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北海道人特集−「となりの北海道人」
文・写真/杉本真沙彌 写真提供:国境なき医師団

安全や貧困を心配しないで暮らせるように


国境なき医師団の外国人スタッフと一緒に

 ―ポートハーコートは日本の外務省が退避勧告を出すような都市ですね。外国人が誘拐されるなど、危険な地域だと思うのですが、自分の安全はどのように確保していたのですか。

 スタッフに守られているというのは常に感じました。宿舎の前に守衛さんがいて24時間チェックしていますし、移動のときは運転手さんが無線センターと常に交信しながら安全確認をしています。危険な場所を通るときには、運転手さんが運転に専念できるよう、私たちもセンターと交信する方法を教えてもらいました。道は毎日変えていましたね。
 もし襲撃されたら、もし何かあったらどうやって避難するかについて、毎週のセキュリティーミーティングでプログラムマネージャーから指示がありました。安全確保に十数人という人がかかわるなど、セキュリティー対策はしっかりしています。私は危険な目には遭いませんでした。

 ―国境なき医師団でも攻撃の対象となってしまうんですか。

 これが難しいところだと思います。いい仕事をすることが安全性を高めることにもつながると思いますが、治安が悪いとそれを期待するのは難しいです。国境なき医師団のスタッフのなかには安全性を高めるためにいろんな部族の人に会いに行って交渉する人たちもいました。

 ―つらかったことは。

 私はブラジル人の麻酔科の先生といっしょに仕事をする時間が多かったんです。十数カ所刺された方が亡くなったり脚を切断された方が出血多量で亡くなったりと、患者さんを失うことが重なったとき、彼は「もう耐えきれない、国に帰る」と言い出したのです。そういうとき、「とどまろう」なんて言えなかったです。気持ちが分かるだけに簡単にそんなことは言えない。ホスピタルマネージャーと話し合って彼はとどまることになったのですけど……。患者さんを亡くしたときにそれをどう乗り越えていくか。スタッフとそういう問題に向き合うときつらかったですね。でも、患者さんとのかかわりももちろんですが、同じ志を持っている仲間といられたことが一番の思い出です。


札幌道都病院の診察室にて

 ―帰国して、いま思うことは。

 日本で生まれ育って幸せだなということです。安全に関しても医療に関しても、生活の基盤に関して生命の危険を感じることがほとんどありませんからね。ナイジェリアでは常に死と隣り合わせの人びとがいて、しかも貧困のために食べるのにも困っています。暴力や貧困がはびこっている状況が何かちょっとやったら変わるとは思いませんが、みんなの力で変えることができたらいいなと思います。世界の人びとが安全とか貧困を心配しないで暮らせるようになってほしいなと強く思います。
 日本でも困っている方がいっぱいいる、それなのに自分はどうしてわざわざ海外に行かなきゃならないんだって考えることもあります。でも、実際に行ってみなければどれくらい困っているのか分かりません。それを知っているのと知らないのとでは違うと思うんです。困っている人に対して私ができることは少ないですが、今後も国境なき医師団の活動をつづけたいと思っています。

(インタビュー:2009.9)

●国境なき医師団(MSF)とは
1971年にフランスで設立された国際的な民間の緊急医療・人道援助団体。医師、看護師、助産師ら医療従事者など、年間約4,600人の外国人スタッフと2万4千人の現地スタッフが、紛争、飢餓、感染症の流行、自然災害などで生命の危機に瀕している人々に迅速かつ効果的な援助活動を行っている。活動地域は世界65カ国におよぶ。
ホームページ  http://www.msf.or.jp/

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