしていて、洒落たデザインになっている。店の主人の話では、この器は何度も試行錯誤を重ねて完成に至ったそうだ。スズランが水耕栽培できるなんてそれまで聞いたことがなかったので、私にとっては不思議な感動だった。
 しかし、何でまた画材店で販売しているのだろうか? その理由を尋ねると、ここの店の主人が大麻商店街と町内全体の活性化を目指す「大麻元気倶楽部」のメンバーだったからだという。この元気倶楽部の会員は、店の経営者、公務員、学生、主婦など幅広い構成人員から成り、その名のとおり大麻町を元気にするために設立されたそうだ。現在、直面している問題は町内の高齢者の増加と、それに伴って商店街の活気がなくなってきていることだという。そこで、町全体の活性化を狙って、この“水耕栽培・スズラン”で町おこしをしようとういうのだ。スズランが北海道の代表的な花であること、また江別は焼き物の町として名高いことから、花と陶器の融合商品が出来たというわけである。ガラスの器はあきビンなどをリサイクルして作る。そして近隣に住んでいるお年寄りに手伝ってもらい商品を製作し、さらにこの商品を北海道の玄関口である新千歳空港や札幌駅周辺で販売しようという何とも大きな計画だ。
 店の主人は「高齢者はどうしても閉じこもりがちになる。だから、少しでも他の人と交流が持てる機会を作ってあげたい。また、それが商店の活性化につながればと期待している」と、話してくれた。

写真
土壌よりは水耕のほうが生育が早いそうだ
 自分たちの力で町を支える──そんな取組みの話を聞いて、私は素直に感動した。現在、日本の高齢化の状況は極めて深刻だ。「高齢社会」から「超高齢社会」の変遷を余儀なくされているというのに、医療費が削減されたり、相次いで市立病院が閉鎖されたりで、行政はどうも当てにならない。自分の身を自分で守らなければいけない時代だと多くの人が感じていることだろう。そのような昨今、大麻町のような構想計画が現実のものとなれば、お年寄りが社会に少しは明るい希望を持つことができるのではなかろうか? 私だったら、そんな温かい町に住みたいと思う。
 しかし、4年ぶりに大麻商店街を訪れ、その店の外から中を覗いてみると、スズランらしき花は見当たらなかった。「もしかしたら……」という私の予感は的中してしまったようである。店の女主人の話では、諸事情により、すでに3年ほど前に止めてしまったということだった。
 残念である。本当に残念である。

おおたけ・まさえ…1965年生まれ、千葉県出身。現在、北海道大学農学研究科に在籍。植物が人間に与える不思議なパワーに興味を持ち、主に園芸療法について研究するかたわら、ガーデニング、環境保全、そして地域・農村活性化など幅広く関心を持つ。

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■インフォメーション

北海道人のHPが更新されました。

北海道ブランドのチーズセットが北海道物産展にアップされました。
 北の大地が育んだ牛たちの新鮮なミルクから作られた、深い味わいのチーズやバター、ジャムをセットにしてお届けします。「共働学舎新得農場の4種のチーズセット」、「黒松内町トワ・ベール2種のチーズと十勝しんむら牧場のミルクジャムのセット」、「十勝野フロマージュ舎2種のカマンベールセット」、「ひがしもこと乳酪館チーズセット」、「横市フロマージュ舎チーズとバターのセット」、全5種類が「北海道物産展」に仲間入りしました。チーズファンの方はもちろん、ワイン好きなお父さんへの父の日ギフトにもおすすめです。

http://bussanten.hokkaido-jin.jp/?rd=991197110




■次号予告
 近々、タイに住む謎の男性がメルマガ執筆陣に仲間入りします。タイの山奥からどんな原稿が届くのか、編集部もまだ解りません! 期待が高まります!それが次号なのかどうなのかはまだ秘密です。
 次号メルマガの確定ラインナップはこちらです。
上林早苗さんの『上海日記』では、チャンインの曽祖父から、祖父シャオフォンさん、母シューリャンさんへと話が進みました。次回はついにチャンイン本人が姿を現すのでしょうか! 『危機の時代に―鈴木邦男・和多田進 10年目の往復書簡』は、編集長・和多田進から鈴木邦男さんへの手紙です。前回の「ごめんなさい」に対して、編集長はいかなる返答をするのか、まだまだ目が離せません!
 次号『メルマガ北海道人』第22号の配信は、6月7日(木)です。
 
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