『鍛え抜いた眼力で選んだ「らんこし米」』

文・写真/大藤紀美枝

道産米のイメージを変える。北海道の米屋の挑戦!

 夏の甲子園2連覇に続く準優勝! 1校の快挙で全国高校野球における北海道のイメージはガラリと変わった。北海道に突然、強豪が誕生したわけではない。世の中が成長著しいことに気づいていなかっただけで、そうしたことは、あらゆる分野で間々あることである。
 平成13年、北海道南西部にある蘭越(らんこし)町産の米が、大阪で開催された北海道物産展に登場したときもそうだった。「北海道の米は論外」と思っているのか、物産展は大盛況なのに「らんこし米」を販売する米夢館(まいむかん)のブースだけ人が素通りしていくのである。ところが、炊き立ての試供品を口に運んだ一人が「おいしい」ともらすやいなや四方八方から手が伸び、「何でこんなに安いん?」との声が飛び交った。「安い」とは、「これほどの米が、なぜ、この価格で買えるのか」という意味だから、「らんこし米」は味にも価格にもシビアな大阪人から最上級の賛辞を贈られたことになる。

品種改良や栽培方法の研究成果が食味に結実

 米夢館は道東の美幌(びほろ)の米屋である。北海道を西へ横断して、はるか彼方のニセコの南西・蘭越で産出される「らんこし米」に力を注ぐわけは、一も二もなく良質米だからである。
 米夢館 代表取締役の向真理子さんは、「らんこし米」の食味のよさの基として低たんぱく質であることをまず挙げる。米の食味には、たんぱく質の含有量が大きく影響するという。かつての道産米は、本州米を代表する「コシヒカリ」などに比べ、たんぱく質量が高かった。品種改良や栽培方法の研究に励んだ結果、低たんぱく化が実現し、平成17年には北海道米として代表的な品種の「ほしのゆめ」のたんぱく値は全道平均7.3%、蘭越平均6.6%、同「ななつぼし」は全道平均7.2%、蘭越平均6.5%になった。この数値は北海道米高水準食味確立緊急対策協議会と北海道米麦改良協会が定点サンプルを測定したものである。

肥沃な大地、母なる川、成長を促す風

 向さんは、国内はもちろん海外にも学びの場を求めた結果、「らんこし米」のおいしい理由をこう分析する。
 「蘭越は米のたんぱく値を左右する土壌窒素肥沃度が低く、盆地型気候で、山々には広葉樹が茂り、長い年月をかけて地下に蓄積した有機分が尻別川の働きで田んぼに運ばれ、生産者の意識も高い。つまり、米づくりに理想的な土、気候条件、栽培管理技術がそろっているのです」
 蘭越に足しげく通う中で、向さんが実感したのは盆地内を回る「風の恵み」ということだった。イネは風に倒れないためにひげ根を張り巡らし、土壌中の栄養分をしっかり吸収するのである。
 昭和2年創業の米屋を父から引き継いで7年。「イネを総合的にとらえ、米の多様性を伝える米屋でありたい」と米のお菓子を製造販売するなど、あらゆる分野にネットワークを広げる向さんの姿は、よい実を結ぶために懸命なイネにも似てたくましく美しい。

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「らんこし米」は粘りと硬さのバランスがよく、軽い食味好みに特に好評

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美幌の米夢館本店は、米のお菓子も製造販売し、米の多様性を楽しく伝える

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独自ルートを確保し、「らんこし米」の中でも厳選した高品位のものだけを扱う

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米夢館の一角には北海道米の系譜など、貴重な資料を展示するコーナーも

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“古代米と出会いイネの世界に魅せられた向さんは、向学心を品ぞろえに反映

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