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北海道人特集−「となりの北海道人」
文・写真/大藤紀美枝

自然をとらえる感性を磨け

80歳のいまも木登りの現役。無駄のない動きで慎重に高木に登り、コクワの実を採る斎藤さん

80歳のいまも木登りの現役。無駄のない動きで慎重に高木に登り、コクワの実を採る斎藤さん

 山の牧場には山ブドウ、コクワ、クルミなど、実のなるものがたくさんある。斎藤さんは来訪者に「採って食べてみなさい」と勧めるが、近年は木に登ろうともしない若者が少なくない。木の実を採って食べた経験がないのか、木に登ることができないのか。理由はあるのだろうが、目の前の自然に関心を示さないことを斎藤さんは何より憂える。
 「興味を持つか持たないかは、その人の感性なんですよ。山は素晴らしい宝物なんです。それを感じ取れないということは、感性がマヒしてるってことなんですよ。社会システムの中で生きているうちに自然を見ても感動しなくなった……。高度な文明社会の弊害なのさ」
 スポーツにしろ語学にしろ、子どものころに体験するのと歳を重ねてから体験するのとでは習得の“質”が違う。それはだれしも感じていることだろう。だからこそ斎藤さんは言うのである。
 「こういうところで、あんまり強制しないで子どもの好きなように遊ばせればいいのさ。感性は自ずと育っていくはずだ」

父親譲り

斎藤牧場では倒木も放っておく。薪にするのにちょうどよいものはロープを掛け、車で引いて行く

斎藤牧場では倒木も放っておく。薪にするのにちょうどよいものはロープを掛け、車で引いて行く

 斎藤牧場はあらゆる人に無料開放している。見学者、研修生はもとより、滞在して心身を癒やしたいという人も受け入れている。牧場内に山小屋を建てた人もいれば教会を建てた人もいる。美術館や茶寮もオープンしている。酪農の専門家が視察に訪れることもあれば、幼稚園児が遠足で訪れることもある。
 何かに真剣に取り組んで成果が現れたら、公表・公開して社会に還元する。斎藤さんのこうした姿勢の原点を尋ねると、「父親の遺伝子をきょうだいのうちで一番多くもらってきたんだろう」と言う。
 「父親は25歳で分家してもらったんだけど、そのとき田んぼは2反(約20a)だったの。それから約20年、46歳で死んだときには村一番の農家になっていたんです。野菜をつくったり金魚を飼ったり、毛をとるのにアンゴラウサギを飼ったりと、みんながやったことのないことやって、上手くいったら教えてやっていました。人を利用して金もうけをするなんてこともありませんでしたよ」
 斎藤さんは8人きょうだいの7番目である。子どものころ、学校の勉強は苦手だったが、キノコ採りや栗拾いは大人顔負けのノウハウを持っていた。生まれながらにして鋭い感性と観察力を持ち合わせていたということだろう。数年前に酪農経営を息子さんに譲った斎藤さんは、80歳のいま、毎日牧場を歩き、気づいたことを心に留め、そのときできることを行い、草や樹木が生き生きとし、牛が本能を発揮することができる環境が保たれるよう努めている。そうする中で「ますます自然の素晴らしさ、奥深さを感じる」と斎藤さんは言う。
 「人間がなんぼ知識を持っても感性を研ぎ澄ましても、分からないことがたくさんあるってことに、この歳になって気づいたのさ。若いときに分かったつもりでいても、40代、60代、80代と、そのとき分かるものが違ってくる。ものごとを見る眼がだんだん相対的、総合的になっていくんですよ」

<参考文献>
斎藤晶著『牛が拓く牧場』『いのちの輝き感じるかい』(地湧社)
野原由香利著『牛乳の未来』(講談社)

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