『流氷の恵みが詰まった厳選えぞばふん粒うに、獲れたてそのままで』

−「北海風おがわ」の“正直過ぎる”オホーツクとの付き合い

文・写真/小笠原 淳(商品写真提供/北海風おがわ)

故郷の海の幸で、多くの笑顔に出会いたい

 「人間、喰ってる時は喧嘩しないもんです。どんな人でも、旨いもん喰った時には一番いい笑顔つくるでしょ」と言いながら、すでにこぼれんばかりの笑顔になっている。
 小川臣章さんが「北海風(きたかいふう)おがわ」を開業したのは13年前、30歳代半ばのことだった。長年勤めた漁協を辞めて未経験の分野で勝負に出たのは、「人の喜ぶ顔が見たかったから。喜ばせたかったから」だ。
 物心ついたころにはオホーツクの海に遊んでいたという。仲間たちと連れ立って危険な浜に出かけ、深みに潜ってウニやツブなどを獲った。流木を焚き火にして暖をとり、海の幸を頬張るのが何よりの楽しみだった。
 自然の恵みと恐さとを身体で知った世代は、いじめや裏切り、嘘を何よりも嫌う。漁協時代、「黒を白」と言い募るように強要した上司につかみかかったことも何度かあった。後進には「人に騙されるな」と口癖のように言うが、自身は何度も騙されてきた。それでも、人の輪の中にいるのが好きだった。「要は、『おだつ』奴なのさ」と大きく笑い、「マグロと一緒。動いてないと死ぬから」と言ってはまた笑う。「おだつ」は北海道の言葉で「調子に乗る」というくらいの意味だ。

枝幸ブランド、正直さ詰まった極上の味を生む

 故郷の枝幸には“ブランド”がなかった。カニ、ウニ、ホタテのどれをとっても道内の他産地にひけをとらない味なのに、どうしてまだまだ認知度が低いのか…。
 「流氷、知ってますか。あれはアムール河の真水が海に流れ込んで凍結した物なんです。それが成長しつつ南下して北海道に巡り着くでしょ。オホーツクの『流氷初日』、一番最初が枝幸ということが多いんです。栄養分の最も豊かな時に枝幸に着いた氷が海に溶けて植物性プランクトンを生む。それを食べる動物性プランクトンが発生する、小魚が集まる、大きな魚が集まる…」
 枝幸のウニは、どちらかというと粒が小さく、見た目も武骨だ。「でも、味ではほかに勝ってます。特に甘みが強いんです」と小川さんは熱を込める。妻の範子さんと二人三脚でつくった「旬極厳選えぞばふん粒うに」には、獲れたてそのままの味が贅沢に詰め込まれた。発売当初、この傑作を「道内で有名な何とか岬の写真を貼ったら売れる」と言われ、正直過ぎる職人は「ふざけるな!」と怒鳴って商品を引き揚げた。
 自分でブランドを作るしかないと決意したのは、この時だ。不器用なほど真っ直ぐなこの商品は、やがて真っ当に評価されることになる。旭川市のホテルでこの傑作をたまたま口にした有名百貨店のバイヤーが深夜に小川さんの電話を鳴らし、「実に荒削りだ」と無愛想に言った後、「だが旨い、もっと旨いウニを造れるはずだ」と付け加えたのだった。
 口に入れた瞬間、流氷に運ばれた栄養分が創った濃厚な甘みが舌を占領し、磯の香りとともに鼻に抜ける。本当に旨い最高のウニは年に2週間ほどしか獲れない。その厳選されたバフンウニがいつでも同じ味で供されるのは、不眠の作業を担う範子さんの精魂込めた仕込みの賜物だ。苦労の成果に「おいしい」の声が届くたび、北海風おがわの全員が極上の笑顔でそれに答える。
 本当に旨い物は、食べる者と食べさせる者とを同時に幸福にしてくれるらしい。

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