「チーズにできて、豆腐にできないことはない」

―こんにゃくの老舗が生み出した燻製豆腐

文・写真/小笠原 淳

「豆腐の話ができるのが嬉しくて仕方ない」

 「高い大豆で豆腐つくって、誰が買うのよ」と笑われたのは18年前のことだった。「地元・十勝の豆を活用したい。加工業は、原料の近くで操業すべきだ」との思いで始めた豆腐づくりだったが、設備を整えてから約半年間は機械が動くことがなかったという。「器用じゃないし、能力もない。だから、何やるにも時間がかかり過ぎるんですよ」と、中田食品(帯広市)の貴戸武司社長は自嘲気味に言う。親の代から続くそのメーカーは、もともとはこんにゃく製造販売の老舗として知られていた。
 豆腐製造が事業全体の7割を占めるに到った今の状況を、「まったく想像できなかった」と言う。2006年7月に陽の目を見た燻製豆腐「とうふくん」がたちまち物産品のベストセラーになったのも、予想を超える展開だった。道外向けに流通する十勝の大豆を少量で卸して貰うことは難しく、一時は豆腐づくりそのものを諦めていたほどで、燻製の開発過程でも「やっぱりやめようかな」と思うことは何度もあった。成果が形になった今は、「豆腐の話ができるのが嬉しくて仕方がない」のだという。

カマンベールのかび植えたりも―試行錯誤の7年間

 ヒントは、チーズだった。
 「今、チーズ工房ってたくさんありますよね。それぞれ独自の技術を持っていて、独自の味を打ち出してる。そういう個性が豆腐にあっても面白いんじゃないかって」
 牛乳からチーズをつくるのと豆乳から豆腐をつくるのは工程がまったく同じなのだから、チーズにいろいろバリエーションがあるように豆腐にもいろいろあっていいはずだと、眼を輝かせながら試作の日々を振り返る。カマンベールのかびを豆腐に植えつけるなどは朝飯前、先入観に囚われずに何でも試してみた。通常業務の合い間を縫っての約7年間で“新作”の試食が何百回に及んだのか当の本人もよく憶えていないという。

「真似されても構わない」先頭走者、目指すは「ミスター・トウフ」

 2004年に発足した「帯広産業クラスター」への参加が「とうふくん」開発の直接の引き金になった。「日持ちがする」「小さくて重い」「手軽に食べられる」などの要素に「田舎くささを逆手に取りたい」という思いを加えて形をなした新商品は、隠れた需要をみごとに捉えた。豆腐の消費量が少ない北海道に生まれ育った貴戸さんは、あえて製法特許を申請せず、「真似する業者が出ても構わない」とさえ言う。「十勝は豆をつくり続けなきゃいけない。畑を守るためです。その畑で生まれた大豆を、無駄にしたくないんですよ」と語る声に、故郷への熱い思いがこもる。
 「十勝には高級大豆が多いんです。寒暖の差が激しいから糖度も豊富になる。『とうふくん』に使う『とよまさり』は、とくに香りがよくて雑身が少ない品種で、燻煙するとさらにうまみが増します。まさにチーズ感覚で手軽に楽しめる商品ができた」
 発売直後に火の点いた自信作に、手紙や電子メールなどで「おいしい」の声が届く。素直に「嬉しい」と言って笑みを浮かべる不器用の徒は、「褒められたことないもんだから」と照れ隠しを付け加えながらも、「ここまできたら、『ミスター・トウフ』と言われるまでになりたい」と結んだ。

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水分を飛ばし、「桜チップ」で約6時間燻煙して「とうふくん」ができあがる

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貴戸社長は「店を継ぐと言った時の母の喜ぶ顔が忘れられない」―母・絹子さんの手になる書

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「とよまさり」など十勝産大豆はお菓子や煮豆につかう高級種で、豆腐にする業者は少ない

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地元の子供たちなどの見学が多く、工場は常に工程を公開している

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土産品として地元の駅や空港などで人気の「とうふくん」(JR帯広駅2階)

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