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北海道のお宝めぐりー美術館に出かけよう!ー 北海道人特集・2006年8月23日公開

「球」 アルナルド・ポモドーロ(1989-90年制作・直径200cm・ブロンズ)/北海道立釧路芸術館(釧路市)

磨き上げられた端正な球体に、破壊や暴力の跡をも思わせるひび割れ。

<< 磨き上げられた端正な球体に、破壊や暴力の跡をも思わせるひび割れ。見る人に「ショックを与える」と表現する評論家もいるこの姿は、一方で「見た目とは違う何かを内包する」という哲学的深遠さを感じさせもする。いずれにせよ、この一つの球体の存在が、周囲に劇的な空間を創り出すことに変りはない。常設展を持たない同館にとって、これが唯一、いつでも見られる所蔵品。ある時、子供が近づいてさわり、球体が回転することを発見。「本当は自由に回して鑑賞していい作品なのかもしれないね」とうれしそうに語っていた。


いつでも行きたい楽しい場所でありたい。作品の魅力+αで勝負。

  れんが造りの瀟洒な洋館を思わせる建物の前庭に、雲の流れを映し込む、磨きあげられた球体が在る。割れ目から内部を覗かせたその姿は、平穏なるものの中に実は不穏な正体がひそむ…とでも言いたげな様子。アルナルド・ポモドーロの代表作「球」だが、釧路に住む子供たちならきっと、指をさして元気にこう呼ぶだろう。「ポポちゃん!」。

公立美術館には珍しい、白れんがの壁と白い床を持つ展示室。

公立美術館には珍しい、白れんがの壁と白い床を持つ展示室。古い倉庫か屋敷を改造して使っているイメージでロマンチックだ。


 敷き居が高いと思われがちな“美術館”に、いかに気軽に足を運んでもらうか。最近はどこの館でも工夫をこらしているが、中でも釧路芸術館の取り組みはユニークだ。キャラクター作りに挑戦し、4年前、カモメをキャラ化した「ももちゃん」が誕生。その後、「球」をギザギザの口を持つ丸いキャラ「ポポちゃん」とし、共にさまざまなイベントやパンフレット、ホームページ上に登場させてきた。やがて両者は館の顔として親しまれ、芸術館は気軽に行ける面白い場所、というイメージ作りに大いに貢献した。

 さらにももちゃんの人気は、新たなキャラ、「カモメンジャー」を生むことにつながる。地元の人気劇団「東風」が年2回、同館用に演じる舞台はじわじわと評判を高め、幼稚園などに出張公演を依頼されるほどに。昨年「打ち切り」のニュースが流れたときは、ちょっとしたセンセーションになった。

親子に大人気の「カモメンジャー」。

親子に大人気の「カモメンジャー」。3年にわたり夏と冬に新作公演を行なってきたが、同館と劇団双方の事情から昨年でいったん終了宣言。が、復活を求める声が内外で高まり、2006年8月「新カモメンジャー」として再開した。釧路の街を支配しようとする悪者とカモメンジャーが戦うストーリーは、子供が分かりやすい教訓に満ちているが、大人が見てもうなずける要素も多い。「子供向けのキャラクターショーという意識ではなく、ぼくらの芝居の一つの形として作っています」と、「東風」代表の片桐茂貴さんは語る。
8月12・13日の復活公演では、カモメンジャーは一見ドラえもん?な、言い訳ばかりする怪人「ダッテダカラダモン」と対決した。


 「いろいろな仕掛けを考えて、いつも人の動きがある場所にしたいんです」と、学芸員の柴勤さんは語る。「しかも、じっくり長い時間いてもらえる場所でありたい。皆さん日常を離れてこの空間を訪れるわけですから、ここにいる間はゆっくり楽しんでほしいんです」。

 学芸員が場内で作品解説をするギャラリーツアーや、スライドによる時代背景のレクチャー、映画上映、ギャラリーコンサートなど、現在も企画展に関連する小イベントを展開しているが、「客足がにぶる冬に連続美術講座を行なうなど、恒常的な仕掛けも考えたい。もちろん、展示作品の良さで勝負できる(人を呼べる)のが一番ですが、“いいものがある”だけでは人はなかなか動きません。講座やコンサート、上映会があるから、“ついでに行ってみようか”となるような仕掛けを、どんどん打ち出していきたいですね」。

 とはいえ、「映像と自然」をコンセプトに集められた同館の収蔵品には、実は目を見張るものがある。金色に輝く雲を描いた岩橋英遠の「彩雲」、こんもり葉の茂る4メートルもの大木を描いた小林孝亘の「Tree」、漆黒の中に流れ落ちる瀑布を描いた千住博の「ウォーターフォール」。市内に近未来的な建築物を点在させた建築家・毛綱毅曠の珍しい絵画作品もある。
 また、国内外の秀作を集めた写真作品のコレクションは、道内屈指と評価されるもの。作品の魅力だけで も十分勝負できる“お宝”がそろっている。残念ながら常設展示はないが、毎年年末に、テーマを決めたコレクション展が行なわれる。冬に出足がにぶるなんてもったいない! このコレクション展こそ、要チェックだ。

学芸員の柴勤さん

「通年の美術講座など恒常的なイベントも行なって、いつも人の通う場所にしたいですね」と語る学芸員の柴勤さん。

「建築古事記-曼陀羅1(水)」毛綱毅曠

「建築古事記-曼陀羅1(水)」毛綱毅曠
釧路市内に数々の個性的な建物を残す建築家・毛綱毅曠のリトグラフ作品。

「彩雲」岩橋英遠

「彩雲」岩橋英遠
陽光を受けて金色に輝く雲を活写した、岩橋英遠の作品。

「魂の安息日」中江紀洋

「魂の安息日」中江紀洋
石膏で創られた「歯」が不思議に人を引きつける彫刻。


アルナルド・ポモドーロ

1926年、イタリア・モルチャーノ生まれ。建築を学び、舞台美術と貴金属細工の仕事を手掛けた後に独学で彫刻に取り組む。抽象のレリーフ作品で注目を集め、55年にはヴェネツィア・ビエンナーレに招かれた。59年に渡米。サン・パウロやヴェネツィアのビエンナーレほかで数々の賞を受賞。日本でも90年に第2回「高松宮殿下記念世界文化賞」彫刻賞を受賞。作品は、ニューヨークの国連プラザほか、世界各地の公共の場に設置されている。

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