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生命のつらなる場所 知床半島

知床の生き物 知床の基礎知識・入門編 知床半島の自然史

■多種多様な生き物たち

 知床には、せまい範囲に驚くほど多くの生き物がすんでいる。
 細長い半島に山あり、谷あり、そして海岸まである。山は海岸からすぐにはじまり、そこから1600メートルの高山帯までが自然の植生でおおわれている。森には広葉樹も針葉樹もあり、そうした植生の豊かさに加え、複雑な地形は動物に子育ての場所や隠れ家を提供するため、限られた面積のなかで数多くの動植物が生きることができる。たとえば、互いに身を隠す地形があり、季節の変化にあわせいろいろな食べ物を利用することができるため、1頭のヒグマの行動範囲は北米に比較すると数十分の1という狭さだ。
 生き物の多様性を数字で示すと、植物は855種(双子葉植物546種、単子葉植物227種、裸子植物8種、シダ植物74種)、動物は579種(哺乳類44種、鳥類269種、爬虫類8種、両生類3種、魚類255種)、昆虫は2500種以上が記録されている。このうち植物97種、哺乳類はエゾオコジョやトドなど15種、鳥類はシマフクロウやエトピリカなど29種が絶滅危惧種(※5)にリストアップされている。


野生のシマフクロウのヒナ

▲野生のシマフクロウのヒナ(*2)


流氷にのるトド

▲流氷にのるトド(*2)



※5[絶滅危惧種について]

・環境省生物多様性情報システム
http://www.biodic.go.jp/J-IBIS.html
・北海道レッドリスト(北海道環境生活部)
http://www.pref.hokkaido.jp/kseikatu/ks-
kskky/yasei/tokutei/rdb/redlist/list.html




シレトコスミレ

▲シレトコスミレ

■北と南が出会う場所

 これだけ多くの種類の生物が生息しているのに、知床には固有種(そこだけに生育する種)がない。硫黄山河口周辺のガレ場などに咲く高山植物・シレトコスミレは、知床唯一の固有種と考えられていたが、最近、択捉(えとろふ)島で確認され、国後(くなしり)島からも報告があった。
 また、日本では羅臼湖と知床沼にだけ見られるラウススゲは、千島列島やカムチャツカ半島、アリューシャン列島から北米大陸、グリーンランドと北極をとりまくように分布しており、知床は生息の南限にあたる。固有種が進化するほどの面積もなく、孤立した島でもない。その意味では独特の自然に欠けるかも知れない。
 それよりも、海氷や北方地域の生き物の南限であり、同時に落葉広葉樹など温帯の生き物の北限でもある点、北と南の両方の「せめぎ合いの場所」である点が、知床の大きな特徴といえる。



■植物

 知床では、標高ゼロmの海岸線から1600mの高山帯まで、さまざまな標高の植物を見ることができる。海岸には、在来種のタンポポやセリ科からなる自然草原、山腹は針広混交林やアカエゾマツ純林、ダケカンバ帯などの原生林、そして山の稜線にはハイマツ帯やお花畑の高山植物がある。羅臼岳の登山道など歩くと、次から次へと変化する森の様子が楽しめる。
 さらに火山や湿地があるため、草木や森にいっそうの多様性を与えている。また気候が厳しいので、高山植物が低い標高から現れるのも特徴の一つ。風が強い場所では、ふつうは標高1200〜1500mに群生するハイマツが、400m付近で生えていたり、知床岬の海岸線近くでガンコウランなどの高山植物が見られることもある。


知床峠付近のダケカンバ林

▲知床峠付近のダケカンバ林


知床岬はシカが嫌うハンゴンソウの草原

▲知床岬はシカが嫌うハンゴンソウの草原




ヒグマ
   ▲ヒグマ(*2)


エゾシカ

▲エゾシカ


ゴマフアザラシ

▲ゴマフアザラシ


オショロコマ

▲オショロコマ(写真提供:森高志さん)

■動物

 ヒグマやエゾシカ、海ではトドやアザラシ、鳥ではオジロワシとオオワシなど大型動物が生息し、しかもそれら全部を実際に見ることができるのは、知床半島だけである。
 ヒグマの生息密度は世界一といわれ、エゾシカは数千頭以上がいると推定され、森林や植生への悪影響が懸念されるほど。また、自然のエサで生きているシマフクロウは国内では知床の他にいない。
 海も哺乳類が豊かで、鰭脚(ききゃく)類はアザラシ5種とトド、鯨類はミンククジラなど9種が回遊してくる。沿岸はアザラシに加え、イシイルカとシャチが子育ての場としていることがわかってきた。また、浅い海から深海まで変化に富んだ海域のため魚類も豊富で、いまも新種が発見される。羅臼と斜里の漁業はこの自然に支えられたものである。
 ただし淡水魚の種類は少なく、知床の川でふつうに見られる淡水魚はオショロコマ1種類だけ。オショロコマは体長20センチほどのイワナの仲間で、知床では河川全域に見られる。



■アイスアルジーから始まる生態系

 アイスは氷、アルジーは珪藻(けいそう)の意味で、アイスアルジー(※6)は海にすむ植物プランクトンの仲間。冬の間は流氷の下面に付着していて、春のおとずれとともに爆発的に数が増え、生態系を支える食物連鎖の出発点となっている。
 3月ころ、海を覆い尽くしていた流氷も表面の雪が融け、氷自体も薄くなり日光が海中に到達するようになる。それまで休眠状態だった藻類(アルジー)の光合成が始まり、急に数を増やす。すると、アイスアルジーをエサにするオキアミの大発生につながり、初夏にはオキアミをエサにする数十万羽のミズナギドリやミンククジラが一斉に根室海峡をめざす。もちろん海中では魚が増え、トドやアザラシのエサとなる。流氷は、すべての生き物を育んでいるといえる。


知床半島沖の流氷

▲知床半島沖の流氷


ハシボソミズナギドリの群れ

▲ハシボソミズナギドリの群れ



※6[アイスアルジーについて]

・北海道人・特集「流氷の海へ」オホーツク海 流氷入門
http://www.hokkaido-jin.jp/issue/
200501/nyumon_1.html


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