シソ葉のジュースができるまで……

農業生産法人の可能性を追求した元銀行員の戦い

文/楢戸ひかる・写真提供/サンユー農産

卒サラ銀行員が農業に着手した

 農業生産法人サンユー農産社長の寺井隆太郎さんは元銀行員である。大学を卒業後、東京や名古屋、ニューヨークなどに勤務し、順調なサラリーマン人生を歩んでいた。ところが、札幌支店長として赴任した北海道にすっかり魅せられてしまって「卒サラ」することになったのだという。平成元年、55歳だった。
 まず、破産した農家を買い取った。ところが、農地は化学肥料や農薬の使い過ぎで荒れ放題、農機具もろくなモノはなかった。寺井さんの“農民生活”はそんな状態での出発だったという。

 サンユー農産の畑がある仁木町は果物栽培がさかんである。しかし寺井さんが始めたのはジュース用のシソであった。
 「農協の買取り単価は安いし、ちょっとでも規格を外れるとダメ。だから農作物を作っているだけでは人件費すら出ずに潰れる農家も多いんです。農業生産法人の生き残る道は、作物を自分で加工し付加価値を付けて自分で売る以外にないことは最初から分っていました」と寺井さん。泥炭地にある自分の畑で作れる作物で商品になるのは何かといろいろ調べ、考えた結果、シソジュースなら売れる可能性があるという結論に達したのだ。

有機栽培をしたシソ葉でJAS認証を取得する

 シソは東洋のハーブといわれ、花粉症やアトピーなどのアレルギーの原因となる免疫力の乱れを抑える働きがあるという。
 「デパートで催事販売をしていると、一口飲んで買わなかったお客さんが、催事場を一周した後に戻ってきてくれるんです。“花粉症の鼻のムズムズがスッキリした気がする”と言って……」
 農作物は創意工夫、創造力の産物だと寺井さんは言う。アイデアを効率的に実現するにはどうするべきかは自分で考えるしかない、とも。だから、“有機栽培”と言っても、農家ごとにやり方が違うのだ。
 寺井さんが編み出した有機栽培はこんな方法だった。
 ビニールに穴の開いた“マルチ”というシートを土の上に張り、穴ひとつに一株ずつシソの苗を植える。そうすると根本の雑草を抑えることができる。それから、マルチとマルチの間の草は自走式の除草機を走らせて草刈りをする。害虫は木さく酢や、とうがらしとにんにくを焼酎漬けにしたエキスなどを散布して寄せ付けないようにする、という具合である。
 そんな努力が評価され、平成14年には有機栽培のJAS認証を取得した。JAS認証は現在の日本で最も厳しい規格評価だが、これを取得した食品は安全であることを公的に保証されたことになる。
 安全で健康に良いだけでなく、すっきりと甘い味も受けて、このシソジュースにはリピーターがしっかりとついた。商品は毎年完売だという。平成17年8月からはシソジュースで蓄積をしたノウハウをもとにヤーコンジュースの生産販売も開始した。ヤーコンジュースもフラクトオリゴ糖が豊富で、自然のままの甘みが美味しく、美容に良いと女性中心に売れている。
 「安全で美味しくて健康に良い食品を提供するという経営理念はしっかりしてるんですけど、肝心の価格設定は儲け度外視なんですよ」と同社取締役で娘さんの金子さんが教えてくれた。いいものをみんなに飲んでもらいたい、そんな考えが「儲け度外視」を支えているらしい。

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余市郡仁木町にある約1万坪のシソ畑。全て有機栽培認定圃場

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一枚が人の顔ほどもあるシソ葉。収穫は一枚一枚人の手で行う

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シソの根元にはマルチをひき、その間は除草機を走らせて雑草と戦う

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収穫作業をするのは、引きこもり生活から抜け出すことをめざす「自立塾ビバハウス」の若者たち

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寺井隆太郎社長夫妻。青空が良く似合う。

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