『鮮度が違う。煮方が違う。だから、おいしいのさ』

〜製法特許を地域振興に役立てる浜本義夫さんの「たこのやわらか煮」〜

文・写真/大藤紀美枝

漁協から独立。増毛(ましけ)発の海の幸を全国へ

 海猫(ごめ)が鳴くから ニシンが来ると 赤い筒袖(つっぽ)の ヤン衆がさわぐ…というのは北原ミレイのヒット曲『石狩挽歌』の一節である。
 早春、産卵のため群れをなしてニシンが浜に押し寄せてくることを「群来(くき)」という。かつて増毛は、海猫が鳴き群来がやってくるニシンの千石場所だった。千石場所は、ニシンがたくさん捕れる、千石も捕れる場所という意味である。
 そんな増毛町で生まれ育った浜本義夫さんの実家はタコ漁師だ。増毛漁業協同組合に約35年間勤務し、原材料仕入れから加工、流通のプロセス、販売のノウハウまで、みっちり身につけた。そのキャリアを生かし、消費者に受け入れられ、魚価安定、地域振興につながる商品を目指して水産加工会社を立ち上げてから丸2年になる。目玉商品は「たこのやわらか煮」で、販路は全国に広がり、ファンは増え続けている。

厚く切っても歯切れがいい。驚異のやわらかさ

 「たこのやわらか煮」は、増毛沖で捕れたミズダコが原料で文字通り身がやわらかい。とは言っても、加熱すればやわらかい活タコも硬くなるのが普通だろう。ところが、はますいの“やわらか煮”は、ぶつ切りにして口の中に放り込んでも歯がスーッと入るほどやわらかい。「何十年かぶりでタコが食べられた!」と、お年寄りが喜んだというが、このやわらかさなら入れ歯でも難なくかみ切れる。しょうゆ味と梅味があり、いずれもタコ本来の風味を生かした、まろやかな薄味で、“料亭の味”と銘打っている。
 なぜ、こんなにやわらかいのか。秘密は平成11年に浜本さんが製法特許を取得した『蛸の肉質軟化方法』のなせる技である。3年以上かかって独自に研究・開発した技術だが、協力者にも恵まれた。しかし、ボイル釜の性能、加熱温度、加熱時間…キーポイントは、すべて企業秘密だという。

新鮮なタコ、高性能の冷凍施設、増毛産のスタッフ

 食品加工技術が発達した今日、鮮度や味をはじめ、技術でカバーできるものはいろいろあるけれども、浜本さんは「そういうのは、好きでない」と言い切る。浜本さんは鮮度にも安全性にも頑固一徹で、設備投資や労力を惜しまないのである。
 タコは腐敗の足が速い。活で食べるのでない限り、ただちにゆでるか冷凍するかが定石である。はますいが誇る加工場に直結した冷凍施設は、タコ漁の最盛期に大量に仕入れたタコを、庫温マイナス40度で急速冷凍した後、マイナス30度の凍結保管倉庫に移すシステムになっている。そうすることで「日持ちがする上、冷凍やけもしない」というのである。やわらか煮のたれ(調味液)も、作り置きは一切しない。その日、使う分だけ作って、余れば廃棄と決めている。
 増毛出身の青年に製法を仕込み、漁業者の奥さんたちに製品の袋詰めを任せる。「地域に技術が根付いたら、代替わりしても生き続ける」との信念に支えられた浜本さんの「たこのやわら煮」には、タコもうらやむ骨のある男の情熱がぎっしり詰まっていた。

*北海道ではミズダコ(マダコ科)も一般にマダコと呼ばれている。

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増毛港で出番を待つタコ釣船。岸壁に積まれているのは漁に使うタコ箱

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浜本社長(左)は水産物の仲買でもあり、タコ漁の担い手とも話が弾む

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海沿いの国道231に面して立つ、はますい。直売所には自慢の商品が並ぶ

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「たこのやわらか煮」は、おせち料理にも好適。タコめしも美味

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ぶつ切りにし、そのままで。片栗粉をまぶし油で揚げ、タコザンギにも

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