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取材・文/編集部
明治10年、開拓使晩餐会のデザート

 アイスケーレン、フロンケッキ、ゼリ、ヅヤミタヅ――これらは、1877(明治10)年3月2日に札幌で開かれた、ある晩餐会で供されたデザートの名前。おそらく、北海道でもっとも古い時代に作られた洋菓子である。今から130年前のお菓子はどんなものだったのだろう。

開拓使札幌本庁記録局外事課

▼開拓使札幌本庁記録局外事課
『取裁録明治十年一月以后十二年二至る』より

開拓使札幌本庁記録局外事課

 メニューは道庁赤レンガの文書館に保管されている。書いたのは札幌農学校(現在の北海道大学)コックの渡邊金次郎という人。開拓使顧問のケプロンが来道したとき一緒に来たコックの一人で、コック長の立場だったと思われる。
 札幌農学校は1876(明治9)年に開校し、西洋の技術を取り入れるために、多くの外国人教師を雇った。彼らお雇い外国人の食生活は、当時としてはかなり豊かだったようで、毎日の食事を作るのに東京や横浜から洋食の専属コックを呼び寄せていたほど。また、着任・退任の際には、豪華な晩餐会が開かれていた。

 このときはブルックス(※)着任の晩餐会で、タラ、鹿、白鳥と、北海道の素材を活かした立派な献立である。つけ合わせの野菜も、イモ、トマト、豆などたっぷりあって、現代のフランス料理とほぼ変わらないフルコースになっている。ソツフ(スープのこと)、白鳥ロース、カヘー(コーヒー)、サンパン(シャンパン)などにも興味がそそられるが、今回はデザートに焦点をしぼる。料理のほうは機会があればまたいつか。

ウィリアム・ペン・ブルックス

▲ウィリアム・ペン・ブルックス『明治大正期の北海道』(北海道図書刊行会)より

 このメニューを、さまざまな文献や資料をもとに再現した料理人がいると聞き、お話を聞きにいった。元札幌パークホテル「ローザンヌ」の料理長で、現在は修学院札幌調理師専門学校で講師をつとめる松坂芳勝さんだ。
 「平成元年末ごろから、ホテルの特別メニューとして『開拓使の晩餐会』を再現したフルコースを作ったんです。北海道らしい歴史ある料理を作ろうということで、文書館にあった記録を元にしてね」
 しかし、記録にはレシピが載っていなかったため、1902(明治35)年に当時のオランダ大使館料理長よって書かれた『家庭西洋料理』など、古い料理書を参考にした。その調査は、当時の時代背景や道具にまでおよび、膨大なノートとして松坂さんの手元に残っている。

 さて、最初にある「アイスケーレン」はアイスクリームのことで、今のように生クリーム入りの濃厚な味ではなく、牛乳風味のさっぱりしたデザートだったらしい。当時はもちろん冷凍庫などないので、温度を下げるのに氷に塩を加えて使っていたようだ。「フロンケッキ」はプラムケーキ、またはフルーツケーキのことで、プラムだけでなくレーズンやカランツなど、ドライフルーツがたっぷり入った現代のパウンドケーキと思われる。

▼松坂さんのメモより
(参考:『家庭西洋料理』宇野弥太郎、渡辺鎌吉共著)

■アイスケーレン(アイスクリーム):6人前

牛乳4合、卵8個、砂糖80目、氷二貫目、塩6合
牛乳、卵黄、砂糖をとろ火であたためる。これを裏ごしし、泡立てながら冷ます。氷と塩の中に茶づつを入れ、かき回してこおらせる。

■フルーツケーキ

卵8個、砂糖80目、バター80目、メリケン粉80目、ベーキングパウダー茶匙2杯、レージェンス(レーズン)40目、カーレンヂ40目、レモンピール40目、アマンド20目
レージェンスの種をとり、カーレンヂを水洗いし、レモンピールを小さく切り、アマンドの皮をむきスライスし、これらをブランデーにつける。
卵黄、砂糖、バターを白くなるまでよく混ぜ、卵白、砂糖を泡立て、ベーキングパウダーと小麦粉を2度ふるい、さっくり合わせる。ブランデー漬けのフルーツを入れ、型に入れオーブンで焼く。

 そのほか、「ゼリ」はゼリー、「ヅヤミタヅ」は、ジャムタフィーのこと。
 残念ながらこのメニュー、今はホテルで出していないが、松坂さんはこう話してくれた。
 「お菓子も料理も、現代の私たちからみても豪華ですばらしいものばかりです。調理法も今に通じる部分が多く、それとなにより、当時の料理人たちの熱意を感じました。限られた食材で、自分たちの腕とアイデアを精一杯使って、新しい西洋の料理に挑戦しようという気持ちに感動しました」
 130年の時を経て、当時の料理やデザートだけでなく、料理人の心も再現されたようだ。

松坂芳勝さん

松坂芳勝さん(写真提供:修学院札幌調理師専門学校)

ブルックス着任の晩餐会の料理(一部)が、札幌時計台に展示されている

ブルックス着任の晩餐会の料理(一部)が、札幌時計台に展示されている。

[参考文献]

・鈴江英一編著『開拓文書の森へ』(北海道出版企画センター)
・吉田菊次郎著『西洋菓子彷徨始末 洋菓子の日本史』(朝文社)
・村岡實著『日本人と西洋食』(春秋社)
・小菅桂子著『にっぽん洋食物語』(新潮社)など

[関連記事]

※ブルックスについて
・北海道人・特集「北の花めぐり」――セイヨウタンポポの来た道
http://www.hokkaido-jin.jp/issue/sp/200205/tanpopo.html

・北海道人・続北海道を知る100冊で
鈴江英一編著『開拓使文書の森へ』を紹介しています。
http://www.hokkaido-jin.jp/issue/books_2/061.html

・北海道立文書館
http://www.pref.hokkaido.jp/soumu/sm-monjy/welcome.html

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