『動物も植物も、人間も育む悠久の森』

―ランラン・ファームの生んだヤギチーズと、森の賜物「かしわ茶」

文・写真/小笠原 淳

「半分以上を泣く泣く棄てていた」

 十勝平野の西端、日高山脈に抱かれるように、約300ヘクタールの森はある。
 「この地域には、もともと山羊が多かったらしいんですよ」と、社長の林克彦さんは話す。「十勝千年の森」が産声を上げた1995年、敷地内では数十頭の山羊が草を食んでいた。
 「フランスで山羊のチーズが人気を集めてると聞いて、指導に来て貰うことにしたんです」と、林さんはそのころを振り返る。森を経営するランラン・ファームが山羊の飼育を手がけたのは、もともと「肉用」としてだった。開業の7年後、その山羊たちはミルクの担い手として期待されることになる。その道の専門家ジャン・クロード・モランさんを招いて2002年から始めたヤギチーズづくりは、「これ」という成果を得るまでにいく度もの試行錯誤を繰り返した。味が安定するまでに約1年半、販路の開拓には4年以上を費やしている。チーズ工房設立から数年間は、「できた製品の半分以上を泣く泣く棄てていた」という。

毎日違う“生き物”チーズと過ごす日々

 山羊の乳は、一頭あたり一日約1リットルしか搾れない。牛に較べると約30分の1という少なさだ。千年の森で飼育する乳用山羊「日本ザーネン」種は約180頭だが、搾乳できるのはそのうち50頭あまりで、一日の収量は60リットルに満たない。搾乳の時期も5月から11月までの約半年間に限られている。
 「日によって微妙に味が違いますから、風味を安定させるのが大変です」と、工房の山口咲さんは話す。2006年春からチーズづくりに携わっている山口さんは、催事場での販売も何度か経験した。店頭で「おいしくない」の声を耳にした時は「ものすごいショック」だったが、それをバネにして作業に打ち込むうち、天候や気温、湿度などからその日の味を予測できるまでになった。チーズという“生き物”を相手に微調整を繰り返す作業を「毎日毎日、変化があって面白い」とさえ今は思う。
 夏には本格的な放牧が始まり、その山羊の乳でつくったフレッシュチーズは会心の出来となった。試食した林社長は、口にひと切れ入れた瞬間、驚きの声を上げ「これは欧州でも通用するよ」と断言した。

1000年生きる森の懐の深さが生んだ風味

 山口さんがチーズづくりに参加し始めたころ、千年の森は十勝の新たな特産品にも目を向けていた。産学協働で生まれた地元の品を積極的に広めていきたい―。3月末から取り扱いを始めたかしわ茶は、発売約1週間で約4000箱を完売し、すぐに3000箱の増産に踏み切ることになった。
 帯広市の会社役員佐々木義盛さんと帯広畜産大学の福島道広教授が開発したこのお茶には、十勝に多く自生する柏の葉が100%使われている。世界初の試みは、「牛が柏の葉っぱを食べる姿を見て、『身体にいいのでは』と思った」佐々木さんの直感がきっかけで生まれた。これまで知られていなかった柏の葉の食用効果に注目が集まるだけでなく、自然の香りと風味で老若男女に幅広く支持されている。
 動物も植物も、人間さえもあまねく育む緑が、昔も今も変わらずにあり、1000年先まであり続ける。十勝の森は、懐が深い。

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十勝川の支流ホネオップ川が敷地内を流れる

十勝川の支流ホネオップ川が敷地内を流れる

「『おいしい』の声が何よりも嬉しい」と、山口咲さん(左)

「『おいしい』の声が何よりも嬉しい」と、山口咲さん(左)

なだらかな草原「ランドフォーム」に立つ林克彦社長―左奥に「千年の丘」

なだらかな草原「ランドフォーム」に立つ林克彦社長―左奥に「千年の丘」

2006年8月から山羊の本格的な放牧が始まった

2006年8月から山羊の本格的な放牧が始まった

“悪玉”LDLコレステロールの抑制に有効な「かしわ茶」

発売1週間で4000箱を完売した「かしわ茶」