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■挽歌は流行らない

 ある魚が途絶えても必ず次の魚がくる――羅臼にはそんな言い伝えがある。
 1980年代、スケソウダラの豊漁が続き、「スケソウ御殿」と言われる豪邸が根室海峡に面した海岸に建ち並んだ。戦前、日本海岸の漁師町に繁栄をもたらしたニシンの来群(くき)。あのときと同様なことがつい最近まで根室海峡では続いていた。
 戦後、ニシンが北海道の浜から姿を消したように、90年代に入ってロシア漁船などの外国船がトロール船による収奪漁業を始め、スケソウの水揚げは激減する。90年の最盛期150億もの水揚げを誇っていたスケソウが、5年後にはわずか27億まで減少した。根室海峡にも「石狩挽歌」が流れるのかと思われた。

スケソウ最盛期のころの羅臼港
▲スケソウ最盛期のころの羅臼港。港に魚と人があふれる。(*)


 ところが、スケソウ漁船の減船で羅臼漁港が重苦しい空気に包まれていた2000年、突如イカが捕れ出す。
 根室海峡のイカは九州の南海域で生まれ、黒潮に乗って太平洋を北上。9月から10月にかけて羅臼の沖に姿を現わす。
 この年、9月中旬から一日400トン前後の水揚げが続き、水揚げは前年対比で60倍を超えた。これを聞いて、全国からイカ釣り船が羅臼港に集まり、漁港に入りきれない漁船で海に渋滞が起こるほどだった。
 突然の豊漁で不足したのがイカを保冷する氷。町内の製氷工場をフル操業しても間に合わず、羅臼の漁業関係者は道内はもとより、遠く韓国まで氷の確保に走ったという。この年、すすきのでは酔客用の氷が、密かに羅臼へと送られたのだ。



水揚げ後すぐ氷漬けにされるサケ
▲水揚げ後すぐ氷漬けにされるサケ。鮮度を保つため大量の氷が使われる。(*)

 そして現在、ピークを過ぎたイカの代わりに、サケの漁獲量が4年連続で日本一を記録している。
 ニシンの来なくなった浜には「石狩挽歌」が寂しく響くだけだが、根室海峡では、今も次から次へと新たな魚が押し寄せている。挽歌を口ずさむ暇もない。




■豊かさの秘密

 羅臼漁協流通部の竹内勉さんは、海底地形に豊かさの秘密があるという。
 根室海峡は、最も狭いところで幅25キロだが、深さは2500メートルを超えるところもある。
 「知床半島と同じように、根室海峡の海底も非常に複雑な地形をしています。こうしたところはエサが豊富です。魚礁といって、エサの巣になるようにとコンクリートブロックを海底に沈めますが、あれと同じことです。いわば、根室海峡は全体が自然の巨大な魚礁なんですね。
 また根室海峡には暖流と寒流の両方が流れ込み、とても水流が早い。魚は水流に負けないようにと一生懸命に泳ぐ。豊富なエサを食べて、たくさん運動するので、健康で元気な魚になります。人間も同じですね。こうしたことが、羅臼の魚は脂がのっていて美味しいと言われる理由なんです」。

 加えて、流氷が運ぶ植物プランクトン、知床の森から発する川水が根室海峡に注ぎ込むミネラル。これらが根室海峡の豊かさを高めている。
 「魚の城下町」。根室海峡に面した漁師町・羅臼の人たちは誇りを込めて我が町をこう呼ぶ。
 人の手によって管理されていない海を対象とした漁業。根室海峡が最後の海となるのだろう。


[関連情報]
・羅臼漁業共同組合直営店「海鮮工房」

http://www.tokeidai.co.jp/rausukumiai/
kaisen.htm
羅臼漁業イメージ画像
写真(*)は北海道アート社

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