精肉3代、肉の山本の「ラム工房」が生む唯一無二のベーコン

文・写真/小笠原 淳

「これジンギスカンかよ!」は、ほんの10余年前

 郷土料理のジンギスカンが首都圏などでも人気を博すようになったのは、ほんの2、3年前のことだ。すでに生ラム本来の味を世に問うていた千歳市の「肉の山本」は、にわかブームの到来とほぼ時を同じくしてラムの加工製品に目を向けはじめる。決して一般的でなかった羊肉のハムやソーセージ、ベーコンなどの開発は、山本歳勝さん(代表取締役専務)が自ら舵をとっての取り組みだった。
 高度成長只中の1969年に生まれた山本さんは、祖父・歳雄さんの切り盛りしていた“お肉屋さん”の風景をおぼろげに記憶している。農家出身の歳雄さんは、さまざまな職業に就きながら道内各地を転々とし、戦後間もなく千歳に落ち着いた。
 「駐留軍の街ということで、この商売を思いついたらしいんです」と山本さんが解説するように、もともとは肉食の習慣を持つ米兵を相手にはじめた商売だったという。地元初のお肉屋さんに育った3代目は、幼少時からごく自然に牛肉や豚肉、鶏肉、仔羊の肉を口にして育った。
 「ジンギスカンといえば、あの凍った円形のお肉を思い出す方が多いでしょう。私自身、まさにその世代」と、山本さんは昔を振り返る。当然、同世代の多くは羊肉本来の旨さをつい最近まで知らなかった。13年前、機会があって生ラムを試食した山本さんは、友人たちとのキャンプにそれを持参して焼肉を振る舞った。驚きをともなった「これジンギスカンかよ! なまら旨いな」の声は、今も耳に残っている。

同業他社の追随不可能、千歳でしか生まれない逸品登場

 ジンギスカン流行に先立って通好みの生ラムを静かに定着させていた「肉の山本」は、2005年に新たなブランドを立ち上げた。数年前から開発していたラムの加工品を含む「千歳ラム工房」のラインナップは、多くが同業他社に真似できない稀少かつ手の込んだ逸品ばかりだ。
 「ラムの脂は個性が強くて、加工すると自己主張が出過ぎるんです。といって赤身を多くすると、うまく仕上がらない」と、山本さんは説明する。難題を解決したのは、山本さん自身のアイデアだった。「言ってしまえば簡単なことなんですが、残念ながら企業秘密。大手さんに教えたら、きっと驚きますよ。まずは食べてみてください。少なくとも、ラムでベーコンつくる業者はうちのほかにないはずです」と笑顔で胸を張る。
 「ラム料理は、ジンギスカンだけじゃありません。ソーセージやハムといった形で、たとえば朝食の一品に加えてもらえるような、ふつうに親しんでいただける食材にもなり得ると思うんです」
 2007年にも、千歳郊外の自社牧場で育ったサフォークの仔羊が生産ラインにのることになる。365日、一日も休まず牧場に詰める多賀谷和利さん(羊肉生産部スタッフ)の手塩にかけた“子供たち”が、全国の食卓に並ぶ日も遠くないだろう。

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