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特選エッセイ集 2006年9月26日公開北海道のおいしい食物たち、もっと誇りを持って! 吉田ルイ子(フォト・ジャーナリスト)
吉田ルイ子

 「北海道の何が一番好き?」ときかれると、私は即座に“タベモノ”と答える。室蘭の小学校(当時国民学校)に4年生まで、通っていた。その後東京へ移り、大学卒業後2年ばかり大阪の放送局で働いていたが、繊細でおしゃれな関西料理より、素朴そのものの匂いや感触をそのまま活かしている、というか、魚でも、野菜でも、自然の感触や香りが活かされている、いわゆるドサンコ料理が好きだった。
 その後、アメリカでの生活が長かったが、ニューヨークよりもっと北のボストンで食べる、とうもろこしやじゃがいも、鮭やにしん等、素材が北海道の味だったのを、いまもよく憶えている。素材がよければ、凝った料理等必要ない、と私は思う。その中でも、私はグリーンアスパラとにしんが大好きだ。

 いまでは、流通手段が発達しているので、日本どこでも、グリーンアスパラやにしん等が手に入るが、東京のスーパーや市場で買うと、味も香りもない。でも東京の人たちは、またレストランは、凝った料理につくりかえてしまう。その傾向は本場の北海道のレストランでも感じることがこの頃多い。
 高級な料理とは、素材の味や香りを消して、全く別の食べ物に変えてしまうことだと考えているのではないかと疑いたくなることが多いのが残念だ。
 いわゆる高級といわれる料亭やレストランにいくと、素材が何であるかわからない程、凝った加工を重ねた料理が並ぶことが多い。それを高級な料理というのかもしれないが、私は、たしかに美味ではあるが、素材がわかる、見える食べ物が好きだ。
 ドサンコの私だからこの様に思うのだろうかと疑ったこともあったが、東京や関西の友人にもきいてみると、やはり私と同様、北海道で食べるのだから、もっと素材の香りや味がわかる料理が食べたいという人が多いのがわかった。

 食べ物は、食べる場所や環境で同じ食材でもちがう味や香りがするものだ。北海道にいってまで、東京やニューヨークの高級レストランと同じ味や料理を期待する人がいるとすれば、北海道の味や香りや料理を味わう礼儀も資格もない高慢な人々だと私は思う。
 “郷にいったら郷に従え”という諺があるが、そこの土地の素材で、そこの料理法でつくってくれる食べ物を味わってくれる人々こそ、大切な客であり友人となれる人々だと思う。

 私は大阪で3年程仕事をしていたことがあったが、彼らの自分たちの習慣や食べ物やことば等に時々うんざりする程の誇りと自負を持っている。彼らは、うどんひとつにしても、「お口に会いますといいのですが…」とか、「こんな簡単なものでごめんなさい。」等、決して言わない。関西のすうどんは日本で一番おいしいんですよ、という自負がよくあらわれている。ときに高慢とも感じる程、誇り高い。彼らに比べると、北海道の人々は、食べ物だけでなく、仕事や生活面でも、臆病、よくいえば謙虚すぎると思うことが多い。もっと自分の思うこと、自分の行為、言動を、積極的にストレートに押し出していいのではないかと思うことが多い。

 北海道には、やまとからの人々が移住する前に、アイヌの人々が住んでいた事を忘れて欲しくない。開拓の過程の中で、彼らとの争いも多かった。でも先住民としての権利を取得したいま、彼らとの共生と調和をポジティブな気持ちで受けいれてほしい。
 多民族、多国籍人との共生は、北海道だけでなく、いま日本全体の重要な課題となっている。北海道は、この課題の先輩でもある。
 アイヌの人々ばかりでなく、いま日本全体が、地球人の共生という課題に直面しているのだといえよう。
 私は、いま東京に住んでいるが、北海道出身の北海道人、日本人そして地球人として、ポジティブに生きていきたい。
 北海道そして北海道の人々、ありがとう。

■吉田ルイ子(よしだ・るいこ)プロフィール

1938年、北海道室蘭市生まれ。慶応義塾大学法学部卒。NHK国際局、朝日放送アナウンサー勤務の後、1962年フルブライト交換留学生として渡米。ユージン・スミスの写真に出会い、ハーレムの人々の写真を撮り始める。71年帰国。72年から沖縄、ベトナム、韓国、キューバ、イラン、リビア、南アフリカ等を取材。81年東宝映画「ロングラン」監督。89年JCJ(日本ジャーナリスト会議)特別賞受賞。97年、年齢を重ねて美しく輝く日本の女性たちを撮り始める。03年、北海道東川町の第19回国際写真フェスティバルにおいて「華齢な女たち」で東川特別賞受賞。04年、インド・ラダックを取材。ほかにも、北米、南米、東南アジア、中東、アフリカ等の世界約70か国をめぐり、人々の生活、感情に思いを寄せた視点で写真を撮り続けている。

[写真展歴]

1971 「ハーレム Black is Beautiful」東京
1979,1983,1984 「ニューヨーク黙視録」東京、神奈川、大阪
1991 「私はネコロジスト」東京、札幌
1996 「MASAKANE」東京、札幌、登別
2001 「Beautiful Age 華齢な女たち」東京、大阪、札幌、名古屋
2003〜2004 「肉体のシュルレアリスム 舞踏家土方巽抄」川崎
2005 「唐招提寺展 献華写真」東京/上野 東京国立博物館   ほか多数

[著作]

1972 『ハーレムの熱い日々』講談社(1979講談社文庫)
1977 『自分を探して旅にいきてます』じゃこめてぃ出版(1983講談社文庫)
1980 『吉田ルイ子のアメリカ I hate but I love』サイマル出版(1986講談社文庫)
2001 『華齢な女たち beautiful age』中央公論新社   ほか多数

http://www.geocities.jp/ruikoy/

http://www.hokkaido-jin.jp/issue/books/072.html

ハーレムの熱い日々

『ハーレムの熱い日々 BLACK IS BEAUTIFUL』
(講談社文庫)

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