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北海道のお宝めぐりー美術館に出かけよう!ー 北海道人特集・2006年8月23日公開

「松原図」 山口蓬春(1932年制作・紙本着色・二曲屏風・各168.0×169.9cm)/北海道立函館美術館(函館市)

日本画の伝統的な技法をベースに西欧の近代絵画の要素を融合させた蓬春。

日本画の伝統的な技法をベースに西欧の近代絵画の要素を融合させた蓬春。のちに“蓬春モダニズム”と呼ばれる作風を確立するが、「松原図」はその黎明期に描かれている。彼が洋画家・福田平八郎や木村荘八らとジャンルを超えて結成した「六潮会」の第1回展に出品された記念すべき作品で、その後、所蔵者の変遷などの事情から長らく所在不明に。それが近年たいへん良い保存状態で発見され、今年、蓬春作品を求めていた同館に収蔵されることとなった。

山口蓬春、そしてウォーホル。新収蔵品に彩られて迎える開館20周年。

 蓬春作品が見つかった。函館で所蔵した。
 そんなニュースに駆けつけた道立函館美術館は、折しも今年の新収蔵作品(ニューカマー)たちの“お披露目展”まっただ中。アンディ・ウォーホル、金子鴎亭、前田政雄らの作品を眺めつつ展示室を巡って行くと、トリを務める場所に「松原図」が現れた。

 1枚が168.0cm×169.9cmにおよぶ大作。思わず引きつけられ、一歩近づく。海辺の荒風にさらされ続け、一方に傾いた松の大木たち。しかしその姿は毅然として、風の暴挙に負けず根を張り枝を張り、青々とした葉を茂らせている。大胆に筆をふるったかに見える針葉の塊は、見れば一本一本、丁寧に描き込まれたものだ。中に一群れだけ茶色く枯れた葉があるのは、ただのアクセントなのか、何かのメッセージなのか。

 蓬春といえば、戦後展開した、西欧画のエキスを見事に融合したモダンな日本画で知られ、ファンも多い。しかし本作は、戦前、その作風を確立する前の作品だ。「モダンな蓬春が好きな人は物足りないと思われるかもしれません」と学芸員の地家光二さん。
 「ですが、彼の後半だけを知っているより、全体を知っているほうが面白いはず。前半の蓬春を知るという意味では興味深い作品です。しかもこれは、洋画家たちと組んで『六潮会』を結成した第1回展の作品。何か先取的な、これまでと違うことに挑戦しようという意欲のようなものが感じられます」。

「あらっ!」前田守一

「あらっ!」前田守一
収蔵コンセプトを如実に表した代表的作品「あらっ!」。コミックのふきだしを立体化したユーモラスさの中に、実際には見えないはずの「言葉」が見える不思議さへの新たな興味を喚起している。

「五十一音―箱」平林 薫

「五十一音―箱」平林 薫
「さ」なら「魚」というように、平仮名とその文字で始まる事物を組み合わせて51文字を表現した作品。作者の平林薫は、27歳の時に受けた手術で、言語機能を司る左脳に生来の特異性があると判明。それを契機に、「言葉」をテーマとするようになった。


モダンなデザインの高い天井を持つロビー。

<< モダンなデザインの高い天井を持つロビー。ここにも彫刻作品が常設されている。

可動式の壁で、いかようにもレイアウトできる主展示室。

<< 可動式の壁で、いかようにもレイアウトできる主展示室。

 同館は、今年開館20周年。記念すべき年に、いい作品を収蔵することができた…と喜ぶ中には、アンディ・ウォーホルの「キャンベル・スープII」もある。「収蔵コンセプトである『文字と記号の現代美術』にもっともふさわしい作品として」「松原図」は9月から2007年春まで神奈川県で行なわれる「蓬春展」に貸し出されてしまうが、「キャンベル・スープII」は12月に同館で行なう収蔵品展「マジカル・ミュージアム・リターンズ」に再登場。なんと「実際のキャンベル・スープを、絵を眺めながら味わっていただける趣向を考えています」とのことだ。

 その際に活躍するのは、館と20年の歩みを共にする美術館ボランティア「いちいの会」の皆さん。喫茶から資料整理、会報発行、広報活動までを手掛ける、総勢約130名の縁の下の力持ち。夏に行なった「魅惑のシルクロード展」の際には、喫茶スタッフが現地直送のお茶の入れ方を学び、物販スタッフが特設売店で200におよぶ商品の特徴を覚え、客の質問に答えながら販売をした。12月のスープ・サービスの場にも、必ずや、彼女たちの姿がある。
 9月には、「いちいの会」が主催者となって、20周年記念展を開催。館の市民ボランティア団体が、資金面も含めて一つの展覧会を主催するケースは、全国的にも例がない。同館が愛されている何よりの証と言えるだろう。
 作品の充実と人のぬくもりに支えられ、彩られ、いま同館は、21年目の歩みを始める。

学芸員の地家光二さん

「当館では以前からもう一枚、蓬春作品を所蔵しています。『瑞鶴』です」と教えてくれた学芸員の地家光二さん。後ろにあるのはアンディ・ウォーホルの連作版画「キャンベル・スープII」。10点完品での収蔵はなかなかの快挙。

美術館と共に生まれ、今年結成20周年の「いちいの会」の皆さん。

美術館と共に生まれ、今年結成20周年の「いちいの会」の皆さん。

「いちいの会」

「いちいの会」は約130名のメンバーが、喫茶コーナーを運営する「喫茶」、記念アイテムの販売を行なう「売店」、ポスター&チラシを配布する「PR」、図録や資料の整理を行なう「図書」、新聞各紙に載った美術関係の記事をチェック・保管する「新聞」、収蔵品や企画展作品を撮影・保存する「写真」の班に分かれ、週に数日ずつ活動。「なくてはならない存在」と美術館スタッフは口をそろえる。9月には20周年記念展「美術館へ行こう!」(ディック・ブルーナのユニークな展覧会)を主催。


山口蓬春(やまぐち・ほうしゅん)

1893年、松前町に生まれる。父親の転勤で上京し、長じては東京美術学校西洋画科で油絵を学ぶが、やがて日本画科に転科。近代西洋画の技法に裏打ちされた技量で描かれた日本画は、見事に和洋を融合し、実験的に“多少取り入れてみた”たぐいとは一線を画す。新しいものに果敢に取り組む姿勢について本人は、「(6歳までしかいなかったが)、新しもの好きの北海道人の血が流れているんだと思う」と後年語っていたという。

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