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北海道人特集−「となりの北海道人」
文・写真/大藤紀美枝
丑年の春が楽しみ!

「私のお父さん」 in 斎藤牧場(上)

 牛乳は文字通り牛の乳である。乳を出すのは子どもを産んだ後の雌牛で、子どもを宿すには雄牛が欠かせない。こうした当り前のことを、私たちはつい忘れてはいないだろうか。また、牧場といえば、白黒模様のホルスタイン種の群れを思い浮かべる。しかし、ほとんどの場合、そこに雄牛はいない。なぜなら今日の酪農においては人工授精が一般的だからである。
 となれば、ぜひとも乳牛のお父さんを紹介したいと思い、旭川市神居町で雌牛と雄牛を山地に放牧して自然交配を行っている斎藤牧場を訪ねた。

プロフィル 牛さんたち=乳牛、旭川市出身、旭川市在住

風土に合った牛群

牛たちの水飲み場になっている池を見下ろすと、まさしく日本庭園の趣。元からあった石や樹木が生かされている

牛たちの水飲み場になっている池を見下ろすと、まさしく日本庭園の趣。元からあった石や樹木が生かされている

 JR旭川駅から南西に向かって25分ほど車を走らせる。田園風景の突き当たりの山道を登って約束の時間に斎藤牧場に到着したが、牛は一頭も見ることができなかった。
 「山(放牧地)の上の方に行ってるんだろう。そこに乗んなさい」
 斎藤晶さん(80)に促され年季の入ったライトバンの助手席に乗り込んで、牛のもとへと向かう。道をそれ、放牧地の中に入ると、急こう配あり、くぼ地あり、そこここに大きな石が顔を出し、へたをすればタイヤが埋まりかねない“ぬかるみ”もある。見渡せば10月の半ばを過ぎたというのに、緑の絨毯を敷き詰めように青々とした草が、ニレやシナノキ、クルミなどの樹木とともに雄大な景観をつくっている。
 斎藤さんの巧みな運転に仰天し、車内に歓声を響かせながら放牧地を登っていくと、ゆったりと草の上に横たわる牛の一群が現れた。
 群れの近くに車を停め、私のような新参者が近づいていっても牛たちは気にしない。目を閉じ泰然と横たわっているもの、地面に鼻を押し付けるようにして一心不乱に草を食んでいるもの……。数センチの草を舌で巻き込んでザクッ、ザクッ、ザクッと食む音は力強く、小気味よい。
 「うちの牛はよその牛と比べると、前脚が短いかもしれない。その方が山を登り下りしやすいのさ」と斎藤さん。風土に合った体形、体質、行動をする牛群をつくるのがコツで、そうするには少なくとも3世代10年はかかるという。

雌牛に囲まれて2年

舌を上手に使って短い草を食む牛たち。「(風土に合わせ)口の格好も変わってくるのさ」と斎藤さん

舌を上手に使って短い草を食む牛たち。「(風土に合わせ)口の格好も変わってくるのさ」と斎藤さん

 斎藤牧場は、春、雪が解けはじめ、山の南斜面が半分ぐらい開いてきたら牛を放す。笹が見えなくなるぐらい雪が積もったら牛舎に入れる。放牧地内の移動も繁殖も牛任せだ。ただし、種付け用の雄牛は2頭、約2年ごとに更新と決めている。種雄牛が2頭いれば、夏の終わりまでにほぼみな受胎するのだという。しかし、同じ種雄牛を3年使うと父と子間の近親交配が出てくる。それを避けるには種雄牛は2年ほどでお役目御免となるのである。
 現在、放牧されている雌牛は50〜60頭、雄牛2頭は、いずれも2008年に種付けデビューしたので、まだ子牛は産まれていない。
 斎藤さんが指さした群れの中の1頭は、他の牛と明らかに雰囲気が違った。「大丈夫、大丈夫」という声に後押しされて近づくと、ギロッと睨まれた挙句、「フン!」と荒い鼻息をかけられた。
 「これはまだ若いからそうでもないけど、雄牛は4歳、5歳となるにつれ首が太くなって貫禄ついてくるの。すると危険性も出てくるんですよ。だから雄牛のそばにはうっかり行くなよっていうの。おっかなさを知らない人、多いから」
 2歳弱の雄牛は、ひと睨みで私をビビらせた。もっと歳を重ねたらどうなるか、想像に難くない。斎藤牧場で種雄牛に近づくことができたのは、そばに斎藤さんがいてくれればこそなのである。

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