北海道人・特集バックナンバー HOME バックナンバー一覧

アートをめぐる人びと 関わり方・愛し方の意外な在り方2

体感・ランドアートの二つの拠点 石山緑地とモエレ沼公園 図面から実現までをフォローする「キタバ・ランドスケープ・プランニング」

ランドアートイメージ画像

取材・文/重田サキネ
写真提供/キタバ・ランドスケープ・プランニング

 札幌には、全国屈指と言えるランドアートの拠点が2つある。南区の「石山緑地」と、東区の「モエレ沼公園」だ。いずれの公園も、設計段階からアーティストが関わった国内では珍しい公共事業の例であり、また、彫刻と公園が融合したみごとな成功例であると言える。その実現に欠かせなかったのは、アーティスト・施工業者・行政、そしてその三者間のバランスを保つため奔走した、ある設計事務所のスタッフの存在だった。

■「石山緑地」――5人の彫刻家と過ごした4年間

 「石山緑地」と「モエレ沼公園」。前者は、道内在住の彫刻家で成る造形集団「CINQ(サンク=フランス語で5)」が設計から全面的に関わり、後者は1988年に没した世界的彫刻家イサム・ノグチが、生前にマスタープランを制作した公園である。
 南区石山は、かつて建材に最適とされた札幌軟石の産出地。騒音と粉塵への苦情から閉鎖を余儀なくされた石切り場を「公園として再生する」計画が持ち上がった時、新たな彫刻の可能性を模索していた「CINQ」が名乗りを上げた。公園にただ作品を置くのではなく、全体を彫刻空間として創りあげようというのだ。

 5人はアイデアを持ち寄り、話し合い、採用するものを決めた。しかし、斬新な提案は時にクライアントである札幌市の担当者を驚かせ、公園を造り慣れたベテラン施工業者をも戸惑わせた。そこで、三者をつなぐ役を、公園の設計から完成後の活用プランまでを手掛ける「キタバ・ランドスケープ・プランニング(代表・斎藤浩二さん)」の神長敬(かみなが・たかし)さんが務めることに。
 アイデアを具体的な設計図にし、現場に正しく指示、同時に安全性や予算も管理するという難役だ。

 「毎年、市の担当者や施工業者が変わるので、意思の疎通は大変でした。先生たちも、より良いものを作るために現場で変更を加えますし…。うちとしてはデザインには一切口出しせず、安らぎ楽しめる公園としての機能の保持、安全性、予算内での素材選びなど、コーディネートに徹しました」。
 最初のうちは、予算/安全性の問題から素材やデザインが限られることを不満に思う作家もいたが、歳月を重ねるうちに理解と信頼が築かれた。造形を面白がる関係者も増え、職人の中にはイメージをつかむため、「大根で形を一度作ってみたよ」という人も現れた。
 誰もが最後には、違う分野の多くの人々とコミュニケートしながら、大きなモノを作り上げていくこと…の面白みにハマっていたのである。

石山緑地で、「アーティストの視点」を神長さんが実感した一例
▲石山緑地で、「アーティストの視点」を神長さんが実感した一例。鉄柵の尖端は、侵入を防ぐ目的で普通はこちら側に向けられる。人を拒む冷たさを避け向こう側にまげられた尖端が、優しい曲線となって風景に溶け込んだ。

公開制作中の「ネガティブ・マウンド」
▲公開制作中の「ネガティブ・マウンド」。行程を見守ることで、関係者や地域住民の愛着が増していったという。

「ネガティブ・マウンド」の模型
▲「ネガティブ・マウンド」の模型。

■「モエレ沼公園」――イサム・ノグチを追い求めた日々

 神長さんが同社に入社したのは、イサム・ノグチが亡くなった翌年。進行中だった「モエレ」のプランは、関係者たちの熱意で少しずつ、実現に向けて歩みを続けていた。
 同社社長の斎藤浩二さんは、学生時代からノグチに魅せられていた人物。市が「モエレ」の計画を発表した時、「自分は彼のデザインが好きで、よく勉強している」と訴え、その思いを認められた。キーパーソンを亡くした計画は膨大な推測と検証によって進められたが、それを手掛けたのが、東京の建築事務所アーキテクトファイブと、キタバ・ランドスケープの斎藤社長。その手足となったのが、神長さんだった。

モエレ沼公園の「サクラの森」
▲モエレ沼公園の「サクラの森」。小道の先に次々と現われる遊具。

 残されたデッサンや模型を基に、過去の作品を研究して細部のデザインや素材を推測したり、ノグチ関係者を取材して「こう作ると言っていた」との証言を集めたり。判断しかねる部分については、主にニューヨーク・イサム・ノグチ財団の理事で、作品制作の長年のパートナーであったショージ・サダオさんのアドバイスを仰いだ。
 そうして図面化を進めるうち、神長さんには、作品や遊具のちょっとした位置や角度が、周囲の景観と一つになった時にいろいろな意味を持つよう作られていることが分かってきた。
 「『サクラの森』を駆け回って子供が遊んでいると、ある場所から一直線に『プレイマウンテン』が見える。行ってみたい、と思う。そんなふうにひそかな導線が仕込まれているんです。ショージさんの話では、ノグチは、自分をちっちゃくして模型の中を自由に歩き回ることができると言っていたそう。イメージの中で、彼はモエレを駆け回っていたのかもしれません」。

 一人の偉大なアーティストを掘り下げ、その感性や価値観にこれだけ深くふれることができたのは「すごい経験」。「モエレ」、そして同時進行で従事した「石山」の経験を通し、何より「“アートの力”を実感しました」と神長さんは語る。
 「ぼくはランドスケープ・アーキテクトですが、とうていまねできない。公共空間にアーティストが関わることで生まれる緊張感、アートが空間に与える変化。これを、皆さんもその場に身を置いて体感してほしいと思います」。

[関連情報]

■石山緑地
札幌軟石の巨大な石切り場跡と、緑ゆたかな落葉広葉樹林から成る都市緑地。國松明日香、丸山隆(故人)、松隈康夫、永野光一、山谷圭司らによる「CINQ」が全面的に関わり、構想・着工から4年を経た1996年に開園。毎年8月に地域住民の手で「石山緑地芸術祭」が開催されるなど、愛される公園となっています。
住所:札幌市南区石山
問い合わせ 電話:011-581-3811(南区土木部維持管理課土木センター内)

■モエレ沼公園
くわしくは、特集「公園すべてが、ひとつの彫刻 モエレ沼公園」
http://www.hokkaido-jin.jp/issue/200509/sp_01.html
「お楽しみモエレ沼公園ガイド」
http://www.hokkaido-jin.jp/issue/200509/sp_06.html
をご覧ください。

■キタバ・ランドスケープ・プランニング
http://www.kitaba.co.jp/

前のページへ大地のアート目次へ戻る次のページへ
北海道人トップページへ 特集 大地のアート