“人との繋がり”が、生み出した商品です

―創業100年。食品卸問屋が開発したオリジナル商品―

文/楢戸ひかる 写真提供/スハラ食品

 小樽に本社があるスハラ食品は今年で創業100年になる。道内のすみずみにまで販路を持つ食品卸問屋で、積み重ねた年月の分だけ人脈も豊富だ。食品工場主や百貨店のバイヤーと直接話ができる環境や経験をもとに、3年前から自社製オリジナル商品の開発にのりだした。

缶詰の中に北海道の自然がある

 北海道のカニ……という言葉には多くの人を惹きつける魅力がある。この魅力の源はいったいどこにあるのだろう。手でじかにカニを持って、かぶりつく。そこに自然を体感できる原始的な喜びがひそんでいるのかもしれない。
 紋別はカニの街である。街の入り口にはカニの爪の大きなモニュメントがあり、港では毛ガニ、ズワイガニ、タラバガニが大量に水揚げされる。スハラ食品の缶詰はここの水産工場で作られる。
 スハラ食品は生の蟹の身しか使わない。だから、船の入港がない日や流氷期など、水揚げの無い時期は製造できない。
 なぜスハラ食品は、生の蟹の身にこだわるのだろうか?
 「自然の味」を届けたいからである。そのために、こだわりは製造方法にまで及ぶ。市場に出回っている缶詰の多くが何らかの化学調味料を使っているけれどスハラ食品は一切それを使わない。ゆで汁を特別に開発した製法で“うま味成分”と“水”に分け、うま味だけをふたたび缶に戻す。
 そうして作られた蟹缶は、身のすみずみにまでうま味がゆきわたっていて、ひと口食べるごとに蟹の風味が口の中に広がるのがわかる。少し大げさに言えば、全身の神経が舌に集中し、体が細胞レベルで求めている感じ……とでも言えばいいだろうか。大自然の中で思わず深呼吸してしまうのに似ている。一缶で約1.2キロサイズのカニから取れる身を惜しげもなく使うスハラ食品の缶詰には、本物の自然が詰っている。
 同じ製法で作られた「つぶ貝」「ほたて」「北寄貝」の缶詰もある。北海道の貝は濃厚な味が特徴だ。歯ごたえ、絡みついてくる食感……。こちらも体験してみる価値がある。

新鮮野菜が生み出す“太陽の色”

 野菜のピクルス「野菜人」や豆のピクルス「豆人」も人気商品である。北海道の南西、羊蹄山の麓に広がる伊達工場で作られているのだが、伊達界隈は北海道でも温暖な季候でも知られる別天地だ。緑に囲まれた自然豊かな土地で、製品がひとつひとつ丁寧に手作業で瓶詰めされているのである。
 通常ピクルスは、収穫したあとに塩蔵しておいた野菜が使われる。だから野菜の色は見ばえがしない。ところが、「野菜人」は違う。ビンの中の赤ピーマンも黄色ピーマンも人参も、どれもこれも鮮やかな色に輝いているのである。まるでゴーギャンの絵を連想させるような力強い色とりどりのピクルスなのだ。
 美しい色がそのまま保てるのは、元気な野菜を新鮮なまま使っているからだ。もちろん添加物は一切使っていない。野菜本来の生命力を大切にするために収穫後すばやく加工する事も、色の保存に一役かっているらしい。いちばん苦労したのがピーマンだったという。収穫時期が遅すぎても早すぎても鮮かな黄色や赤は出ないのだから。
 ピクルスに使われる北海道の野菜8〜10種類が全部揃えられるのは8月の1ケ月間だけだという。つまり、このピクルスは一年に一度しか作ることができないというわけだ。結果、おのずから数量が決まり、限定品とならざるを得ない。
 ピクルス「野菜人」は製造開始3年目で5倍の生産量になった。ファンはいまも着実に増え続けている。
 「豆人」の原料は、北海道の豆6種類。北海道各地に散らばるそれぞれの豆の産地から人脈を駆使して集めた豆たちで作った。「野菜人」がりんご酢を使っているのに対し、「豆人」は穀物酢のさっぱり味の仕上げになっている。

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「たらばかに」の他に「本ずわいがに」の缶詰もある。

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貝のエキスはスープにすると2度おいしさを楽しめる

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羊蹄山の麓にある工場で野菜をひとつひとつ手でカット

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大きさや色、形がバラエティに富んだ北海道の6種類の豆が原料

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