エゾ鹿肉を多くの人においしいと感じてもらいたい!

〜イタリア料理店 イルピーノの「エゾ鹿のラグー」〜

文・杉本真沙彌 写真・外尾真吾

イタリアから学んだ地産地消を札幌で

 オープンから5年の「イルピーノ」は、地元の食材を使ったイタリア料理を楽しむ人たちで賑わっている。しかし、初めの1年くらいは客足もまばらだったと、オーナーでありフードコーディネーターでもある川端美枝さんは振り返る。
 5年間働いた銀行を退職し、イタリアで料理を学んだ川端さんは、オープン当初、本場のイタリア料理を出すレストランを目指していた。
 「店は札幌の中心街にあるし、本場の味を分かってもらえるだろうと思っていました。でも、ボンゴレがアサリであると理解してもらえず、タラコパスタやピザはないのかとお客さんに言われました。イタリアにはタラコパスタはないし、パスタはパスタ屋、ピザはピザ屋で食べるもの、そう思っていましたから」
 「イルピーノ」をはじめてから2年目を迎えるころ、店の2階に「ワイン居酒屋いる」をオープンさせた。手羽先をイタリア風にしたり、スモークしたイカを洋風に盛りつけたり、メニューには気軽に食べられるものを考えた。居酒屋の開店をきっかけに男性客が定着していった。居酒屋で道産食材を使い始めて、川端さんは自分が料理を学んだイタリアのことを思い出した。
 イタリアでは地元のものを地元で食べるのが普通だ。南イタリアで食べるものは南で、北の食材は北で、が原則である。地産地消。札幌にいるんだったらその近郊で作られた乳製品や野菜を使ったイタリア料理を作ろうと川端さんは思った。

レストランの味を家庭に届けるまでの長い道のり

 エゾ鹿肉は北海道特有の食材として注目を集めている。2年前、イルピーノではエゾ鹿肉を使った料理を店のメニューに加えた。
 「イタリアやフランスでは鹿肉は高級食材です。その鹿が北海道にいるんです」
 川端さんが考案したのは「エゾ鹿のラグー(ミートソース)」だった。ジビエ(野生の鳥獣)料理を好むような一部の人たちに喜ばれるのではなく、多くの人においしいと感じてもらえる味にしたかった。「エゾ鹿のラグー」は鹿肉独特のクセも少なく、食べやすい味だ。レストランで評判の良いこの料理を、家庭でも手軽に食べられるように冷凍した小売タイプも作った。
 「それまで店で使っていた鹿肉を冷凍加工すると、肉が硬くなって匂いが強くなってしまうんです。調理してすぐに食べてもらう場合は熟成した肉がいいんですが、冷凍加工には新鮮な肉の方がいいんですね。鹿肉の熟成度合いは出荷する業者によって変わるので、使い分ける必要があることも分かりました。店では静内の業者、加工用には根室の業者のものを使うことにしたんです」
 冷凍加工の「エゾ鹿のラグー」が店の味と同レベルになるまでには、人知れず苦労があった。
 このほかにも道産食材を使った商品が開発された。「北海道産鮭のトマトクリームソース」や「北海道産短角牛と豆のラグー」、北海道江別産小麦「春よ恋」を使った生パスタは90秒でゆであがる。しかし、北海道には加工業者そのものが少ないことと、必要な技術が道内にはない場合もあったので、加工品の完成にこぎつけるのにはかなりの苦労があったという。
 「商品の開発はもっと簡単だと思っていましたが、全然違いました。でもこれが商品を開発する楽しさかもしれませんね」とも川端さんは言う。
 川端さんのように“新しいものを積極的に作っていこう”という人たちの熱意と、それに応えようとする加工業者の努力が、北海道の加工技術の向上、ひいては北海道のおいしい加工品の増加につながってゆくに違いない。

イルピーノ
札幌市中央区北1条西3丁目荒巻時計台ビル地下
TEL.011-280-7557

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オーナーシェフの村武三さん。レストランにはシェフの味と人柄にひかれて地元の人たちが集まる

札幌の中心街、時計台のすぐ側にある「イルピーノ」入り口

脂がのった自慢のスモークサーモン。一枚一枚丁寧に手際よくスライスされる

落ち着いた雰囲気の「イルピーノ」店内

白ワイン、ブランデー、塩、コショウ、ディールなどがサーモン本来の味を引立てる。大きくて厚切りなので一枚でもかなりのボリュームだ。このままで味わってほしい

オーナーの川端美枝さん。メニューの開発、経営、道外での宣伝活動など多忙な毎日を過ごす

スモークサーモンに続いて人気が高い、タコのガーリックマリネ。タコは積丹や余市などで上がった歯ごたえの良い日本海産にこだわる。スライスオニオンや水菜などといっしょに

「エゾ鹿のラグー」。この料理を目当てに来店した観光客もいる。麺は細麺と平麺から選ぶことができる

スモークサーモンに続いて人気が高い、タコのガーリックマリネ。タコは積丹や余市などで上がった歯ごたえの良い日本海産にこだわる。スライスオニオンや水菜などといっしょに

北海道江別産小麦「春よ恋」100%の生パスタは、90秒でゆであがる。もちもちとしたコシのある食感が特徴だ