和寒(わっさむ)発の全国ブランドを、生んで育てる

〜雪は資源であることを教えてくれた「越冬キャベツ」〜

文・写真/大藤紀美枝

 深い雪の下、キャベツの生命力が旨みを育む

 旭川市から北へ約36キロ、冬の和寒町は見渡すかぎり静かな銀世界である。田んぼも畑も深い眠りにつく中、油圧ショベルの稼働音を響かせ、厚い雪布団をはがしている人たちがいる。機械に続いてスコップで雪をはね、さらに手で一層慎重に雪をかき分け、時間をかけて掘り起こしたのは青々としたキャベツ……和寒町が、その品質の高さを全国に誇る「越冬キャベツ」である。
 「キャベツは収穫後も生きているんですよ。雪の中に寝かしておくと、生きよう生きようとして栄養素を出し、だんだん甘くなっていく。芯のところの糖度は10度ぐらいあるはずです」と、力強く話す中原浩一さんは、和寒きっての越冬キャベツ生産者・有限会社NKファームの代表取締役。生産者の連携と研究を呼びかけ、高品質の越冬キャベツ作りに心血を注ぎ、付加価値の高いブランド化に努めてきた立役者でもある。

 日本一のキャベツを生産するという、熱い思いをつなげたい

 「越冬キャベツはうまい。だからこそ“さすが元祖”と言われる、いいモノを市場に出したい」
 生産者としてそう考えるのは当然のことだが、今から十数年前、和寒町蔬菜組合連合会葉菜部会に入って間もない中原さんが市場研修で目にしたのは、品質のよいモノと、そうではないモノとが玉石混交で並んでいる光景だった。
 「播種の時期、定植の時期、防除の時期、それらのタイミングを外さないようにするのは難しい。だけど努力して品質を保っている人のキャベツと、天候などに左右されたにしろ品質を落としてしまった人のキャベツが同等に扱われて共計計算されるのは、公平さに欠ける。越冬キャベツの評価を高めるには品質管理の徹底が不可欠だ」
 そう考えた中原さんは、同部会の中で最年少ながら、「ペナルティー制度」を提案した。出荷したキャベツの品質が所定のレベルに達していない生産者にはペナルティーとして品質相応の減額が課され、減額した分は所定のレベル以上の高品質のキャベツを出荷した生産者に還元されるというもので、減点方式にも抜き取り検査にも適正な方策と公平性が求められた。提案は受け入れられ議論に議論を重ねたが、事は思うように運ばない。「賛同できない」と、部会にキャベツを出荷しない生産者も出た。
 そうした状況にあって踏ん張ることができたのは、農協青年部長を務め、さまざまな農作物の先進地を視察し、「全国消費者大会」に毎年参加して消費者と直接向き合う中で、「品質のよいモノと劣るモノとを区別した商品でなければ、日本一のキャベツとは言えない」という強い信念を持っていたからである。
 ペナルティー制度は2年の歳月を要して平成11年にスタートし、修正を重ねて平成14年に万全の体制が整った。かなり難産だったが、今では当たり前のこととして受け止められ、カボチャ部会など他の部会でも導入されるに至っている。
 「いろんなところに出て行って、いろんな話を聞いて、それを自分の人生、職業に生かしていく。一人ひとりが頭をちょっとひねって行動を起こしていくことで、将来の農業が変わっていく。単にそう思うのではなく、そうしていかなければならないと思うんです」と語る中原さん。
 “跡取り”と期待されながら父親と喧嘩して家を飛び出し、さまざまな職業を経験しながら、これからの農業を模索した青年時代。そのとき播いた種が大きく根を張り、およそ110戸の生産者仲間と共に和寒の越冬キャベツを一大ブランドに育て上げている。

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「越冬キャベツは、冬場、父さんは本州に出稼ぎにという和寒の農家の暮らしを一変した」と話す中原さん

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例年に比べ雪が少ないとはいえ、積雪約70センチ。掘り起こしに油圧ショベルが欠かせない

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11月中旬に切り取ったキャベツは氷温の雪の中で甘みを増していく

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越冬キャベツは、旭川市内にあるファーマーズマーケット「みっけもん市場」でも人気商品

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越冬キャベツと厳選したこだわりの食材を用いたニシン漬け「冬の漬け物語」

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