『ししゃもとともに3代、80余年の想いがこもる老舗の味』

〜独自の製法で味わい増幅、カネダイ大野商店の「生干ししゃも」〜

文/大藤紀美枝 写真提供/カネダイ大野商店

日本固有の希少魚・ししゃもを生干しに

 10月中旬から11月末まで、カネダイ大野商店(むかわ町)の軒先は“ししゃものすだれ干し”で覆われる。通りかかった人は、店から漂い出てくる、ししゃもを焼く匂いに誘われて一人、また一人と店内へ吸い込まれていく。
 北海道太平洋沿岸の一部にのみ生息するししゃもは、サケ目キュウリウオ科の魚で、秋、特定の河川に群れをなして遡上し、産卵する。日本固有の魚で、限られたところでしか捕れないから数にも限りがある。だから、お手軽価格で販売されている子持ちシシャモは、おおむね輸入魚のカぺリンと相場が決まっている。ししゃもと同じキュウリウオ科だが、姿も味も明らかに異なる代物だ。

上品な虹色に輝く一級品の味わいは格別

 カネダイ大野商店直伝のししゃもの一級品の見分け方を紹介しよう。
 メスは、ピンクパールを想わせる淡い虹色に輝き、卵で腹がぷっくりと膨らんでいるものが良しとされる。旬の子持ちししゃもは卵の粒々が舌に残らず、とろけるように口の中に広がり濃厚な味わいが堪能できる。オスは、魚体が大きく、同じ虹色でもメスより若干黒みを帯びているものが良しとされる。 オスは卵がないぶん全身に脂を蓄えているため旨みが濃く、地元の魚好きにはオスの方が好評だ。
 通常、「生干ししゃも」は冷凍状態で販売されているから、それを上手く焼くにはちょっとしたコツがいる。フライパンかホットプレートにクッキングシートを敷き、凍ったままを弱火で焼くのが一番のポイントなのだ。そうすることによって、魚体の脂を逃がさずにふっくらおいしく焼き上げることができる。

目利きが厳選、職人技で加工、最良の状態で全国へ

 「生干ししゃも」は、北海道の特産品として圧倒的な人気を誇り、道内市町村の逸品が勢ぞろいする「リンケージ・アップ フェスティバル」では5年連続人気ランキング1位に輝き、全国各地で開催される北海道物産展ではいつも人気商品の上位を占めている。
 「ししゃもといえば、むかわ」と、全国に名を広めたのは、カネダイ大野商店の功績である。大正12年、清流・鵡川の近くに魚屋を開いた初代は、地域に根差した商いを心がけるうちに特製「生干ししゃも」を考案するに至った。いまは、ししゃもの買い付けから加工、全国販売までを2代目社長の大野満さんが陣頭指揮している。一級品を見極める眼力は「先代に勝るとも劣らぬ」と関係者全員が太鼓判を押す。幼子を自宅に残して全国を実演販売して回った社長夫人の郁子さんは、ししゃものおいしさを全国に広めた立役者でもある。営業部長を務める長男の秀貴さんは、「自然環境が守られ、地域が活性化してこそ商売が成り立ちます」と地域振興に力を入れる。食塩以外は何も加えない秘伝の製法とともに、初代以来の郷土愛はしっかり新しい世代に受け継がれている。

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ししゃもの旬を伝える“すだれ干し”は、むかわ町の秋の風物詩

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上がメス、下がオス。本ししゃもは輸入品に比べウロコも口も大きい

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塩加減、干し加減に職人技が光る。上手く焼くと一段と風味が増す

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「むかわのししゃも」は、イベントに出店すると人の波が押し寄せる

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「生干ししゃも」を手に詳しく説明する大野郁子専務は、看板おかみ

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