どこよりもおいしいスモークサーモンを目指して
じゃがいもやトマトなど野菜の燻製も次々と

文・写真/杉本真沙彌

自分の手で燻製づくり、両親の店をふたたび

 岩見沢中央市場の一角にある市川燻製屋本舗では、夫婦ふたりで朝早くから燻製作りをしている。現在の店主・市川茂樹さんは、「私はここで生まれたようなもんです」と語る。市川さんはここで両親の姿を幼いころから見てきた。両親が店を営んでいたころは、海産物や塩干物が扱われていた。周辺の町が石炭景気に沸いた昭和30年代には交通の要所であった岩見沢にも多くの人が訪れ、市場は食材を買い求める人であふれていた。しかし、景気の悪化で両親は店を閉店しなければならなかった。
 両親の店にある商品の中で、幼いころの市川さんが特に気になっていたものがスモークサーモンのマリネだった。「なんておいしいものなんだ」と思っていた市川さんは、大学時代にマリネに使われていたスモークサーモンの製造元でアルバイトをした。おいしいスモークサーモンを作る会社がどんなところか知りたかった、という理由である。
 アルバイトを経験し、すっかりその会社が気に入った市川さんは、そこで正社員として雇ってもらえるように願い出た。市川さんはスモークサーモンの老舗ともいえる水産会社で25年間営業として働き、スモークサーモンを売り歩いた。
 全国を歩き、行く先々でいろいろな味を知った市川さんは、自分が売っているスモークサーモンの味に満足できなくなっていた。
「もっとおいしいものを作れるのではないか」
 営業というものを作らない仕事をしていた市川さんだが、納得できるおいしいスモークサーモンを自分の手で作ろうと思った。閉店していた両親の店を再開させたいという思いもあった。25年間勤めた会社を辞め、平成17年に燻製の店を開いた。

こだわりの農家と出会い、野菜の燻製づくりへ

 市川さんの燻製作りは、どこよりもおいしいスモークサーモンを作りたい、という思いからはじまった。自慢のスモークサーモンは、濃厚な味わいで、脂の甘みが口の中いっぱいに広がる。一度食べたら忘れられない、やみつきになる味だ。スモークサーモンのほかにも、じゃがいもやたまねぎなど野菜の燻製も店頭に並ぶ。季節によってはトマトやアスパラの燻製も登場する。
 「ビオファームなかむらさんとの出会いがなかったら、野菜の燻製はなかったかもしれない」
 市川さんが野菜の燻製作りをはじめるきっかけだ。
 岩見沢で農業を営む「ビオファームなかむら」の中村さん夫婦は、就農して7年目になる。以前勤めていた会社で農業にかかわる部署で仕事をし、土作りに携わったご主人は、そのときスーパーの野菜のまずさに疑問を持った。自分でおいしい野菜を作ろうと決意するきっかけだった。
 中村さんが作った野菜を口にした市川さんは、おいしい野菜を自分の手でおいしい燻製にしてみたいと思った。野菜の燻製作りの始まりである。
 一言に野菜といっても、種類はさまざまだし、味もいろいろだ。素材をよりおいしく仕上げるためには下処理にも工夫がいる。中村さんから仕入れたおおきなじゃがいもは、牛乳でコトコト煮てから燻製機に入れる。牛乳の風味がじゃがいもの甘さと混ざり合い、デザートとも思えるような味わいだ。
 「味付けには工夫をしていますが、まずは素材の味がいいことが大事です」と市川さん。
 燻製の種類は次々と増え、現在は野菜や魚介など約40種にも及ぶ。評判を聞きつけ、味に惚れ込んだ道外の有名ホテルからの注文も入る。リクエストによってはあわびなど高級食材の燻製をつくることもある。取材の日は、スモークサーモンの注文が多数入ったので、朝4時から仕事を始めたとのことだった。
 「忙しいけど、作ることがすごく楽しいし、燻製を食べたお客さんのおいしそうな顔を見ると、本当にうれしいからね」と笑顔で話す市川さん。
 頭の中はいつも新しい燻製のことでいっぱいらしい。

市川燻製屋本舗
岩見沢市3条西2丁目6-2中央ビル
TEL/FAX 0126-20-0300

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両親が商売をしていたころから使っていた「市川食料品店」の看板がいまもかけられている

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胸に市川燻製屋本舗のマークが入ったオリジナルTシャツは、燻製作りに携わる人だけが着る

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市川さん自慢のスモークサーモンはブロック売り。包丁を入れるとじわっと染み出す脂がうまい

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燻煙中のじゃがいもの仕上がり具合を確かめる。寒い冬はできあがるまでに時間がかかる

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店頭には季節の燻製が並ぶ。定番のサーモンやたまごのほか、冬はかき、つぶ、サバ、ホタテ。野菜はじゃがいもなど。季節によって店に並ぶ商品は違う

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燻製作りは店主の市川さんと奥さんの二人三脚

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